【インタビュー】“褥瘡専門薬剤師”の展望/「将来的に専門医療機関連携薬局の新しいカテゴリーになりたい」/日本褥瘡学会 理事 小黒佳代子氏

【2022.07.29配信】日本褥瘡学会は7月4日に、薬剤師会員を対象とした「褥瘡・創傷専門薬剤師」の認定を開始することを発表した。同認定制度の経緯や展望について、同学会理事で薬剤師の小黒佳代子氏に聞いた。

看護師が多い学会だが薬剤師会員が増えてきた

――小黒先生には、実は以前から「褥瘡・創傷専門薬剤師」認定制度の創設に向けてご尽力されているというお話をうかがっていました。改めて、これまでの経緯などを教えていただけますか。

小黒 私が日本褥瘡学会に入会したのが、7年前でした。

古田勝経先生の講演を聞いたことがきっかけでした。古田先生は現在、学会の名誉会員でもあり、褥瘡に取り組む薬剤師の第一人者です。ちょうど平成23年に「褥瘡サミット」というイベントが私の薬局のある群馬県で開かれ、そこで古田先生のお話を初めてうかがい、「こんなふうに褥瘡に真剣に関わっている薬剤師がいるんだ」と感銘を受けました。そこから古田先生の講義に何回か出ていくうちに、本格的に学会に入って勉強してみようと思ったんです。

その当時というのは、薬剤師は学会にはパラパラとしかいなかった状況でした。しかし、徐々に薬剤師会員が増え、薬剤師の評議員も増えてきました。

学会正会員の現在の職種比率では、看護師が最も多く4658人(62.0%)で、次いで多いのが医師で1526人(20.3%)。その次に多いのが薬剤師で640人(8.5%)となっています。ほかに栄養士や理学療法士、介護職の方々などがいます。

薬剤師の理事はずっと1人だったものが、その後に2人になりました。病薬で理事だった関根祐介先生(東京医科大学病院 薬剤部)の任期が終わった時に、薬局薬剤師が1人理事に入った方がいいだろうという声が出て、私が推薦されました。ちなみに褥瘡学会は、理事は2年を1期とし、3期までの再任が可能となっています。

今春の診療報酬改定も追い風

――小黒先生を中心に、薬剤師対象の認定制度を作りたいというご活動を始められたわけですね。

小黒 改正薬機法に伴い、8月に専門医療機関連携薬局制度が施行になったことがきっかけです。専門医療機関連携薬局の新しいカテゴリーとして、褥瘡分野を作りたいと思いました。

褥瘡は在宅療養の患者さんでとても困っている方がいる半面、褥瘡対策はドレッシング材(創傷被覆材)の1つをとっても、創の浸出液の増減によってどのようなドレッシング材にするかということや、外力によるずれを考慮した貼り方などの指導が必要です。また、外力の影響を考えるときには、患者さんのADLや生活環境、生活導線も観察しなければなりません。軟膏などの外用薬も同様です。とても、専門性の高い領域なのです。

褥瘡学会に属する薬剤師の中で新しい認定制度を検討し、昨年11月の総会で提案をしました。理事長より「学会を挙げて応援します」というお言葉をいただき、承認されました。

タイミングもよかったのです。今春の診療報酬改定で褥瘡対策(入院基本料等の施設基準)に薬剤師も関わることが明文化されました。薬剤師の関与について、認識が広がっていたタイミングでもあったと思います。ここには、褥瘡対策に取り組んできた現場の薬剤師の先生方の実績が評価された面があると思っています。

「取得には2年ほどかかるかも」

――取得するのは大変な資格なのでしょうか。

小黒 大変な資格だと思います。学術講習100単位と実技研修40単位、1単位1時間が原則なので、基礎資格の褥瘡認定師や在宅・褥瘡予防管理師を取得している会員でも取得までに2年くらいはかかるかもしれません。「そんなに厳しくしたら取る薬剤師さんがいないのでは」という声も理事会であがりましたが、さきほど申し上げたように、いずれは専門医療機関連携薬局としても認められる資格にしたいとの思いがあったため、高い専門性を持つ資格にしました。

細則の第9条に開始年度の専門薬剤師については、施行規則に準ずる相当の実績である薬剤師を学術教育委員会、薬剤師教育作業部会により推薦して理事会で認定を受けることになっています。ですから、来年に開始年度の専門薬剤師を認定し、一般の公募が2024年からということですね。臨床研修では、研修責任者は褥瘡・創傷専門薬剤師がいないとできないことになっていますので、まずは臨床研修を担当できる専門薬剤師の養成が必要となっています。

――症例を集めるのも大変なのでしょうか。

小黒 もともと学会には褥瘡認定師と、在宅褥瘡予防・管理師という薬剤師も取得できる2つの資格があり、その上位資格として専門薬剤師をつくる形になります。2つの資格取得を基礎資格としています。基礎資格では取得時、更新時にも症例は出すことになっていますので、専門薬剤師での症例提出は求めていません。

規制改革の動き「患者さんを中心に」

――「規制改革推進に関する答申」でも「薬剤師による患者の褥瘡への薬剤塗布等の行為に関して適否や必要性、実施可能性等の課題について整理を行う」ことが閣議決定され、タスクシェアの動きが出ていますね。この動きについては、どのように考えていますか。薬剤師さんが今は褥瘡への薬剤を塗ってはいけないわけですよね。

小黒 塗ってはいけないのではなく、処置してはいけないんです。私達は処置ではなく、実技指導なので目的が違うんです。看護師さんは治すために毎日処置しており、私達はその処置が適切かどうかを実技指導するということです。理想的なのは、治らないときに原因を一緒に解明し、一緒に早く治すための方法を考えることです。

――実技指導といいますと、褥瘡に詳しくない看護師さんに教えるということですか。

小黒 患者さんに関わっている方々やご家族にお伝えするということですね。それは個別の信頼関係がとても大切です。初めてご一緒する看護師の方に「教えます」なんて言いませんよね。一緒に患者さんの状態を見ながら、場合によって「こうしてみたらどうでしょうか」と提案します。それを繰り返していくことで、褥瘡の患者さんについて初めから「小黒さん、来てもらえませんか?」と声をかけていただけるようになりますね。

――今回の規制改革の議論や報道の仕方について、先生はどう感じていますか。

小黒 実際、訪問看護師さんはとても忙しいので、例えば看護師さんのお休みの日は処置しない日になってしまうことも想定されますね。そういった時に私達が実技指導の一環でフォローしつつ、そこを担うようになれれば、それは看護師さんのお役にも立てることだと思いますし、また、患者さんにとってもメリットがあることだと思います。

――改めてですが、プログラムの内容について、どういうことが学べるのかを教えてください。

小黒 褥瘡だけでなく、創傷も含んでおり、外用剤の基礎が学べます。それから褥瘡については発生やポジショニング、あとは栄養についてです。褥瘡は薬だけでも治らないし、栄養だけでも治らないし、それこそ体位変換すれば治るというものでもないので、薬以外の知識があることで他職種に繋げていけるようになります。褥瘡が起こる発生要因と悪化するような環境などを全て学ぶことができ、特に薬のことは深く学ぶことができます。

――専門医療機関連携薬局の1つにしたいというのは、褥瘡というのを専門領域として認めた方がいいということでしょうか。

小黒 はい。正直、薬剤師にも軟膏の中身の色すら知らない人はいます。薬局は小売業で物販もできますが、ドレッシング材も栄養食品なども、もちろん薬も色々な種類があってその使い方をちゃんと指導できるところに行くことが大切です。ドレッシング材を全然知らないところに行ったら、物もないし取り寄せてくれたとしても使い方を教えてもらえないことになってしまいます。ですから、これは専門領域だと思いますし、専門領域だから褥瘡学会があるんだと思います。

――褥瘡領域を専門医療機関連携薬局として認める意義はどのようなところにありますか。

小黒 専門医療機関連携薬局は「がん」など、いわば薬局の専門分野を標榜して良くなったわけです。そこに褥瘡・損傷なども加わっていけば、患者さんにとって薬局を選びやすくなり、すごくメリットだと思います。専門医療機関連携薬局について分かりにくいと医療関係者の方から言われることもあるのですが、診療所にも内科・皮膚科・外科など標榜していますよね、それと同じですと説明しています。地域の褥瘡・皮膚創傷に関わる牽引的な存在となれるでしょう。

――薬剤師を雇用している薬局、病院側も経営にも資する部分が出てくるので、薬剤師さんに取得を支援しようというインセンティブにもなりますよね。

小黒 なると思いますね。

より多くの参加で薬剤師の役割の認知拡大をしたい

――8月27日と28日に学会の学術集会がありますね。

小黒 2日間参加することで、学術講習単位が10単位取れます。また、学術集会への参加は単位だけでなく、申請時より4年以内の参加を義務付けています。それから実技研修が取得できるのも大きいですね。実技研修は新型コロナウイルス感染症への感染を考慮して、これまでより大幅に人数を減らし、60名までとしています。先着ではなく、抽選となっておりますので、実技研修は今回は参加できない可能性もありますが、今後も開催していきますので適宜チェックしていただければと思います。

さきほど申し上げたように、日本褥瘡学会には褥瘡認定師と在宅褥瘡予防・管理師という2つの資格があります。褥瘡・創傷専門薬剤師だけでなく、その2つのいずれかの資格をまずは取得されて褥瘡への知識を深めていただければと思います。

学会内には看護師が多いので、薬剤師の先生方に多くの参加をいただくことで、学会内でも薬剤師の役割について知っていただくことになればいいと思っています。

――ありがとうございました。

オンラインで取材に応えた日本褥瘡学会理事の小黒佳代子氏

おぐろ・かよこ●1989年昭和薬科大学を卒業後、順天堂大学医学部附属順天堂医院の薬剤部で薬剤師として従事していたが、結婚を機に退職。2002年調剤薬局に勤務を始める。2社を経て、2008年現在の株式会社ファーマプラスの専務取締役として就任。医療における薬剤師の役割を探求し、在宅活動を始める。他職種や地域に求められる薬局薬剤師として活動中。
【所属学会】日本褥瘡学会理事、日本在宅薬学会評議員、日本緩和医療薬学会、日本臨床腫瘍薬学会、日本プライマリ・ケア連合学会、日本医療薬学会
【認定】在宅療養支援認定薬剤師、在宅褥瘡予防・管理師、地域薬学ケア専門薬剤師(がん)暫定認定

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