北極海観測の切り札に 日本初の「研究船」、横浜で建造 海氷域も航行可能 気象予測の精度向上にも

北極域研究船の北極海における観測活動のイメージ(JAMSEC提供)

 日本初の「北極域研究船」の建造が横浜市内で動き出した。速いペースで温暖化が進む北極海の観測は、日本へ近づく台風の進路予測の精度向上や豪雪のメカニズム把握につながるという研究成果もあり、最新設備を搭載する研究船に注目が集まっている。

 北極域研究船は昨年8月、運用する海洋研究開発機構(横須賀市、JAMSTEC)が造船大手のジャパンマリンユナイテッド(横浜市、JMU)に335億円で発注した。JMU横浜事業所磯子工場(同市磯子区)で建造され、2026年度の就航を目指している。

 研究船は全長128メートル、幅23メートル、国際総トン数は約1万3千トンで、乗員は99人。厚さ1.2メートルの海氷を3ノットの速度で砕氷できる能力があり、ドローンや無人探査機、気象観測に使う「ドップラーレーダー」なども搭載する。

 JAMSTECは1998年からほぼ毎年、海洋地球研究船「みらい」で北極海を観測してきたが、砕氷能力がないため、海氷域には入れず、最大でも北緯79度までの到達が限界だった。北極域研究船について「北極海は世界のどこよりも早く環境が変化しており、豪雪など日本の気象にも影響を与えている。研究が進めば、それらの影響がより正確に把握でき、将来どうなっていくか予測の精度向上につながるだろう」と意義を説明する。

 海氷が溶ける夏場の北極海には、新たな航路としての期待もある。文部科学省は2017年、「北極域研究船の在り方の検討結果」を公表。JAMSTECによる調査検討や基本設計を経て、発注にあたっては海氷域はもちろんのこと、海氷のない海域の航行や観測性能も重視した。

 JAMSTECは「北極域研究船推進室」を横浜研究所(横浜市金沢区)に置く。磯子工場とは約1キロと非常に近い距離にあり、両者は「利便性がよく、コミュニケーションが取りやすい」という。

 JMUは南極観測船の砕氷艦「しらせ」を09年に建造した実績もあり、「しらせなどでの実証とさらなる研究により得た知識と経験を総動員して、わが国が誇れる研究船となるよう建造にまい進する」としている。

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