【社説】杉田水脈政務官 差別容認議員、なぜ起用

 性的少数者(LGBT)への差別や偏見をあおる投稿や、性犯罪被害を訴える女性を「うそつき」呼ばわりする発言をしてきた自民党の杉田水脈(みお)衆院議員(比例中国)が、先日の内閣改造で総務政務官に起用された。

 社会人としての資質さえ疑われる人をなぜ、内閣の一員にする必要があったのか。岸田文雄首相の掲げる「多様性を尊重する社会」にも逆行している。

 疑問や批判の声が上がるのも当然だろう。岸田政権は差別発言を容認している、との印象を国内外に与えかねない。深刻に受け止める必要がある。

 性的少数者差別の寄稿は2018年、月刊誌に掲載された。「LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるのか。彼ら彼女らは子どもをつくらない、つまり『生産性』がない」と持論を展開した。

 性的指向や性自認にかかわらず、誰もが人間として尊重されなければならない。それを否定するのは、ヘイトスピーチ(憎悪表現)と変わらない。

 20年には、性暴力被害に関する党の会議で「女性はいくらでもうそをつけますから」と述べた。謝罪と議員辞職を求める署名集めがインターネットで広がり、短期間で10万筆を超えた。強い批判の表れだろう。

 同年の衆院本会議では、夫婦別姓を選べず悩む男女の例を紹介した野党の質問に「だったら結婚しなくていい」とやじを飛ばした。

 いずれも、国民の「選良」としてふさわしい言動とは到底言えない。さらに問題なのは、本人に差別意識や反省が乏しいことだ。先週の総務政務官の就任会見でも「過去に多様性を否定したことも、性的マイノリティーの方々を差別したこともない」と白々しくも言い切った。

 自民党の甘い処分が増長させているのではないか。「生産性なし」寄稿の際、当時の二階俊博幹事長は「人それぞれ政治的な立場、いろんな人生観がある」と事実上の不問に。「うそつき」問題でも、発言の5日後にようやく、下村博文政調会長が口頭注意しただけだった。政府や党の見解とは食い違う発言にもかかわらず、なぜ厳しい処分は下さなかったのだろう。

 安倍晋三元首相との近さが指摘されている。中国比例ブロックで厚遇されたのも、それが理由だろう。もともと日本維新の会や次世代の党の所属で、その時から「女性差別は日本には存在しない」「男女平等は、絶対に実現し得ない、反道徳の妄想だ」などと主張していた。

 内閣のメンバーで資質が疑われるのは杉田氏だけではない。文部科学副大臣に起用された簗和生(やな・かずお)衆院議員は昨年、自民党の会合で性的少数者に関し「生物学上、種の保存に背く。生物学の根幹にあらがう」旨の発言をした。多様性尊重の政権目標が薄っぺらに見える人事だ。

 日本政府は、性的少数者への差別を法律で禁じるよう国連から14年にも勧告された。しかし進んではいない。欧州連合(EU)全加盟国や米国の多くの州で、性的少数者への差別禁止法が制定されているのに比べ、対応の遅れが際立っている。

 もはや、差別容認発言をした議員個人の問題ではなくなっている。問われているのは、岸田首相の見識や任命責任だ。今すぐやめさせるべきである。

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