倉敷市 倉敷公民館 〜 美観地区のど真ん中にある市民のための社会教育施設

利用しているかどうかは人によるでしょうが、日本全国「公民館」はいたるところにあります。

地域住民向けの講座や交流目的での利用が多いため、住宅地の中にあることも珍しくありません。

倉敷美観地区の中心部、本町通りにある「倉敷公民館」は、施設としての立ち位置は他の公民館と同じですが、観光地区のど真ん中にあるという意味で珍しい公民館です

この記事では、市民が利用する社会教育施設としての「倉敷公民館」を紹介します。

倉敷公民館とは

倉敷公民館の前身である「倉敷文化センター」は1953年(昭和28年)に大原總一郎(おおはら そういちろう)氏が、音楽図書室建設のため倉敷市に1,000万円寄付をしたことをうけ、1969年(昭和44年)10月3日に新築されました。

その後、1983年(昭和58年)に隣接していた市立図書館が、現在の場所(倉敷市中央2丁目)に中央図書館として移転したため、「倉敷公民館」に名称変更され、現在に至ります。

外観としての大きな特徴は、ゆったりとしたなだらかな勾配の「大屋根」です。

大屋根

これは、かつて倉敷公民館の敷地にあった、「小野家の三階蔵」をモチーフにしたといわれています。

手前:倉敷公民館、奥:新児島館(仮称)

このように「普通の公民館」とは異なった成り立ちをしていますが、竣工から50年以上の時が経ち、向かい側にある「新児島館(旧:中国銀行倉敷本町出張所)」と合わせて、美観地区に調和した建物となりました。

公民館は生涯学習のための「社会教育施設」

公民館は、市民の生涯学習のための「社会教育施設」と位置付けられ、以下のように規定されています。

地域にもっとも身近な生涯学習施設として、地域の特性に応じた講座の実施や学習情報の提供、研修・集会のための施設提供を行うなど、地域住民の生涯にわたる学習活動を支援することにより、いきいきとした人づくりや住みよい地域づくりを進めること

「倉敷公民館」は、美観地区という観光地に立地し、貸室なども行なっているため、イベントなどの催し物を行う「市民会館」のような施設と思うかたもいるでしょう。

しかし、その機能は本来の公民館と何ら変わりありません

このため、営利目的での利用はできないなど、一定の制約があります。

倉敷公民館は倉敷市に4つある「基幹公民館」の1つ

倉敷市内には、地域内の地区公民館を統括する役割を持つ「基幹公民館」が4館、中学校区内を対象とする「地区公民館」が24館あり、これらは行政が社会教育法にもとづいた管理運営をしています。

そのほかに、住民自らが設置し、運営している公民館で「自治公民館」と呼ばれるものも

これらは町内公民館・集会所などさまざまな名称でよばれ、行政が管理運営していないため、ものを売買したり、選挙のときに演説会を開いたりするなど、より自由に利用されています。

倉敷公民館は基幹公民館の1つで、2022年7月現在は12名の職員が働いています。

倉敷市の基幹公民館

  • 倉敷公民館
  • 水島公民館
  • 児島公民館
  • 玉島公民館

公民館の業務

エントランス

倉敷公民館の事業は、多く分けて3つあります

公民館の事業

  • 主催講座の企画と運営
    主催講座の内容はさまざま。セミナーなどの座学に始まり、歌声教室・手話・英会話・体操など多種多様な講座があり、これらは公民館職員(指導員)によって企画されています。
  • 「公民館グループ」の育成、指導
    「公民館グループ」は公民館を拠点として生涯学習の自主活動をする同好者の集まりです。生活・人文・芸術・健康などのさまざまな分野のグループがあり、生涯学習や仲間づくりの場として活動しています。
  • 人権教育・人権学習推進事業の実施
    公民館主催の人権教育講演会等の開催にあわせ、各中学校区で組織する人権学習推進委員会と連携しながら各種事業を行い、人権意識の高揚と人権文化の構築を目指した啓発活動を行っています。

そのほかに、住民の集会やその他の公共的利用のために、施設の貸出(貸館)をおこなっています。

会議室などの「貸館業務」がメインと思っているかたもいるかもしれません。

しかし、公民館のメイン業務は公民館が主催する講座および、公民館グループの育成・指導で、施設利用もこれらが優先されます

公民館事業(講座)の特徴

公民館のメイン事業は講座の企画・運営ですが、民間施設の趣味教養的な講座とは少々異なっています。

公民館事業(講座)の特徴を簡単にまとめると、以下のとおりです。

  • 相互学習
  • 地域に還元
  • 地域住民の暮らしを豊かに

相互学習

一般的な講座は、通信教育のように一人で学んだり、講師が一方的に話す形で進めたりすることが多いでしょう。

公民館では、まわりの人と励まし合ったり、お互いに切磋琢磨したり、講師とのコミュニケーションを大事にします。

講師だけでなく、参加者が一緒に講座を運営し、みんなで学習を作りあげていくことに特徴があります。

地域に還元

公民館で学習したことは、自分だけに留めていくのではなく、学習で得た知識を地域や地域のひとに還元していく必要があります。

講座を受講しておわりではないのです。

地域住民の暮らしを豊かに

地域には、さまざまな課題があり、地域によって内容は異なります。

解決する手段の1つが学習です。

公民館の職員は地域にアンテナを張り、住民と一緒に悩んだり必要な援助をしたり、より専門的な機関へつなぐなどして、住民の学習を支援しています。

倉敷公民館の「貸館」

談話室は誰でも予約なしで利用可能

主催講座・公民館グループの利用がない時間帯は、一般団体向けに貸館もできます。

倉敷公民館の貸館は以下のとおりです。

大ホール
和室
第3会議室
第4会議室

会議室は使用日の2か月前から、大ホールは使用日の6か月前から、展示室は使用月の6か月前の1日から、倉敷公民館の窓口で申し込むことができます

なお、社会教育法等により以下の場合は公民館を利用することはできません。

  • 営利を目的とする場合。
  • 特定の政党を支持したり、反対したりする場合。
  • 特定の宗教を支持する場合。
  • その他、管理上支障があるときは使用できないことがあります。

SPレコード約4,000枚を収蔵し蓄音機で鑑賞できる「音楽図書室」

音楽図書室

倉敷公民館には、他の公民館にはない特別な施設があります。それは「音楽図書室」。

昭和28年に戦後の倉敷市まちづくりに尽力された大原總一郎氏が、倉敷市へ1,000万円の寄付をされたことと、市民の建設への熱い想いで実現したものです。

同時に、約2,000枚におよぶSPレコードも寄贈され「大原コレクション」として活用されています。

その後、長男の謙一郎氏から、總一郎氏が愛用していた2台の蓄音機も寄贈され、現在においても来館者の耳を楽しませてくれているのです。

観光地のど真ん中にある公民館

美観地区のど真ん中に立地するため、他の公民館と異なるように思うかたも多いようですが、公民館としての位置付けは変わりません

基本的な位置付けは、市民のための生涯学習を支える社会教育施設であり教育文化施設ですが、観光地にあるがゆえの対応も多くなるそうです。

倉敷美観地区は町並みだけでなく、そこでの生活が観光地化したと筆者は思っています。

このため、現在は観光地となった美観地区のなかに、市民のための社会教育施設があることは、倉敷ならではと感じますが、倉敷公民館の仕事はどんなものなのでしょうか。

記事の後半では、館長の楠戸智子(くすど ともこ)さんに話を聞きました。

倉敷公民館館長の楠戸智子さんインタビュー

館長の楠戸智子さん

2022年4月、倉敷公民館館長に着任した、楠戸智子(くすど ともこ)さんに話を聞きました。

倉敷公民館の仕事はどんなもの?

──倉敷公民館で働いている職員さんは、どのような仕事を行なっているのでしょうか。

楠戸(敬称略)──

倉敷公民館には現在12名の職員が働いています。

大半の職員は「指導員」と呼ばれており、主催講座の企画を行なっています。

手話・体操などさまざまな講座がありますが、それぞれ担当をつけて運営しています。

──指導員はたとえば手話の先生など「専門家」なのでしょうか

楠戸──

専門家ではありません。

実際の講座は、専門家の先生にお願いすることが多いため、企画や事務作業が中心です。

公民館の講座案内をご覧いただくとおわかりいただけると思いますが、無料だったり数百円だったり、一般的なカルチャースクールが数千円であることと比較してかなり安いと思います。

指導員は限られた予算の範囲内で、公民館での生涯学習事業に理解があり、応じていただける先生を探し、かつ魅力的な内容の講座を目指して日々勉強し、奔走しているのです。

観光地にある公民館ならではの「気配り」

──美観地区という「観光地」に立地するが故の、苦労もありますか?

楠戸──

観光客の皆さまのためにトイレを開放していますので、「〜はどこにありますか」、「ランチのオススメは」など観光案内的なことを質問されることも多いですね。地元民でも知らないことを聞かれたりして、汗が出ることがあります。

観光案内をするのは、他の公民館では少ないと思いますが、「うちは公民館ですから関係ありません。案内まではできません」とは言いません。

むしろ、「公民館全体として『チーム倉敷』という意識をもって、観光客の皆さまをお迎えしておもてなしをしよう」という心構えで対応しているつもりです。

現在の館長は実務を担っている

館長室は現在、主に職員の打合せや楽屋として使われている

──倉敷公民館の「館長」という職は、どのようなことをするのでしょうか。名誉職のようなイメージもありますが。

楠戸──

私も2022年4月に着任したばかりで、まだすべてを把握し切れていませんが、昭和の時代は「名誉職」のような位置付けだったかもしれません。

当時は「館長補佐」がおり、実務を担っていましたが、平成初めの組織改正により館長補佐職は廃止され現在にいたります。

館長ならではのお仕事は、ご近所の倉敷東小学校の入学式などの行事で、来賓としておまねきいただくことです。

ただし、ここ数年は新型コロナウイルス感染症の影響で出席を見合わせています。

──ちなみに、倉敷公民館の館長に赴任する前は、どのような仕事をされていたのでしょうか?

楠戸──

「監査事務局」というところにいました。

簡単にいうと、法令や規則に沿って事務が滞りなく実施されているかを監査したり、違反しているところがあれば直してくださいとアドバイスする部署です。

市民に説明ができる行政・事務になるための活動をする部署なので、基本は職員への対応がメインで、1日中報告書をパソコンで作成するようなインドアの業務でした

ですので、市民対応はほぼなかったんですけど、倉敷公民館では市民対応、さらにいえば先ほどお話ししたように観光客の皆さまの対応もします。

また、着任間もない4月には、「館長さん、初回講座なので挨拶をしてください」と言われ、ステージにあがり、スポットライトを受けてマイクで聴衆にご挨拶もいたしました。

転職したんじゃないか、って思うくらい仕事が変わりましたね(笑)

公民館は「図書館のサテライト」として利用できる

──公民館の利用者はシニア層が多いかと思いますが、若い人にはどのように使ってほしいですか?

楠戸──

年齢制限はないのですが、平日日中の講座が多いため、若いかたはなかなか利用しづらいかもしれません。

ただ、講座を受講する以外でも公民館は活用できます。

たとえば、図書館の本を公民館でリクエストしたり、受取・返却ができます

倉敷公民館はすぐ近くに中央図書館があるため、利用価値をあまり感じないかもしれません。

ただ、この仕組みは倉敷市内の基幹公民館はもちろん、地区公民館でも機能しているので、まずはそこが一番便利ではないかと思います。

講座についても、ここ数年は実施できないことが多かったですが、夏は小学生を対象にした絵を書く講座・自由研究の助けになるような講座があるので、利用していただければと思います。

市民のみなさんへのメッセージ

──最後に、倉敷公民館を利用する市民のみなさんにメッセージをお願いします

楠戸──

2022年4月に着任して数か月しかたっていないため、表面的なことしか申し上げられませんが、一言だけ。

公民館の運営は、倉敷市公民館条例および同条例施行規則に基づき行われています。

また、貸館や講座申込も定員を超えると抽選となったり、社会教育施設であることから利用する上では制約もあります。

たとえば、営利目的の物品の売買ができないなど。

一般の貸館と異なるところもあることから、利用者のかたには十分に説明を行います。

気をつけていることは、利用者のかたには対応する職員によって取扱が変わらないよう、また前回と今回で取扱は常に同じであるよう、運営において常に公平、平等であることを大切にしています

そのようなわけで、利用者のかたから要望された事案については、ときには対応不可となることもありますが、ご理解をいただけますようお願い申し上げます。

お散歩がてら、倉敷公民館に遊びに来てください!

レトロで雰囲気がありますよ。

おわりに

筆者が小学生くらいの頃は、公民館の行事(今思えば講座だったかもしれない)によく足を運んでいました。

しかし、時が経ち利用する機会もなくなっていましたが、

公民館は生涯学習のための「社会教育施設」

という目的や公民館で働く人の話を聞いて、今は疎遠でも将来へ向けた財産になったと感じています。

「学び」は生涯続きますが、「学び」への関わりかたは歳とともに変わるはずです。

観光地にある公民館を通じて、公民館のことをもっと知ってほしいと思いました。

© 一般社団法人はれとこ