ストレンジャー・シングス効果!メタリカ「メタル・マスター」再びブレイク!  人気ドラマを通じて当たったスポットライト。世代も時代も超えて人々を魅了するマスターピース

NETFLIXの大人気ドラマが火をつけた、メタリカ36年ぶりのリバイバルヒット

2022年8月3日はメタリカのジェイムズ・ヘットフィールドの59歳の誕生日。

メタリカのアルバム『メタル・マスター(Master of Puppets)』のリリースから36年。80年代当時には想像し得なかった興味深い事象が、最近になって次々と起こり音楽シーンを賑わしている。アルバムのタイトル曲「メタル・マスター(Master of Puppets)」が、突如としてSpotify Globalチャートで12位まで上昇。米英ではトップ10入りし、日本のSpotifyバイラルトップ50チャートで1位を獲得するに至った。

かつて、ファイル共有ソフトサービスのナップスターと骨肉の争いをしたメタリカが、何かとアーティストとの間で物議を醸し出している音楽ストリーミングサービスのSpotifyを通じて、自らの音楽を知らしめているのは隔世の感があり、何とも不思議な気持ちになってしまう。さらには、全英シングルチャートで14年ぶりのTOP 40入りとなる22位まで上昇、ヘヴィメタルバンドによる80年代の楽曲としては、異例のリバイバルを見せている。

そのきっかけはNETFLIXの大人気ドラマ『ストレンジャー・シングス4』に「メタル・マスター(Master of Puppets)」が使われたことだった。

僕も早速に当該回を観てみたが、単に挿入歌や主題歌に選ばれたのではなく、劇中の重要なシーンに組み込まれた形で楽曲が扱われていた。エディ役のジョセフ・クインが敵から身を守る手段として、「メタル・マスター(Master of Puppets)」をギター演奏することで魔力が呼び起こされるという、予想し得ない展開には驚かされた。これ以上ない形でメタリカの楽曲が効果的に使われており、多くの視聴者の聴覚をも捉えるインパクトを与えたのだろう。

劇中で流れるヴァージョンは、オリジナル音源そのままではなく、メタリカのベーシスト、ロバート・トゥルージロの17歳になる息子、タイ・トゥルージロがアディショナル・ギターで参加しているのも話題を呼んだ。

さらに、ジョセフ・クインが「メタル・マスター(Master of Puppets)」を実際にギター演奏した動画をTwitterに公開したり、メタリカのメンバー自身がドラマの場面に合わせて当て振りした映像をTik Tokに公開したりと、様々なブラットホームを通じてバズっており、その勢いはさらに広がりを見せている。

スラッシュメタルのままでメインストリームを席巻

そんな話題の楽曲「メタル・マスター(Master of Puppets)」を収録したアルバム『メタル・マスター(Master of Puppets)』は、今は亡きクリフ・バートンとともに創り上げた、HM/HR史に燦然と輝く説明不要のマスターピースだ。近年、アメリカ議会図書館の国家保存重要録音作品に初のメタル系として選ばれた事実が、本作のロックシーンにおける位置づけを物語っている。

LAメタルに端を発した全米における80年代のHM/HRムーブメントは、音楽シーンのメインストリームへとHM/HRを押し上げたが、ジャンル本来が持つ反逆性や激しさは次第に削がれていく。MTVでのプロモーションを中心に登場するバンドの多くは、一様にカラフルな衣装と盛り盛りヘアに身を固め、キャッチーな音楽性も相まって、まるで流行りファッションのように商業化していったのも事実だ。

そうした流れへのアンチテーゼとして生まれたのがスラッシュメタルであり、その先駆者のひとつがメタリカだった。ダイアモンド・ヘッド等のNWOBHM(ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィメタル)勢からの影響と、モーターヘッド直系の圧倒的なスピード感を巧みに融合した、極端に振りきった激しく個性的なサウンドは、硬派なメタルマニアに圧倒的支持を集めていく。メインストリームに躍り出たHM/HRバンド群と対峙するかのように、瞬く間にアンダーグラウンドなメタルシーンを構築していった。

以前のコラム『メタリカが導き出した最適解、懐かしむより超えていけ!』でも触れたが、一般的には未だマイノリティの域を出なかったファースト、セカンドアルバムを経ながら着実に進化を遂げ、メジャーレーベルと契約したメタリカは、スラッシュメタルの完成形として『メタル・マスター(Master of Puppets)』をシーンに送り出した。

1986年の発売当時、僕は予約して買った日本盤LPのシュリンクを丁寧に破り、針を落として一気に聴き進めた時の深い衝撃を今も記憶としている。スラッシュメタルバンドとしての過激さはそのままに、密度の濃いクランチリフと、圧倒的に整合性を増した音塊が雪崩のごとく襲いかかり、聴覚を刺激していく。マニアックなカテゴリーに過ぎなかったスラッシュメタルを、メインストリームのシーンで受け入れられるほど、格段にレベルアップさせた究極のメタルに震えがとまらなかった。

アルバムは全米ビルボードの29位まで上昇し、MTVに頼ることなく過酷なツアーを重ねた結果としての成功を納めた。今でこそメタリカでその程度だったのかと順位が低すぎるように思えるけど、当時の感覚では、「あのメタリカが全米TOP40に食い込むなんて時代が変わった!」と驚愕したものだ。

アンダーグラウンドの英雄からメインストリームのど真ん中へ。白を黒に塗り込めていくように勢力を拡大したメタリカは、その後、クリフ・バートンの予期せぬ悲劇を乗り越え、スラッシュメタルから次第に脱皮しながら、『ブラック・アルバム』で世界的なモンスターバンドへの昇り詰めていったのは周知の通りだ。

世代も時代も超えて人々を魅了する、真のマスターピース「メタル・マスター」

『メタル・マスター(Master of Puppets)』は、ここ日本においても幾度かのタイミングで再評価されてきた。中でも興味深かったのが、2006年8月にサマーソニックで来日した際のライヴパフォーマンスだ。アルバム発売から20周年を祝うべく、この時のメタリカは『メタル・マスター(Master of Puppets)』全曲の完全再現を敢行した。

80年代の多くのHM/HRバンドにとって悪夢となった90年代のオルタナ・グランジブーム。メタリカはその影響を受けるどころか、巧みにサウンドを変貌させながらシーンを先導し、旧来のメタルにとらわれない新たなファン層の裾野を広げてきた。ボーダレスな音楽ジャンルのファン層が集う、サマーソニックのヘッドライナーに抜擢されたのは、メタリカがもはや、オールドメタルファンのためだけに存在するバンドではなくなった事実を改めて示すようだった。

『メタル・マスター(Master of Puppets)』完全再現に、古参のファンが懐かしさで歓喜したのは勿論だが、同時にそれは、後追いで知った若いファン層や、メタリカ初体験のオーディエンスにも確実にアピールしたはずだ。一部のオールドファンは、メタリカの昔の楽曲やライヴでの流儀を知らないファンが増えたことを嘆いていたけど、それは野暮な話だ。なぜならメタリカは、自らが奏でる音楽のチカラで、常に新旧のファンを分け隔てなく巻き込みつつ、モンスターバンドへと成長してきたからだ。サマーソニックでの『メタル・マスター(Master of Puppets)』の再提示は、その象徴的な出来事となった。

それから16年後の現在、前述したように今度は人気ドラマを通じて「メタル・マスター(Master of Puppets)」にスポットライトが当たったことで、若い世代に馴染みやすいプラットフォームの活用も相まって、新たなファン層の拡大に繋がったのだ。

シングル楽曲として再提示された「メタル・マスター(Master of Puppets)」でメタリカの魅力に気づいた新たなファンは、音楽ストリーミングサービスでアルバムを聴き、そこから他のアルバム、楽曲や映像も含めたメタリカの歴史を辿る旅路に出ることだろう。

ドラマをきっかけにメタリカが好きになったファンを揶揄する一部の声に対して、メタリカは「メタリカファミリーは誰でも歓迎だ。40時間前からのファンであろうと、40年来のファンであろうと、俺たちとみんな音楽を通じて絆で結ばれている」というコメントを出している。実に印象的なスタンスであり、個人的にとても感銘を受けた。

バンドやアーティストが歴史を重ねるほどに、新旧ファンの間には何かと溝が生まれてしまいがちだ。そんな中で、ファンの誰もが平等に大切だというメタリカのスタンスは、彼らの長き活動の中で貫かれているものだ。例えば、デビュー以来並走してくれるオールドファンには、貴重なBOXセットを企画したりしてマニア心をくすぐり、一方で新規の若いファン層が聴きやすいように、様々なプラットフォームで楽曲を解禁したり、常に柔軟な姿勢を見せてくれる。

ステージのセンターにファンを招くなど、メタリカが凡百のロックバンドでは思いつかないファン目線のアイデアを次々と具現化しているからこそ、新たなファン層を着実に増やしながら、その存在は益々大きくなっていくのだろう。

振り返ると、2013年にメタリカが最後の来日をしてから、早10年近い歳月が経過してしまった。洋楽アーティスト公演の知らせがようやく届き始めた今こそ、世界の状況と比べてコロナ騒動から脱却できずにいる日本に、メタリカの普遍なるパワーを与えてほしいと願わずにはいられない。何より今回「メタル・マスター(Master of Puppets)」のリヴァイバルを通じて新たにメタリカの虜になった若い世代にこそ、ライヴパフォーマンスで轟音をいつか体感してほしいものだ。

カタリベ: 中塚一晶

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