憲法9条と敵基地攻撃能力、整合性は 元内閣法制局長官阪田雅裕さんに聞く

阪田雅裕さん

 ロシアのウクライナ侵攻後、防衛力強化の世論が高まる。米国の核兵器を日本国内で共同運用する核共有論も浮上した。2015年に安全保障関連法が成立後、憲法9条2項が保持を禁じる「戦力」の概念が揺らいだままだ。次々と持ち上がる強硬策をどう解釈すればいいのか。元内閣法制局長官の阪田雅裕さんに聞いた。

 ─自衛のためなら核保有は全面的に禁止されていない、との従来の憲法解釈を現政権も踏襲しています。

 「政府は、他国の国土の壊滅的な破壊のみに用いられる兵器を持つことは、憲法上認められる『自衛のための必要最小限度の実力』を超えるから、許されないとしてきました。大陸間弾道ミサイル(ICBM)、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母を例示していますが、核兵器は当然その筆頭です。過去に持ち得ると述べたのは、例えば核地雷のように専ら自国防衛のために用いる核兵器があるとすれば、という仮定の論理であり、そのような核兵器が開発されそうもない以上、日本に核武装の余地はありません」

 ─その9条について、改憲が悲願だった故・安倍晋三元首相の「思いを受け継ぐ」(岸田文雄首相)と情緒的に論議が進められているように思えます。

 「何のためにどこを変えるのかが重要です。改正そのものに意味があるわけではない。全く改正されてこなかった憲法は世界的に珍しく、不磨の大典のようになってしまったのは好ましいことではなく、必要に応じて改正するべきだとは思いますが、いまの改憲論議からは具体的にどんな不都合があるのかが分からない。自民党の改憲4項目(自衛隊明記、緊急事態条項の創設、参院合区の解消、教育の充実)は、どれも必要性を感じません」

 ─自衛隊の明記は可能でしょうか。

 「9条2項を残したまま、いまの自衛隊を明記するのは非常に難しい。安保法制前の憲法解釈なら、それなりに可能だったと思うが、いまは自国防衛のためだけでなく、集団的自衛権を行使して海外でも武力行使ができるようになりました。2項を維持しながら、その自衛隊を書き込むのは矛盾でしかありません。どうしても書くのなら、集団的自衛権の行使が存立危機事態に限られる旨を明記するほかありませんが、それは安保法制を国民投票で問うのと同じことになります」

 ─明記したとしても、自衛権の制約は変わらないと自民党は主張しています。

 「政府はいまも防衛戦略の基本方針として『専守防衛』を掲げていますが、そもそも専守防衛とは、わが国が攻撃されない限り、海外を含めて武力行使することはないという意味でした。集団的自衛権の行使が一部容認されたことにより、わが国が直接攻撃を受けなくても、外国の領域でも武力行使できるようになりました。安保法制前後で専守防衛の意味が一変したのに、現在の専守防衛とは何か、必要最小限度の実力行使はどこまでか、その後の国会論議はなく、はっきりしないままです。自衛隊は戦力とどう違うのか、改めて明確にする必要があります」

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