【Editor's Talk Session】今月のテーマ:音楽シーンのために裏方ができること

Editor's Talk Session

今回は東京・下北沢CLUB Queを運営する二位徳裕氏と、埼玉・北浦和KYARA元店長のTHE安藤(父アサシン/母美智子)氏を招いて座談会を実施。それぞれのYouTubeチャンネル『QueTube』『移動するライブハウスKYARA(概念)』を使って定期的に動画投稿を行なっているふたりだが、ビジネスとして成立させるには難しいことに取り組み続ける理由は何なのか? その根本にある想いを語ってもらった。

【座談会参加者】

■二位徳裕
1988年にインクスティック芝浦に入店し、当時最高レベルのロックシーンを経験させてもらったあと、下北沢屋根裏で店長を担当。94年よりCLUB Queを運営。

■THE安藤(父アサシン/母美智子)
2020年1月、店長として10年間勤めた北浦和KYARAが閉店。現在は“移動するライブハウス”として、埼玉のインディーズバンドをサポートしている。

■石田博嗣
大阪での音楽雑誌等の編集者を経て、music UP’s&OKMusicにかかわるように。編集長だったり、ライターだったり、営業だったり、猫好きだったり…いろいろ。

■千々和香苗
学生の頃からライヴハウスで自主企画を行ない、実費でフリーマガジンを制作するなど手探りに活動し、現在はmusic UP’s&OKMusicにて奮闘中。

■岩田知大
音楽雑誌の編集、アニソンイベントの制作、アイドルの運営補佐、転職サイトの制作を経て、music UP’s&OKMusicの編集者へ。元バンドマンでアニメ好きの大阪人。

自分が発信して 続けていかなきゃいけない

千々和
おふたりが運営されているYouTubeチャンネルは、音楽業界の裏方ならではの企画が多いことが共通していると思いますが、まずはそれぞれYouTubeを使って発信しようと思ったきっかけを教えてください。

二位
チャンネルを立ち上げたのは結構前なんですよ。最初はツアーで下北沢CLUB Queに来る地方のバンドの人に“地方色を紹介するような番組を作って、YouTubeで配信しませんか?”と相談していたのですが、なかなか活発には動けていなかったんです。で、コロナ禍でライヴができなくなった時に、生配信ライヴを実施したりして。そもそも僕は昔、映画を作ったことがあって、前々から撮影や映像制作をしたいと思っていたから、その勉強も兼ねてYouTube番組を作り始めたんです。その時は店のスタッフだけでやれる企画を考えて、楽器が弾ける人を集めてバンドを組んでみたり、ドラムがうまい人がいたらドラムを叩きながらうどんを作ってもらったり(笑)。YouTuber的な面白い発想もやってみようってところから本格的にチャンネル運営が始まりました。

千々和
今は甲本ヒロトさんや曽我部恵一さんをゲストに招いた対談動画など、アーティストが出演している回も多くありますよね。でも、最初からあまり真面目すぎないチャンネルにしようと思っていたのですか?

二位
アーティストに出演してもらう場合はカッコ良い映像を届けなければいけないと考えていますけど、僕たちスタッフがやる番組はカッコ良くはならないですからね(笑)。それに、ロックの魅力は音楽だけじゃないと思っているので、間口を広げる意味でも音楽だけに特化しない番組にしたいとは思っていました。例えば、甲本ヒロトさんと対談した時は、ふたりとも大好きなバイクの話だけに特化してみたりして(笑)。なので、音楽雑誌や音楽番組もやらないような視点の企画をやってみたいと考えていました。最初は“バンドマンの趣味を紹介していく”というコンセプトが大きかったと思います。

千々和
安藤さんは2020年1月に閉店した北浦和KYARAで店長を務めていて、今は“移動するライブハウスKYARA(概念)”として埼玉県を中心にバンドのサポートやイベント企画をされていますが、YouTubeはどんな流れで始めたのでしょうか?

安藤
実はYouTubeチャンネル自体は10年くらい前からあるんですよ。その時は“YouTuber”という言葉もないし、YouTubeを使って動画を配信しようという人もあまりいなかった時期でした。Ustreamという動画共有サービスが流行っていましたけど、僕はそういうラジオ感のある番組ではなく、音楽も関係ないような、ただ単純に自分が面白いと思えるバラエティー番組を作りたかったんですよね。例えば、河童を探しに行く企画とか(笑)。MVの映像編集や撮影もしていたので、YouTubeの動画も自分で作って、チャンネルを作ってからは時間が空いてしまったけど、年に3回くらい不定期でアップしていました。それこそ、QueTubeと一緒で、あえて音楽には関係ないような番組を作っているんです。そっちのほうが楽しいじゃないですか。二位さんが言われたようにバンドマンの音楽以外の素質とか人柄なんかも、バンド好きの方に観せたほうがいいと思うんですよ。僕もバンドマンやイベンターとして活動している身でもあるので、自分の発信力を活かしていければいいなと。今みたいに本格的にやるようになったのはコロナ禍後ですけど、そういった構想は前からありましたね。

千々和
コロナ禍で有観客ライヴができなくなってからはライヴハウスが生配信ライヴのためにチャンネルを作るという流れがあったので、2020年は音楽業界でもYouTubeが盛り上がっていましたけど、徐々に生配信ライヴが減ってきて、今はチャンネル運営が止まっていることが多い印象です。

二位
儲からないし、ネタが尽きた方もいるでしょうしね(笑)。

安藤
労力に見合わないんですよ。ペイバックが確実にあるものではないし。自分で運営していてもそう思います。

石田
映像編集自体がいきなり始めようとしてできるものでもないので、続けていくにはハードルが高いでしょうね。やりたいこととできることのギャップも大きくなっていくだろうし。

千々和
再生回数や登録者数も数字で露骨に見えてしまうから、YouTubeって続けるには大変なコンテンツだと思うんですよ。おふたりがそれを今も続けてらっしゃるのはどうしてですか?

二位
そうですね…始めたからには続けないといけないし、コロナ禍もまだ終息していないからね。自分のライヴハウスがそれで儲けようとか視聴数を上げようという考えはあまりなくて、ロック全体を盛り上げる方法のひとつとして、こういうやり方もあるということが広がってくれたらいいなとは思います。僕はロックに対して、演奏だけに特化しすぎていることに懸念を抱いているんですよ。そのバンドを知っている人は好きなままでいられるけど、ロックやライヴハウスに興味を持っていない人がライヴハウスに遊びに来るきっかけが作れない時代になっていると。エンタテインメントの面白さをうまく使っている人は音楽界隈以外にもたくさんいるし、他業種の動画の再生数やチケットの販売数が伸びているという状況を目の当たりにした時に、“昔はロックの人がこういうことを積極的に取り組んでいたのに、今はロックの人が一番やらなくなったな”と思ったんです。だから、自分が発信して続けていかなきゃいけないと考えて続けている気がします。

好きなことを深堀する きっかけになれたら

岩田
昔はCS放送でアーティストの音楽以外の魅力に焦点を当てた番組や、地上波でもアーティストをゲストに迎えたバラエティーっぽい番組がありましたよね。今はそれが少なくなっていることも動力に影響を与えていたりするのでしょうか?

二位
そのような番組が減ってきているとは思いますが、テレビ局の制作側が悪いのかというとそれは言いきれない気がします。視聴者が面白いと思うもの、興味があるものをピックアップしようと思った時に、そもそも“その音楽は面白いのかな?”という疑問が僕にはあるんですよね。面白さやかっこよさで判断できない低いどんぐりの背比べになると、事務所力やお金に物を言わせることでいつも同じようなバンドだけがテレビに出てしまうでしょうし。僕が上京した時にはライヴハウス近くの路上にチラシやミニコミ誌がいっぱい落ちていて、それを拾って読むとすごく勉強になったことがあって、それが今はYouTubeなんじゃないかなと。でも、当時のミニコミ誌にバンドのことだけが書いてあったのかというとそうではなく、メンバーが観た映画のことだったり、遊びに行った場所のこと、仲間と飲んで話していたことなどが書いてあって、自分の音楽のことはちょっとしか書いていないんですよ。それが面白かったから、バンドのことを知らなくて拾ったミニコミ誌でも全部を読めたんです。“これを書いているのは誰なんだろう?”と思ったらTHE BLUE HEARTSだったりして(笑)。THE STALINなんかもそうでしたね。音楽に入る手前のカルチャーみたいなものを作っていかないと、ロックに先がないんじゃないかと思ってしまうんですよ。

安藤
僕は今39歳なんですけど、僕の時代でもインディーズバンド図鑑的なムック本を買って、バンドの情報を集めたりして勉強していたことがあったんですよね。そんなことを思い出しつつ、今はそういう本を出したとしても、読者は好きなバンドや知っているバンドのページしか読まない時代だと思うんです。それってYouTubeも一緒じゃないですか。自分の目当てのチャンネルしか観ないし、ゲームが好きだったらその関連のものしか観ない。それは時代の流れだから仕方がないと思うし、なんなら昔からそうだったとも言える気がします。まず誰かが集めた情報を得て、その先をもっと知りたいと思える人間が深入りしていくイメージなんですよね。YouTubeを通して自分自身が影響力を持ちたい気持ちもなくはないですが、僕が全てじゃなくていいんです。レコード屋で自分好みのレコード探していて“見つけた!”っていう、あの宝探し的な楽しみは今もあるはずなのに、探そうとする人が少ない時代なので、“自分で深堀していくきっかけになれたらいいな”という想いが、僕がYouTubeをやっている原動力のひとつだと思います。僕の動画を観て“俺もやってみたい!”“私ならもっとうまくできる!”とか、そんなことを思ってもらえたらそれでいいんです。そもそも裏方ってそういう思いつきを発信することで、誰かがついてくるような役割じゃないかなと。

楽しい挑戦ができるのがロックだった

千々和
YouTubeは労力には見合わないけど、おふたりとも“主役は自分ではない”というスタンスだからこそ、裏方の仕事の一環として続けていると。それにしても、安藤さんは電動キックボードで北浦和から富士山まで移動したり、1カ月間の雪山修行に出たりと、裏方らしからぬ身体の張り方をしていますよね。

二位
安藤さんは小さい頃からバカな遊びが好きだったりするんじゃないですか?

安藤
めっちゃ好きでした(笑)。

二位
例えば、野球をやるにしても野球部に入ってやるんじゃなくて、放課後に稲刈り後の田んぼとかでとかで友達と集まってやる野球が好きとかね。やっていくうちに“セカンドベースはいらないんじゃない?”みたいな話が出て、独自のルールでやることが面白い的な。

安藤
分かります! ニューベースボールが生まれるんですよね(笑)。

二位
こういう楽しい挑戦が実現できるものがロックだったという感覚があるんですよ。型にはまらない発想で遊べるみたいな。僕はそれが楽しいと思って過ごしていたら、なぜかライヴハウスの人になっちゃったんですよね。

安藤
僕は16歳から20年以上、バンド活動やライヴハウスの運営で音楽にかかわっていますけど、音楽を始めた頃はインディーズバンドが飽和状態になるくらいに活動していたんですよ。あの時はお金になるからバンドをやっている人が多かったんですよね。

二位
そうそう! 安藤さんの世代のバンドはそういう考えがあったよね。

安藤
だからこそ、今こういう活動をしていて思うのは、僕ら世代でYouTubeをやっている人が少ないんですよね。それよりももっと上の世代の方のほうが積極的に動かれていて、コロナ禍でも止めずに活動されているし、生き残っているんです。逆に僕ら世代のほうがコロナ禍になって辞めちゃっている人が多いと思います。それって、音楽は収益がないという観点で見ている人が多いからなのかなと。

二位
バンド活動に関しては、取り組み方がだいたい3種類あると思うんですよ。趣味やバイト感覚だったバンドはすぐに辞めちゃう。自分で会社を起こしたり、お店を作ったような感覚のバンドは続けるしかない。あとは、仕事やお金に余裕があるからバンドも楽勝でできるという人。活動が食い口になっている人は死に物狂いで続けなきゃいけなくて、最近はその差が世代によって出てきちゃった気がしますね。

千々和
二位さんはその3種類で言うなら、やるしかないモードになるんですか?

二位
だって、止めたら終わっちゃいますから(笑)。これは笑い話ですけど、年末年始は何カ所のライヴハウスに出られるかっていうのをバンドが競い合う風潮があるのに、10年くらい前から“家族がいるから大晦日は家で過ごしたいんですよね”というバンドが出てきたんですよ。その時は“いや、俺にも家族がいるけど…これで生きてるからやるんよ”と思って。でも、コロナ禍に入って初めて大晦日を家で過ごすことになったら“意外といいね。むしろ、大晦日は家で過ごす”っていう気持ちに2秒だけなったり(笑)。そういう隙間感は少し出ますよね。けど、これで生きてるから!

続けることで新しい種が 生まれるきっかけになる

岩田
安藤さんは動画でご自身のことを“フリーター”と紹介していて、生活を削ってでも活動をしている印象があるのですが。

安藤
2020年に青春を注ぎ込んだ自分のライヴハウスがなくなってしまい、そのあとにコロナ禍になったんですね。北浦和KYARAは経営不振で潰れているからこそ、生活が苦しくなると分かっている段階から今の活動がスタートしているんですよ(笑)。無職になることは分かっていたので、僕はコロナの影響というより、自分自身がどうするのかってことを考えてやってきているところはあります。ライヴハウスがなくなってから、すぐに立て直したくて本格的にYouTubeを始めて、“よし! これで一気にいくぞ!”という感じだったけど、思っていた以上にコロナ禍の影響が大きくて…。生活が厳しいことよりも、誰かと約束をしたことが果たせなくなっていくことに対してプレッシャーを感じて苦しかったです。だから、この活動があるからこそ気持ちが和らぐ部分があります。生活はどうにかなりますからね。僕はイベント企画が本職ではないから、必ず開催しないといけないものではないけど、ライヴハウスがなくなった経験が生活を度外視してでも頑張れるモチベーションにつながっていて、健やかな気持ちで今を頑張れていると思います。

石田
安藤さんはコロナ禍に入ってからクラウドファンディングを途中で諦めたとのことでしたが、それは世の中の状況を見つつ判断されたのですか?

安藤
“新しいライヴハウスを建ててよ”と言ってくれる声が大きくなるにつれて怒りが大きくなって、“自分たちの希望のために、何で僕が動かなくちゃいけないんだ!”というモードに入ってしまったというか…僕自身、そもそもクラウドファンディングはしたいと思っていなかったんです。コロナ禍で状況が変わった時に辞めたいと思ったんですけど、そうは言ってもすぐに辞められないくらいの数の人たちがかかわってくれていたから悩みました。僕がお金を持っていて、クラウドファンディングをしなくてもいいならそれが一番良かったし、誰かに援助してもらってライヴハウスを立て直すのも良かったんですけど、それは本当はしたくなかったことなので。結局のところ、自分が新しいことを始めるよりも、周りのライヴハウスがクラウドファンディングで踏ん張ろうとしているなら、そこに投資するほうがよっぽど業界のためになるなと思いました。

千々和
おふたりは自分自身のことよりも“自分の行動が音楽シーンにおいてどう影響するか?”という視点を第一に持っていると思いますが、正直言ってそんな人ばかりではないので、その信念を持って活動を続けるのって難しいことも多いのではないかと思います。

二位
その箱の経験値や運営者の立ち位置でも感覚が違うかもしれないですね。だから、音楽業界の小さな疑問をYouTubeで発信してみたいと考えることもありますが、それをすることで“誰かに迷惑がかかるかな?”とか考えてしまうから難しくて。でも、音楽シーン全体がビジネスに寄りすぎて、現場感だったり、柔らかい考え方や疑問を発信しないとなると、若いバンドに悪影響を与えてしまうと思ったりもしますよ。きれいだとか都合のいいところだけを見て、足元が見えなくなる子たちもいるし。“がむしゃらにやってきたらとても楽しい結果になった!”とかが大事で、それがつながって収入になったというドラマもあると思うので、どんどん挑戦してほしい気持ちはありますし、その現実を発信しなければいけない気もしています。まぁ、そこについては安藤さんにお任せしてね(笑)。

安藤
あははは! 頑張りますけどね(笑)。

二位
一緒に頑張りますよ! 怒られ役や嫌われ役に立ちながらも頑張る人がいるから先へ進めるはずなんで。

安藤
そうですね。恐れずに発信していこうと思います。

二位
悪口とかではなく、愛がある内容で発信ができればいいよね。でも、ロックの発展もそうやって反動を受けながら新しいものを発信して進んできたので、YouTubeでの発信を続けることで、きっと新しい種が生まれるきっかけになると思います。

下北沢CLUB Que 公式YouTubeチャンネル『QueTube』

下北沢CLUB Que 公式サイト

移動するライブハウスKYARA(概念) 公式YouTubeチャンネル

移動するライブハウスKYARA(概念) 公式サイト

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