川崎の長男監禁死 精神疾患患者・家族の孤立防げ 専門家指摘「支える体制必要」 周囲の無理解で症状悪化

精神の病を抱える患者と家族を救うため、相談機関の増加を訴える神奈川精神医療人権センター顧問の佐藤光展さん=横浜市磯子区森の事務所

 統合失調症の疑いがあった長男=当時(37)=を約4カ月間監禁し衰弱死させたとして、川崎市麻生区の父親が8月、横浜地検に逮捕監禁と保護責任者遺棄致死の罪で起訴された。精神障害者を家族が自宅に閉じ込めて監護する「私宅監置」が禁じられて72年たつが、長男は手錠やロープで拘束され自由を奪われ、死んだ。専門家は「精神疾患の患者と家族を孤立させず支える体制が必要」と指摘する。

 日本の精神医療は過去の政策や偏見の影響で、国際的な遅れが指摘される。「私宅監置」は1950年の精神衛生法制定で廃止されたが、社会から精神障害者を「隔離」する状態は続いている。

 精神科病院に入院する人の人権擁護に取り組む神奈川精神医療人権センター(横浜市)顧問で医療ジャーナリストの佐藤光展さん(55)は「家族に責任を押し付ける国の姿勢は私宅監置の頃と変わらず、国際的な批判を浴びる医療保護入院の多さにつながっている」と指摘する。

 医療保護入院は、家族の同意があれば患者を強制的に入院させることができる制度。厚生労働省によると、2021年6月末時点の精神科入院患者約26万3千人のうち、医療保護入院は約13万1千人と半数を占める。強制入院による「人権侵害」との批判もあり、厚労省は先進諸国同様に患者の地域移行を掲げ、病床削減を目指す。

 佐藤さんは麻生区の事件について「周囲の無理解による孤立こそ、症状悪化の最大の原因」と強調。再発防止については「民間の相談窓口を含めた多様なサポートが必要で、家族の支援を含めた関わりも大切。メンタルヘルスの話題を隠さず語れる地域をつくることがこうした悲劇を防ぐことにつながる」と訴える。

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