欧米の火星サンプルリターン計画、サンプル保管容器を回収する小型ヘリ搭載へ

【▲ 最新の内容を反映した「火星サンプルリターン計画」のイラスト(Credit: NASA/ESA/JPL-Caltech)】

アメリカ航空宇宙局(NASA)は7月27日付で、欧州宇宙機関(ESA)と共同で取り組んでいる「火星サンプルリターン計画」(Mars Sample Return Program)について、システム要件審査(system requirements review)が完了したことを明らかにしました。NASAによると、地球に持ち帰るサンプルを回収するための手段の一つとして、新たに2機の小型ヘリコプターが火星に送り込まれることになるようです。

■採取されたサンプルはPerseverance自身が着陸機まで運ぶことに

NASAとESAは現在、火星表面で採取したサンプルを地球に持ち帰るための一連のミッションを共同で計画・実施しています。今まで人類が手にしてきた火星の岩石サンプルは隕石として火星から地球へ飛来したもの(火星隕石)に限られていましたが、この火星サンプルリターンミッションが成功すれば、人類は火星で直接採取されたサンプルを初めて手にすることになります。

【▲ サンプル採取に使われるPerseveranceのロボットアーム先端にあるコアリングビット。内部に採取された岩石が見えている(Credit: NASA/JPL-Caltech/ASU)】

火星サンプルリターン計画は「火星でのサンプル採取」「サンプルの回収と打ち上げ」「サンプルを地球へ輸送」という三段構えのミッションで構成されています。このうち第1段階となる「火星でのサンプル採取」は、2021年2月に火星のジェゼロ・クレーターに着陸したNASAの火星探査車(ローバー)「Perseverance(パーセベランス、パーシビアランス)」によって、すでに進められています。

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Perseveranceには採取したサンプルを保存するためのチューブ状の容器が合計43本搭載されていて、このうち30本ほどに岩石サンプルが密封される計画です。NASAによれば、Perseveranceは2022年7月27日の時点で9本のサンプル採取を終えています。

Perseveranceが採取したサンプルは、NASAの着陸船「SRL」が担当する第2段階「サンプルの回収と打ち上げ」のミッションで回収され、小型ロケット「MAV」を使って火星の周回軌道へ打ち上げられます。軌道上には第3段階「サンプルを地球へ輸送」のミッションを担当するESAの探査機「ERO」が待ち構えていて、MAVから放出されたサンプル入りの球形コンテナをキャッチ。コンテナはEROに搭載されている回収カプセルに収容され、地球に運ばれるという流れです(※)。

※…SRL:Sample Retrieval Lander(サンプル回収ランダー)、MAV:Mars Ascent Vehicle(火星上昇機)、ERO:Earth Return Orbiter(地球帰還オービター)

【▲ 従来の内容にもとづいた「火星サンプルリターン計画」のイラスト。中央奥にESAのサンプル回収用ローバーが描かれている(Credit: NASA/ESA/JPL-Caltech)】

NASAが7月27日に開催したメディアブリーフィングでは、サンプルの回収と打ち上げを担う第2段階のミッション内容が変更されたことが明かになりました。

従来の計画では、Perseveranceが採取したサンプルを収めた保管容器は火星表面に置かれ、ESAのローバー「SFR」(Sample Fetch Rover、サンプル回収ローバー)が拾い集めることになっていました。しかしNASAによると、最新の計画ではSFRを使わずに、Perseverance自身が着陸機までサンプル保管容器を運ぶことになったようです。サンプル保管容器は着陸機SRLがロボットアームを使って受け取り、小型ロケットMAVに積み込んでから火星周回軌道へ向けて打ち上げられます。

ESAのローバーSFRは小型ロケットMAVとともにNASAの着陸機SRLに搭載される計画でしたが、1つの着陸機で実施するのはリスクが高いとして、MAVとSFRをそれぞれ搭載する2機の着陸機を用意することも検討されていました。Perseveranceがサンプルを運ぶことができれば、新たにローバーを送り込む必要がなくなるため、着陸機はMAVを搭載する1機だけで済むことになります。

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【▲ サンプルを載せて火星表面から打ち上げられた小型ロケット「MAV(Mars Ascent Vehicle)」の想像図(Credit: NASA)】

また、サンプルを回収する2次的な手段として、2機の小型ヘリコプターが着陸機に搭載されることになりました。このヘリコプターは、Perseveranceに搭載されて火星に着陸し、2021年4月に人類史上初の「航空機による火星での制御された動力飛行」に成功した小型ヘリコプター「Ingenuity(インジェニュイティ)」をベースに開発されます。ヘリコプターには、火星表面に置かれた保管容器を拾い上げるための小さなロボットアームが搭載される見込みです。

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NASA科学ミッション本部副本部長のThomas Zurbuchenさんが「重要かつ有利」と語るこれらの計画変更は、着陸から1年半近くが経ったPerseveranceのこれまでの実績にもとづく信頼性と寿命の予測や、間もなく着陸から10年を迎える火星探査車「Curiosity(キュリオシティ)」の実績が考慮されています。

なお、現在の計画では、ESAが担当する地球帰還用の探査機EROは2027年秋に、小型ロケットMAVを搭載したNASAの着陸機SRLは2028年夏に打ち上げられます。Perseveranceが採取を続けている火星表面のサンプルは、11年後の2033年に地球へ届けられる予定です。

【▲ 火星サンプルリターンのコンセプト。サンプル保管容器はMAV先端に搭載された球形のコンテナに移し替えられた状態で火星の地表から打ち上げられ(左)、軌道上でESAの帰還用探査機がキャッチ(中央)。コンテナは探査機に搭載された回収カプセルに収容され、地球まで運ばれる(右)(Credit: ESA/ATG Medialab)】

Source

  • Image Credit: NASA/ESA/JPL-Caltech
  • NASA/JPL \- NASA Will Inspire World When It Returns Mars Samples to Earth in 2033

文/松村武宏

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