デビュー30周年!広瀬香美のアルバム「Bingo!」にみる赤裸々な歌詞の面白さ  ぶっちゃけた歌詞に圧倒的共感! アンケートハガキが証明した一番人気「DON'T WANNA WORK」

幼少期から音楽の才能を発揮していた広瀬香美

1980年代後半から90年代前半にかけて活躍した女性アーティストは、松任谷由実、今井美樹、渡辺美里、杏里、岡村孝子らがヒットチャートの常連で、アルバム制作に重きを置いて活動をしていました。しかし、90年代に入りJ-POPの時代に突入すると、ドラマやCMソング等のタイアップソングから大ヒットを生み出さなければいけないというお題が課せられたため、新たな時代に突入していくことになります。

そんな時代の過渡期に登場した、広瀬香美は競争率の高い90年代において、特にスターダムにのし上がったシンガーソングライターだったのではないでしょうか?

広瀬香美と言えば「ロマンスの神様」をデビュー曲だと思っている方もいらっしゃると思いますが、「ロマンスの神様」が発売されるのはデビューから1年半後のことなので、デビュー時はまったく無名の新人だったわけです。5歳からクラシック音楽の英才教育を受けていた広瀬香美は、6歳で「パパとママ」というオリジナル曲を制作していて、すでに幼少期からその才能を発揮していました。

国立音楽大学音楽学部作曲学科在籍中に、自身の才能の限界に打ちのめされた出来事があり、友人を訪ねLAに気分転換に行きます。そんなLAで、マイケル・ジャクソンやマドンナのライブを観て感激し、ポップミュージックに目覚めることになるのですが、マイケル・ジャクソンのヴォイストレーナーであるセス・リッグスのオーディションを受け見事合格し、東洋人で初めての合格者となり約3年間師事しています。そんな時期に制作したデモテープがビクターのディレクター田村充義の目に留まり、見事シンガーソングライターとしてデビューすることになるわけです。

遅すぎるデビューにレコード会社内では賛否両論?

そして、今からちょうど30年前の1992年7月22日に記念すべきファーストアルバム『Bingo!』が発売されるわけですが、いきなりアルバムデビューを果たすことになったのでした。

先日、現在も広瀬香美のディレクターをされている田村充義さんに直接お話をうかがったのですが、当時彼女のデモテープを聴いてかなり才能を感じたそうです。そのデモテープにはすでに名バラードが収録されていたそうですが、広瀬香美はすでに25歳になっていて、遅すぎるデビューにレコード会社内で賛否両論あったそうです。

しかし、当時の田村さんは小泉今日子、嘉門達夫、フライング・キッズなど多くのアーティストのヒット曲を世に送り出していた時期だったので文句を言える人はいなかったかもしれません(笑)。そんなヒットメーカーだった田村さんは、アメリカナイズされた感覚の彼女の書く歌詞に注目することになります。

アンケートハガキで立証、一番人気は「DON'T WANNA WORK」

当時、女性の本音を歌詞に投影するアーティストは少なかったので、赤裸々な歌詞に面白さを見出したそうです。『Bingo!』のオープニングを飾る軽快なリズムの曲「I DON'T WANNA WORK~働きたくなんかない~」は、主人公が毎日の会社勤めに嫌気が差し、「働きたくない!」と繰り返す歌なのですが、ここまでオブラートに包まず本音を歌うシンガーソングライターは当時とても珍しかったと思います。

CDの中に封入されているアンケートハガキでは、この「I DON'T WANNA WORK~働きたくなんかない~」が一番人気だったそうですから、緻密なマーケティングの結果「ロマンスの神様」のようなヒット曲が生まれたのかもしれません。ちなみに「13日の金曜日」もOLが主人公のブラックユーモアあふれるキャッチーな1曲です。

他にも、多重コーラスで始まる「幸せのリズム」、レゲエアレンジで歌われる「言えない気持ち」、ブラコン風アレンジ「MY HOME ALONE」等、バラエティに富んだアレンジの曲が際立っています。このアルバムの中では「DON'T GO AWAY」が人気曲なのですが、メロウなブラコンアレンジのバラードであるこの曲は、2001年発売のベストアルバム『広瀬香美 THE BEST Love Winters〜ballads』、2010年発売のセルフカバーアルバム『名曲アルバム』にも収録されているので、ファンならずとも納得の名曲です。

ジャケットが変更になった理由とは?

ちなみにこのアルバム『Bingo!』とセカンドアルバムの『GOOD LUCK!』はのちにジャケットが変更になっていることはご存じでしょうか?

この2枚のジャケットを気に入っていなかったかどうかは定かではないのですが、「ロマンスの神様」が発売される前、スタッフと談笑している時に、もし「ロマンスの神様」が売れたら2枚のアルバムジャケットを差し替えて欲しいという要望を冗談交じりで話をしていたのだそうです。そして結果「ロマンスの神様」が200万枚に迫る大ヒットになったので、この要望は見事叶えられたということになります(笑)。

当時、『Bingo!』は残念ながらチャートインしていないのですが、改めてアルバムを聴いてみると、すでにデビューアルバムから広瀬香美の個性のエッセンスが色濃く出ていた作品だったということがお判りいただけると思います。

TikTokでバズった! 若い世代の心も掴んだ広瀬香美

最近TikTokで「ロマンスの神様」がバズっているそうですが、名曲というのは歳月が流れ、リアルタイムを知らない若い人の心も掴むということがわかり、何だかとても嬉しくなりました。

今年でデビュー30周年を迎えられる広瀬香美さんですが、どの時代にも常に話題を振りまいてくれるアグレッシブな活動を、これからも楽しみにしております。

カタリベ: 長井英治

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