NASAの火星探査車「キュリオシティ」が火星着陸から10周年を迎えた

【▲ 火星探査車「キュリオシティ」が撮影したセルフィー(2021年3月30日公開)(Credit: NASA/JPL-Caltech/MSSS)】

日本時間2012年8月6日14時30分頃、アメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査車(ローバー)「キュリオシティ(Curiosity)」が、火星のゲール・クレーターに着陸しました。今年、キュリオシティは火星着陸成功から10年という大きな節目を迎えています。

2011年11月にユナイテッド・ローンチ・アライアンスの「アトラスV」ロケットで打ち上げられたキュリオシティは、ロケットエンジンを搭載した降下ステージからケーブルで吊り下げられる「スカイクレーン」方式で火星に着陸。その日から10年が経った現在も、キュリオシティはゲール・クレーターの歴史を紐解き、古代の火星の環境を理解するための探査活動を続けています。

【▲ キュリオシティ着陸時のミッションコントロールセンターの様子を伝える動画「Curiosity Has Landed」(英語)】
(Credit: NASA/JPL-Caltech)

NASAの火星探査車や火星探査機を運用するジェット推進研究所(JPL)によると、キュリオシティはこの10年間で岩や土壌のサンプルを41か所で採取し、車体に搭載されている科学装置を使った分析を行ってきました。キュリオシティの活躍によって、かつてのゲール・クレーターにはだけでなく生命維持に必要な化学的成分栄養素が、少なくとも数千万年に渡って存在していたことが突き止められたといいます。

【▲ 形成から現在に至るゲール・クレーターの歴史を解説した動画「A Guide to Gale Crater」(英語)】
(Credit: NASA/JPL-Caltech)

現在、キュリオシティはゲール・クレーター中央のアイオリス山(シャープ山、高さ約5km)を登り続けています。その目的は、様々な時代に形成された堆積岩を調べることです。

ゲール・クレーターには、かつての湖底で形成されたと思われる堆積岩が存在しています。火星の表面に水が存在していた時代を通して、水に運ばれた堆積物はクレーターの底から上へと層状に積み重なっていき、後に侵食作用を受けたことでその断面が露出するようになったと考えられています。アイオリス山を登りながら堆積岩を調べることは、古い時代からより新しい時代へと時間を辿るようなものであり、時が経つにつれて変化していった古代の火星の環境についての情報が得られるというわけです。

【▲ キュリオシティのNavcamを使って2022年年7月15日に撮影された画像を使って作成されたパノラマ(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

JPLは着陸10周年にあわせて、キュリオシティが走破した距離を実感させる画像を公開しています。上の画像は、2022年7月15日にキュリオシティのナビゲーションカメラ(Navcam)を使って撮影された画像をつなぎ合わせたパノラマ。中央に写っている大きな岩のサイズは、キュリオシティと同じくらいとされています。

実はこの岩、7年前の2015年9月9日に何kmも離れた場所から撮影された次の画像にも、小さく写っているようです。JPLによれば、キュリオシティは着陸から10年間で約29km走行し、高度は625m上がったといいます。

【▲ キュリオシティのMastcamを使って2015年9月9日に撮影されたアイオリス山。黄色い丸の中に見える小さな黒い点は、7年後の2022年7月15日にキュリオシティが間近で撮影することになる岩(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

火星で活動する探査車や探査機は、人間のサポートを受けることができません。10年間で30km近い距離を移動し、40か所以上の岩を掘削してサンプルを採取してきたキュリオシティには、ダメージが蓄積しています。

たとえばキュリオシティのアルミニウム製ホイールは、鋭い石の上などを走行したことで幾つもの損傷を負っています。JPLによると、キュリオシティの運用チームはホイールが負った損傷すべてをカタログ化した上で、リスクの高い地形をなるべく避ける走行ルートを設定したり、荒れた地形を走行する際にホイールの回転を調整するトラクションコントロールアルゴリズムを開発したりすることで、ホイールの損傷を最小限に抑える努力を続けています。

【▲ 2017年3月に撮影されたキュリオシティのホイール。画像右側のホイールが損傷していることがわかる(Credit: NASA/JPL-Caltech/MSSS)】

サンプルを採取するためのドリルなどを備えたロボットアームにも劣化の兆しが現れており、最近ではアームの正常な動作に欠かせないブレーキ機構が機能しなくなったといいます。予備のブレーキ機構に切り替えたことでアームは再び動作するようになりましたが、運用チームはブレーキ機構の性能を維持するために、サンプル採取時により穏やかに掘削する方法を編み出しました。

また、キュリオシティは動力源として放射性同位体熱電気転換器(RTG※)を搭載していますが、RTGの出力は年月が経つにつれて低下していくため、1日に実施できる作業量は着陸当初と比べて少なくなっています。運用チームはキュリオシティが日々どれくらいの電力を消費するか見通しを立てつつ、利用できる電力を最適化するために、同時に実施できる作業を割り出しているといいます。

※…RTG:Radioisotope Thermoelectric Generatorの略。原子力電池の一種で、放射性物質が崩壊するときの熱から電気を得るための装置

なお、キュリオシティのミッションは最近4回目の延長(3年間)が認められており、湖の水が干上がった時に残されたとみられる硫酸塩が豊富なエリアを調査することが計画されています。火星での11年目に入ったキュリオシティの活動は、まだまだ続きます。

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Source

  • Image Credit: NASA/JPL-Caltech
  • NASA/JPL \- 10 Years Since Landing, NASA's Curiosity Mars Rover Still Has Drive
  • NASA Mars Exploration \- Curiosity

文/松村武宏

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