バッテリー式電気自動車(BEV)は選択肢としてありなのか−−コストや購入前に確認しておくべきこととは?

CO2の低減や、テスラ「モデル3」やポルシェ「タイカン」など人気車が出てきたこともあり、電気エネルギーのみで走行するバッテリー式電気自動車(以下、BEV)が注目を集めています。

近年、電気自動車(EV)は増えています。それは販売台数もですが、各自動車メーカーの取り扱いもです。いくつかの自動車メーカーの発表を見てみましょう。

  • トヨタ自動車:2030年までにEV30車種・年間350万台(現在の販売量1/3相当)
  • 日産自動車:2030年度までにEV15車種を含めた電動車23車種、世界で50%のシェアを目指す
  • メルセデスベンツ:10年後にすべてのクルマをEVに変える

他の自動車メーカーもこぞってEVなどに販売をシフトしてきています。しかし、エンジンを搭載している内燃機関のクルマに比べて販売量自体は少ない状況であり、特に走行の全てを電気でまかなうBEVは、その充電環境などもあり万人が購入を検討する段階とは言い難い状況です。現状の購入者や検討者は、よほどの環境意識が強い方か、新しい物好きの中でもさらに新しい物好きの方ではないでしょうか。

それでも、世界的に普及が進んできていることは間違いなく、今後、興味を持つ方・購入を検討する方は増えてくると思われます。そこで、BEVについて事前に確認しておくべきポイントを、実際に購入を検討したファイナンシャル・プランナーの視点で解説します。クルマ自体の良し悪しや、特定の車種を取り上げるわけではなく、また今後販売が予想されている全個体電池やすでに販売されている水素などではなく、BEVの全般的な内容になることをご承知おきください。


BEVのなかにも違い

BEVはまだまだ販売がスタートしてそれほどの歴史がありません。そのためその、開発に際してボディ設計を既存のクルマから流用したケースと、BEVのために設計したケースがあります。この違いが何に影響するのか? それは車の設計における空間の使い方が変わります。

既存のクルマを流用した場合はエンジンを前提として開発されている一方で、BEV専用として開発された車は空間の使い方が最適化されている傾向にあります。つまり、BEV専用に設計されていると、エンジンが無くなって空いたスペースなどを有効活用していることが多いので、室内空間はこれまでの車よりも広くなっていることが多いです。

筆者が知る限り、専用設計したBEVは後部座席の床面がフラットです。どうせ高い値段を払うなら、専用設計されて空間が最適化されているモデルが良いのではないかと考えるのは筆者だけではないと思います。

次にバッテリー容量や充電性能が違います。バッテリー容量は航続距離に関係し、充電性能は充電スピードなどに影響します。この部分は各BEVを個別に比べて頂ければいいと思いますが、特に充電性能については、クルマ自体の性能よりも充電設備側の性能が影響します。

充電設備の種類や注意点

BEVの充電設備には、テスラのスーパーチャージャーを除くと大きく分けると2つあります。1つ目は自宅でも充電可能な普通充電として100Vまたは200Vの充電、2つ目が大型商業施設や道の駅、高速のパーキングなどに設置してある急速充電器です。

充電スピードで言えば、100V充電は非常にゆっくりで、200Vは多少早くなります。一方で急速充電はその名の通り急速ですが、実はこの急速充電にも出力の違いがあり、これまでは20~50kwくらいが日本で設置されているほとんどです。今後は90kwや150kwも増えてくると思いますが、まだまだ数年単位で先になるはずです。この時に注意点として、同じ急速充電器でもその出力には濃淡があるということです。

日本の急速充電使用は30分を1回としていることが多く、実際にはロスがあるので理論値より下回りますが、20kwの急速充電を30分行うと理論上は10kw分が充電されます。これが50kwだと25kwと2.5倍充電されることになります。筆者はその違いを知らずに20kwで急速充電した時に「あれ、まったく充電されていない……」と不思議に思ったことがありました。

充電の費用、ガソリン代との比較

普通充電は自宅の電気代と走行距離次第ですが、毎月2,000円から3,000円くらいだと考えれば、それほどズレないと思います。急速充電はさまざまな会社のプラン次第になるため一概には言えませんが、代表的なe-Mobility Powerの例で急速充電を行うと、16.5円/1分(税込)なので30分ですと495円となります。別途月会費などがかかりますが、トータルコストとしては月間で5,000円から8,000円(充電プランの月会費込み)と想定できるのではないでしょうか。

これとガソリン車の場合を比較すると、足元のガソリン価格が165円程度、満タンが50リットル程度、月に一度給油すると想定すると、およそ月間で8,000円強になります。

BEVの購入費用で重要になる補助金

購入を検討されたことがある方はご存じでしょうが、BEV購入には国から補助金があり、一部の地方では上乗せの補助金があります。金額はその種類や設備によって異なりますが55~95万円ほどで、各種税金が免除されていることもあり、ランニングコストはガソリン車に比べて安くなる傾向にあります。

また、BEVの自動車保険について現状でガソリン車などとそれほど違いはありません。今後、BEVの事故率などのデータでガソリン車との違いが出てきた場合、保険料に影響が出ることもあり得ますが、現状ではそれほどの差があるわけではありません。

ただし、補助金については2つ注意が必要です。

まず購入時の補助金ですが、2022年度の補助金は早ければ10月には予算が消化されるだろうと言われています。この補助金は納車されたら申請してもらえるため、これから購入をしたとしても今年度の補助金が受け取れるかどうかは不透明です。

また、補助金が大きいからと言っても借り入れ自体はクルマの購入価格で行います。そしてそのあとに補助金を一括で受け取ることになるため、購入金額自体が多額になることがありえます。いくら補助金が出るだろうと思っても、無理をしない返済計画で購入を検討してください。

なお、今後の補助金については2022年度の補正予算が組まれるのか、また2023年度ではどうなるのかは、執筆時点ではわかっておりません。

BEVが向いている人・向いていない人

最大のポイントとなるのは充電環境です。日ごろから、それほど長距離を走ることもなく、また自宅で充電ができる、可能であれば外壁を工事して200Vコンセントを設置可能であれば、普段の使用において問題が起こることはほとんどないでしょう。

また自宅では充電できないが、近くに大型商業施設があり、そこで平日の昼間に充電できる時間的な融通が利くか、近くのディーラーで充電しながらリモートワークできる場合も問題ないと思います。筆者の場合はこのパターンにあたり、BEVの購入検討する際、しばらくディーラーから借りていた時に、これで問題なく生活できました。

一方で不向きな方は、自宅充電が厳しく、周辺にもディーラーくらいしか充電スポットがないなど、充電設備に困る場合はまだ無理して購入を考えられることはないでしょう。また、いくら補助金があるとは言え現状ではバッテリー価格の高騰、および各種材料費や輸送コストアップなど値上がりが非常に大きくなっており、車自体の価格面からも一度踏みとどまることは必要だと感じます。

なお筆者は今回、最終的にBEV購入を中止しました。最大のポイントは買いたいと思ったBEVに欲しいと思った装備がつけられなかったことと、原材料のコスト高騰や円安による影響で車両価格の値上げがあったためです。


まだまだ向き・不向きがありますが、今後BEVはさらに広がりを見せる流れになっています。その中でBEVを検討する場合の他の注意点として、BEV市場はこれからの部分が大きく、特にバッテリーは使用していると劣化してしまうので、売却時の価格が大きく下がる傾向にある点も念頭に入れておく必要があります。

また、先ほど補助金があり、購入代金の一部に充当することを書きましたが、ほかにも価格面で気を付けることとして、BEVの開発は全世界で進んでおり、価格帯が安いBEVも登場し始めています。この時に気を付けたいことがメンテナンス費用です。日本に広く展開している企業であればそれほど心配することはないでしょうが、まだまだこれから展開を始める会社は自動車自体の価格や質とは別に、メンテナンス部分も含めたトータルの判断が必須です。

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