第5回:伊藤銀次のプロデュースイベント「BRITISH COVER NIGHT」汐留PITで開催!  大トリ “ムッシュかまやつ” が締めくくった、エンタメ精神と貫禄に溢れるステージ

『第4回:伊藤銀次のプロデュースイベント「BRITISH COVER NIGHT」汐留PITで開催!』からのつづき

BRITISH COVER NIGHTの大トリは、かまやつひろし

1987年4月27日、伊藤銀次プロデュースで開催された『BRITISH COVER NIGHT』もいよいよ大詰め。

この日の汐留PITでは、当時の日本の音楽シーンを担っていた気鋭のミュージシャンたちが次々と登場して、それぞれ影響を受けたイギリスのロックミュージシャンの曲のカバーをこれでもかと披露、ちょっぴりマニアックな内容にもかかわらず、会場は大盛り上がりとなっていったのでした。

そしていよいよ大トリ、“ムッシュ” こと、かまやつひろしさんの登場となり、ついにイベントはクライマックスを迎えることに!!

かまやつさんと僕は、1980年、沢田研二さんの「G.S. I Love You」のレコーディングのとき、僕が彼の曲を編曲することになったおかげで、初めて会うことができたのですが(『伊藤銀次 meets かまやつひろし、日本人離れした感覚を持ったコスモポリタン』を参照)、それ以来ずっとご無沙汰していた。それが、ちょうど1987年頃『ムッシュルームマガジン』という東海テレビのかまやつさんの番組の中に、僕のコーナーができた関係で、再び交友が始まり、このイベントに出ていただくことになったのでした。

スパイダースの十八番「ブーン・ブーン」「ギミ・サム・ラヴィン」

基本的にこのイベントでの演奏曲は、ほとんど各アーティストにおまかせしていたのだけど、かまやつさんにはどうしても僕のほうでやってほしい曲があった。

それはアニマルズの「ブーン・ブーン」と、スペンサー・デイヴィス・グループの「ギミ・サム・ラヴィン」の2曲。どちらもムッシュが1960年代、ザ・スパイダースに在籍中、十八番としていたイギリスのビートポップナンバー。

1965年にビートルズを知って以来、勉強そっちのけでブリティッシュビートのとりこになってた僕にとって、当時のかまやつさんはまさに神にも等しい存在でした。まだGSブームが来る前に、まるでキンクスの「You Really Got Me」のようなオリジナル曲「フリフリ」で音楽シーンに登場したザ・スパイダースは、いち早く僕の憧れのブリティッシュビートに負けないかっこいいサウンドを作り出していたからね。

ビートルズやストーンズを意識したオリジナル曲もすばらしかったけれど、カバーの選曲や解釈のセンスが群を抜いて素晴らしくて、「ギミ・サム・ラヴィン」や「ブーン・ブーン」でのムッシュの歌のバタ臭さは誰にもマネできないものだった。

堺正章と井上順の凄さを実感したライブパフォーマンス

ライヴバンドとしても素晴らしかったそのザ・スパイーダースの初期の頃の売り物は、マチャアキ(堺正章さん)、順ちゃん(井上順さん)といっしょにムッシュが並んで踊りながら歌う「ブーン・ブーン」。これが軽やかなくせにダイナミックで、とても楽しくて好きだった。そこで「ブーン・ブーン」のリハーサルの時、

「僕もまちゃあきや順ちゃんのように踊りたいので振付けを教えてください!」

…と、かまやつさんにお願いしてみた。と、ムッシュはニコニコしながら、

「それはうれしいけど、だけどすごい大変だよ」

…のひと言。

「いやいや、がんばります!」…と、かまやつさんのやる通りにやろうとしたけれど、これが見るとやるとは大違い…。あんなに楽しそうに見えてた振付は、いつも右足と左足で交互に飛び跳ねながら踊る、ほとんど全速力で走ってるのに近い重労働。たちまち息が切れて続けられず泣く泣くギブアップしてしまったのでした。

―― そんな経緯があって、残念ながら本番では僕は演奏だけにとどまったけれど、かまやつさんの歌とパフォーマンスは、まさに『BRITISH COVER NIGHT』全体を締め括るにふさわしい、エンタメ精神と貫禄に溢れるステージでした。

まさか、こうして大好きだったザ・スパイダースのカバー曲を、かまやつさんとステージでいっしょに演奏できる日がくるなんて!! 高校生の頃の、あの毎日ホールまで彼らの感激のライヴを見に行ってた銀次青年には想像もつかないことだったのでした。

リスナーに届いた! カバー曲の音楽性と個性

かまやつさんの演奏の後にはもちろん、やんやのアンコールの拍手が … 。それに答えて、ステージに上った出演者全員による「ツイスト・アンド・シャウト」と、60年代のイギリスの多くのロッカー達に影響を与えたチャック・ベリーの「ジョニー・B.グッド」で、楽しいイベントは大団円を迎えました。

とかくオリジナルにこだわりがちな日本の音楽シーンにあって我が師、大滝詠一さんは常日頃、「カバーをさせると、ほんとにオリジナリティがあるかどうかわかるものだよ」… とおっしゃっていたっけ。

この日会場に集まってくださったお客さんたちは、この日のアーティストたちの選んだカバー曲を通して、彼らの音楽感や個性を、きっとしっかり垣間見ることができたのではないだろうか?

まだバブルの余韻が残った頃に実現した奇跡のようなイベント『BRITISH COVER NIGHT』!! きっともうこんな時はこれから二度と来ないかもしれない。そういう意味で、僕にとってもとても貴重な体験をすることができた一夜だったのでした。

カタリベ: 伊藤銀次

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