くらしきカワセミ亭 ~ 一棟まるごと貸切でのんびりできる、古民家リノベーション旅館

2020年5月にオープンした、一棟貸しの素泊まり旅館「くらしきカワセミ亭」。

倉敷美観地区のすぐそばで、リーズナブルに、古民家を改装した2階建ての家をまるごと貸切滞在できます。

「リノベーションが好きなんです」と朗らかに語るオーナーのこだわりを感じる佇まい。
オーナー夫婦自らが壁に漆喰を塗るなど、過ごしやすい空間を作り上げています。

漆喰の壁のやわらかな質感と木のぬくもりが印象的で、落ち着くなあと感じました。

まるで暮らすように滞在できる、くらしきカワセミ亭の特徴を紹介します。

倉敷美観地区に近い一棟貸の旅館

「くらしきカワセミ亭」は、一棟貸しの素泊まりタイプの旅館です。

古民家をリノベーションし、2020年5月にオープンしました。

場所は倉敷駅から徒歩約15分、倉敷美観地区から徒歩約5分です。

観光に便利な立地なのに、大通りから少し内側に入っているため、比較的静かに過ごせます。

間取り図(くらしきカワセミ亭提供)

2階建てで、和室2部屋・洋室1部屋・キッチンがあり、広々とした空間を貸し切りで使えるのが魅力。

一棟貸しであることに加え、畳の部屋があるので、子供連れでも過ごしやすいのではないでしょうか。

家の中を紹介 あえて古いものを残した、快適な空間

古民家をリノベーションした、くらしきカワセミ亭。

「古さと新しさのバランスが、過ごしやすく落ち着く家だな」と感じました。

水回りは全部新品にリノベーションしながら、古い柱や木製のドアなど趣のあるパーツは、あえて残しているのです。

幼いころを昭和建築で過ごした筆者は、懐かしい気持ちになりました。

家の中を紹介しましょう。

居間は、床の間や付書院(つけしょいん)のある、無垢の柱が活かされた和室です。

帯を使って手作りした掛け軸や骨董品屋で買った花瓶など、インテリアにも古道具が使われています。

今では希少な昭和時代に作られた型板ガラスは、レトロな雰囲気。

自由に使えるキッチンは、タイルがおしゃれ。

名古屋モザイク工業株式会社の「コラベル」というタイルで、オーナーのお気に入りだそうです。
どこかレトロで異国情緒も感じられます。

IHコンロは2口。

電子レンジ・トースター・湯沸かしケトル・冷蔵庫・フライパン・6名分の食器・食塩やサラダ油なども用意されています。

自炊できる設備が整っているので、長期滞在も可能です。

2階は6帖の和室と5帖の洋室がつながっていて、広く感じました。

写真では和室と洋室のふすまを外して使っていますが、ふすまで仕切れます。

寝具は、ダブルベッド1台と布団4組。

たとえば6名で泊まるときは、1階の居間も使って2人ずつ別の部屋で眠ることも、布団をぎゅっと敷き詰めて6名が2階の空間で眠ることもできるそうです。

バスルーム・洗面台・トイレは新築同様の使い勝手なので、とても快適です。

洗濯機も自由に使えます。

トイレにもコラベルタイルが。

現代のテキスタイル作家・松島千紗(まつしま ちさ)さんの作品も飾ってありました。

繁栄を意味する市松模様、幸運を掴むといわれる蜘蛛、夫婦や家族の絆を象徴する双葉をモチーフにした作品は、きっと願いを込めて作られているのでしょう。

随所に和の文化を感じられる家なので、「海外からの観光客にも喜ばれるのではないかな」と思いました。

宿泊案内には、日本語・英語・中国語・韓国語が記載されています。

自然素材へのこだわり

くらしきカワセミ亭の建物は、自然素材を多く使っています。

壁の大部分は、漆喰仕上げ

ビニールクロスの壁紙と比べて建築にかかる作業工程が多いのですが、漆喰のあたたかみを感じる質感は、とても魅力的です。

1階天井は、天然の柿渋を塗ったそう。

玄関ホールは本物のオーク材を張っています。

倉敷のものを活用

インテリアには、倉敷産のアイテムも取り入れられています。

玄関のランプシェードは「ぐらすたTOMO」の吹きガラス。

倉敷美観地区の柳の緑と川の青を思わせるような、爽やかな色合いがきれいです。
やわらかな陰影が壁に広がっていました。

倉敷の花ござはスーツケース置きなどに利用。

テーブルは真備町にあるTEORI製です。

シンプルで、エコ素材でもある竹の目が美しいと感じました。

次に、くらしきカワセミ亭オーナーの、田上聖乃(たがみ きよの)さんに、お話を聞きました。

くらしきカワセミ亭オーナーにインタビュー

くらしきカワセミ亭オーナーの、田上聖乃(たがみ きよの)さんに、お話を聞きました。

インタビューは2020年8月の初回取材時に行った内容を掲載しています。

くらしきカワセミ亭を始めた理由

──なぜこの家を使って旅館を始めようと思ったのでしょうか?

田上────

もともと副業として、夫婦で古い家を購入後、リノベーションをして賃貸に出すということをしていたんです。

リノベーションを職⼈さんに頼むだけでなく、⾃分たちで床を張ったり、壁を漆喰塗り仕上げにするなどしてきました。

その⼀環で、倉敷美観地区まで徒歩5分という好立地に売り戸建が出たので購⼊しました。

当初はこれまでのように賃貸に出すことを考えていたんですけど、立地がとても魅力的なので旅館のほうがいいなと。

それで旅館をはじめることにしました。

──くらしきカワセミ亭は、何軒目のリノベーションですか?

田上────

自宅を除くと8軒目です。

カワセミ亭のリノベーションは、賃貸よりもこだわれて楽しかったですね。

たとえばキッチンのタイルは、賃貸だとコストが合わなくて使えなかったんです。
旅館ならコスト的な制限が少ないので、「こうしたい」と思っていることを盛り込めました。

──漆喰塗りがお好きなんですよね。わたしは憧れはあるのですが、塗るのが難しい印象があります。

田上────

友人が、祖母の住んでいた古い家の壁をDIYで漆喰塗りしているのを見たのがきっかけで、自分もやってみようと始めました。

当初は、インターネットで情報を調べながらの作業でしたね。
その後はすっかり漆喰の魅力に取りつかれ、貸家をはじめ自宅の壁を漆喰仕上げにしてきました。

職業訓練校の住宅リフォーム科に半年通い、左官の訓練も少しありましたが、所詮は素人に毛が生えた程度の腕だとは思います。
でも自分では、塗るのが早く上手くなったと自画自賛しています。

カワセミ亭では、元の壁にアク止めと漆喰がつき易いように下塗り材を2回塗って、その上から漆喰を下塗り・上塗りと塗っています。

塗るときは夢中になって、無になれますよ。

自然素材が好き

──倉敷美観地区には昔から馴染みがありましたか?

田上──

大学進学時に岡山県に住みはじめて、学生時代から訪れていました。
街並みが素敵ですよね。

借家業を始める前に不動産の勉強をして、宅地建物取引士の資格を取り、いろいろな建物を見てきました。

戸建を見る機会が多かったこともあり、木造の在来工法の建物に興味を持ったんです。

その流れで、古くて素敵な家々が残る美観地区の街並みに憧れがあります。

──美観地区の建物は、どこがどのように魅力だと思いますか?

田上──

いぶし瓦とかなまこ壁とかは有名ですけど、それだけではありません。
特に「木部」がいいですね。

わたしは「自然の素材を活かす」というやり方がすごく好きなんです。

なので、ペンキで柱や建具を塗ってしまうのは、好きではありません。
特に内装は、自然塗料でオイル仕上げにするのが好みです。

倉敷美観地区周辺の古い建物は、すべての建物ではありませんが、柱や梁がとても太かったり、建具も素敵だったりするところが魅⼒だなと思います。

最近の新築の家では、集成材を使っている家も多いようです。
乾燥させた木材を接着剤で張り合わせた集成材は反りにくく、必要なサイズを作り出せるなどメリットも多くあります。

どちらが良いかは好みの問題になってくるとは思いますが、わたしは無垢材派です。

古い家にある太い梁や欄間を見て、「こんなに太い立派な木材を、どこからどうやって運んだんだろう、すごいな!」とか「こんなに繊細な細工をどのくらいの時間をかけて作ったんだろう」などと妄想できるのが魅力でしょうか。

また、最近の家の建築材料は、「新建材」と呼ばれるプラスチック製のものが多いんです。

内装材にしろ、接着剤にしろ石油由来のものがほとんどで、壁はビニール樹脂のクロスを糊で貼ったものが主流。
床は接着剤で張り合わせた合板やクッションフロア、畳もスタイロなどプラスチックでできていたり。

個人的にはやはり、壁は調湿作用などのある漆喰壁、床は無垢材や畳が足触りもよく、好みです。

そして、畳を新調してから半年ほどなので、宿泊されるかたが玄関に入られると「い草の良い香りがする」という感想をおっしゃったりします。
すごく嬉しい瞬間です。

しかし、新建材が絶対ダメなわけではないし、カワセミ亭でも使ってはいるんですよ。

⽤途に応じて、たとえばキッチンの床は⽔濡れに強い新建材にしています。
ただ、できるだけ無垢材のものを使っています。

──外観のこだわりはありますか?

田上──

地元では有名な建築家が関わった素敵な家が南隣にあり、統一感を出すためにも西側の壁には焼杉を張っています。

旅館らしさがあるほうがいいと思い、⽞関を引き違いの扉にしたり、1階窓には倉敷格子を嵌(は)めたりと、こだわって建具屋さんに作製してもらいました。

焼杉といっても種類があって、最近は表⾯を軽くバーナーで焼くものが多いらしいんです。
けれど、当建物で使用しているものは昔ながらの⽅法で、杉板3枚を三⾓形に合わせて縄で縛って、その中に⽕を⼊れて炭化させています。

バーナーで焼く⽅法だと表⾯がちょこっと焦げているだけなので、すぐに炭化部分が落ちてしまうんです。
昔ながらの方法とでは、炭化している層の厚さが違うんですよね。

──焼杉の壁にはどんな特徴があるのでしょうか?

田上──

退化しにくく、耐久性に優れていますね。
シロアリも食べないし、水も弾きます。

またメンテナンスもしやすいんですよ。

プラスチック系のペンキ塗料は10年くらいでメンテナンスが必要になりますが、焼杉はノーメンテナンスでもっと持ちます(※約30年~50年といわれています)。

一部の杉が傷んだら、そこだけ取り替えることができますし。

外観も倉敷の町並みに似合うこと」を意識しました。

一棟貸しで素泊まりだからこそ

──どんなところが特にお客さまに喜ばれていますか?

田上──

やはり一棟貸しであることでしょうか。

今(2020年8月)はコロナ禍なので、「ほかのお客さまと接触しないからカワセミ亭を選んだ」というかたが結構いらっしゃいます。

スタッフに会うのもチェックイン時のみで、他のお客さまとの接触が一切ありません。

──宿泊プランは素泊まりのみですか?

田上──

はい。素泊まりの宿なので食事は付いていません。

倉敷美観地区近隣は、飲⾷店も多いですよね。

なので、たとえば岡山の名物が食べられるお店を紹介したり、夏なら「ここのお店の桃ジュースは美味しくてコスパ共にめっちゃおススメ!」のように、地元ならではの情報をお客さまにお伝えしたり。

三方良しの関係を目指して、微力ながらも地域にも貢献できたらと思っています。

お客さまに紹介できるように、自分たちでも食べ歩きしているんです。

地域のかたがたと一緒に、倉敷を盛り上げていきたいですね。

──一棟貸切で1泊1名につき11,000円~(利用は2名〜6名)という価格は、リーズナブルに感じます、

田上──

新型コロナウイルス感染症の影響で今は旅行者が少ない状況ですが、できるだけ選択していただける宿になるよう、心掛けています。

リノベーションもできるところは自分たちでしていますし、宿泊費をリーズナブルな価格で提供して。

今後はわかりませんが、現在は1棟のみなので、掃除をはじめシーツなどリネン類の洗濯や交換も全部自分たちで対応しているんですよ。

素泊まりスタイルが合うお客さまにぜひ宿泊していただいて、岡⼭や倉敷を歩いてもらえたらと思っています。

ぬくもりを感じる一軒家に滞在しよう

建物を愛するオーナーによる、こだわりの詰まった旅館。

旅先では気になる飲食店を探して好きなものを食べ、自分のペースで過ごしたい人にはぴったりではないでしょうか。

子供連れにもおすすめでき、小グループ旅行や三世代旅行にも向いていると感じました。

い草が香り木の優しさを感じながらくつろげる旅館で、倉敷に暮らすように滞在しませんか。

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