軍事情報ダダ漏れ!2⃣ 潜水艦への魚雷搭載動画が全世界配信!|小笠原理恵 2019年4月1日、東京新聞は《宮古島の陸上自衛隊駐屯地に「弾薬庫」 島民には「保管庫」と説明 防衛省「説明不十分だった」》とスクープ。大きな役割を果たしたのは、市民団体の基地周辺の写真撮影、ドローンでの空撮だった……。日本政府はいつまでおおらかに自衛隊の情報を撮影させ続けるのだろうか。

業務の透明性を求められる自衛隊

自衛隊も創設直後は帝国軍の伝統を残し、基地周辺や重要な軍事関係施設の写真撮影を阻止しようと頑張っていた。前回のレポートを振り返るが、1985年第102国会で当時の内閣総理大臣中曽根康弘氏が「防衛庁としては、各部隊等に対して写真撮影を行わないよう強制することはできない旨適宜指導している」と回答した。

この時から37年間にわたり、自衛隊は基地や駐屯地内の写真撮影禁止を強要できない。国会の指針を遵守するしかない立場だからだ。

自衛隊は国防という重要な役割を担う「軍隊」であるにもかかわらず、行政組織としてその業務の透明性を求められるという、相反する立場にある。軍事組織は外国の軍事侵攻にたいして、こちらの能力や戦略を察知されないように秘密を保持し、敵の能力を諜報によって秘密裡に奪う力を求められる。

しかし、自衛隊は行政組織であるがゆえにその業務を国民の前に開示し、法を順守し、その活動を報告する義務をもつ。諸外国の軍事組織はどんな小さなリスクも排除するために撮影禁止が基本だが、自衛隊はそれすら強制できない以上、「外部から撮影されてしまうものは仕方ない」と自衛隊が認識するのは当然だ。

どんな小さなリスクも排除する諸外国の秘密保全体制と、見られてしまったら仕方ないと次々とあきらめていく日本ではスタート地点から違う。

情報は玉石混交だ。外観や設備、装備品ばかりに注目している人も多いが、問題はそこではない。このレポートで様々な例を挙げていくが規制できないものが多い。(一部は違法性を疑えるものもあるが……)。

動画を放置する政府の「罪」

さて、今回は潜水艦だ。「空母改修工事」が全世界公開されているのだから、潜水艦が無事なはずがない。日本では特定秘密情報保護法で指定されているものだけは間違いなく軍事機密扱いだが、それ以外の機密を漏らしても問題視されない緩い体制だ。

一度公開された動画や画像は消せない。台湾有事は目の前だ。そんな時に自衛隊基地の撮影でどんな情報が洩れているか。もう黙ってはいられない。問題を認識する愛国者が増え、国にこの問題を指摘していかなければ、さらに傷口は広がる。これを放置している政府の許しがたい「罪」を糾弾する人が増えてくれればと願う。

広島県警によると、海上自衛隊の呉市でのドローン禁止地域は海上自衛隊呉地方総監部周辺地域 と呉第六突堤周辺地域になる。空母化工事中のジャパンマリンユナイテッド(JMU)ドックはこのドローン飛行禁止区域の間の空白地帯だ。そのため、前回のレポートした「空母改修工事」動画は同法違反ではない。

だが、今回の潜水艦バース(第六突堤)はドローン撮影禁止区域内だ。紹介する動画がそれにあたるかどうかは警察の判断によるのでわからない。

なぜこれが軍事機密ではないのか?

潜水艦バースに係留中の潜水艦の魚雷投入口が開いており、潜水艦バースにブルーシートがかぶせられた魚雷らしいものが複数個置かれている。これがドローンで空撮されている。

潜水艦の外観撮影は問題ないと言っている自衛隊だが、この魚雷搭載情報は潜水艦の戦闘能力に直結する情報となる。にもかかわらず、なぜこれが軍事機密ではないのか?

動画投稿サイトには複数の潜水艦への魚雷搭載動画が存在する。魚雷搭載数が世界に配信されていることを問題視しないほど日本はバカなのか?

動画投稿サイトには魚雷搭載シーンまでは掲載されていないが、本当にスパイが撮影していたとしたら、その動画は投稿されない。本国に報告されることだろう。そう、このような動画が存在するだけで、そのすべてが撮影可能だったと推測される。

世界最高峰の通常動力型潜水艦の武力がこうやって監視されているのは間違いない。

次はこちらだ。

乗組員が狙撃されるリスクもある

動画タイトルの逆探知用ソナー・ドームが開け放たれて見える動画だが、その装備が問題ではない。気になるのは、搬入している潜水艦乗組員の風貌が詳細に確認できる動画だということだ。また、搬入物の形状や個数の特定が可能な動画だということも恐ろしい。

こちらの動画は空撮ではない。おそらく、日本でもっとも近距離で潜水艦を見ることができる「アレイからすこじま」公園周辺からの撮影だろう。この位置から先ほどの魚雷搭載等の撮影が可能だということがわかる。

作業をしている潜水艦乗組員や納入業者の人物特定ができれば、基地の外で待ち伏せし、拉致や脅迫される危険がある。安倍元総理が暗殺事件後、銃撃テロの危険も高まっている。「アレイからすこじま」公園から乗組員が狙撃されるリスクもある。その危機感がないことが恐ろしい。

潜水艦乗組員は閉鎖された空間で平静さを長時間保つ強靭な精神力や高い身体能力を要求される。その貴重な人材を危険にさらすリスクは避けなくてはならないと思うのだが……。

人工衛星でドックや艦艇、基地内の様子はいくらでも撮影できる。もう手遅れだから気にするなという人たちもいる。しかし、一度泥棒に入られたから、カギをかけないでもいいと考えるだろうか?

中国は日本の防衛予算の6倍超の予算をかけている。だから海南島の潜水艦基地は地下にあり潜航したまま出航できる。この地下基地があれば、衛星写真から逃れることができる。日本も防衛予算が常に不十分だからあきらめてきただけで、予算があれば衛星からも情報を守ることは可能だ。

基地周辺を撮影されても何の問題もないと考えるのは、楽観的過ぎる。自衛隊基地の監視と撮影で防衛上の不利益があった事例がある。

東京新聞スクープによって生まれた防衛の空白

2019年4月1日、宮古島駐屯地内で作られていた保管庫が弾薬庫であると東京新聞がスクープ。この結果、4月2日、当時の岩屋防衛大臣が謝罪会見し、宮古島外に弾薬を運びだすことになった。この後、宮古島で2021年4月1日に新弾薬庫が完成し共用されるまで、宮古島駐屯地は陸上自衛隊の部隊は存在するが弾薬がない状態だった。

このスクープで2年間の宮古島防衛の空白時間ができてしまったのだ。これには市民団体の基地周辺の写真撮影、ドローンでの空撮が大きな役割を果たした。日本では防衛機密よりも、情報の透明性や基地建造計画の整合性が問題となる。

日本政府は危機感が乏しく、自衛隊基地周辺の撮影の脅威を自覚していない。おおらかに撮影された動画や写真を分析する諸外国の諜報機関は嘲笑っているだろう。

米国は中国スパイ狩りを一斉に行い、工作員と繋がる13人を特定したという報告書を7月に公表した。中国からも北朝鮮からもミサイルが飛んでくる今、いつまでおおらかに自衛隊の情報を撮影させ続けるのだろうか。台湾有事は宮古島八重山諸島を巻き込むかもしれない。

国防の要である空母改修や潜水艦基地の情報がどんな形で大きなダメージをもたらすか不安でならない。

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小笠原理恵

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