倉敷美観地区から徒歩5分程の住宅街に、1926年(大正15年)に設立された日本初の民間の天文台である「倉敷天文台」があります。
その天文台の敷地内に、2022年4月にブックカフェ「星の光の澄みわたり」がオープンしました。
”天文台にブックカフェ”と聞いてもイメージがわきにくいかもしれません。
日本でも珍しい天文台カフェをじっくり紹介します。
天文台とブックカフェ。そのつながりは?
このカフェの建物は、長年にわたり倉敷天文台を守ってきた、世界的アマチュア天文家である本田實(ほんだ みのる)氏の住まいでした。
なお本田氏は、倉敷を拠点に彗星や新星を次々と発見した人です。
本田氏と奥様が亡くなられたあと、しばらく空き家になっていた建物を一部改装しカフェをオープン。
おしゃれなシャンデリアとレトロな家具、そしてたくさんの本に囲まれて雰囲気のある店内です。
家具も当時のものをそのまま使っています。
▼奥の席は大きな窓があり、太陽光が差し込み明るく気持ち良い。
▼窓際の席は1人でも利用しやすそうでした。
▼星や月、天文学の本がたくさん並んでいます。
▼本田實氏の実際に使用していた道具や家具。当時の雰囲気が感じられます。
▼店内では雑貨も販売されています
地元の食材いっぱいの手作りメニュー
カフェのメニューはすべて、お菓子作りが得意なオーナーの奥様の手作りです。
高校生の頃からお菓子作りを始め、有名な先生の教室に通われた経験もあります。
定番メニューは、ガトーショコラとニューヨークチーズケーキです。
その他、岡山の旬の食材を使ったケーキやタルトがあります。
また飲み物にもこだわりがあり、ティーメニューは紅茶好きの奥様おすすめの茶葉を使ったメニューです。
イギリスのリントンズの茶葉を使ったミルクティーと、シンガポールのTWG Teaのブラックティーがあります。
2022年(令和4年)9月現在の情報。 価格は消費税込
こだわりのアロマコーヒー
ホットコーヒー(500円)は、岡山市北区下中野の「Aroma Coffee Roastery」から仕入れた、風味豊かなスペシャルティーコーヒーの豆を注文してから、挽きたてで提供されています。
コーヒーの香りにホッと気持ちが落ち着きました。
旬の食材をふんだんに、岡山白桃のタルト
季節のタルト・ケーキもあります。取材時は「岡山白桃のタルト(600円)」をいただきました。
甘すぎない贅沢(ぜいたく)な味です。コーヒーとの相性抜群でした。
定番のニューヨークチーズケーキ
人気のニューヨークチーズケーキ(600円)です。
「グラナパダーノ」というイタリアでは「パルミジャーノ・レッジャーノ」と同じくらい日常使いされるというハードチーズが、生クリームの上にたっぷり削られています。
甘みとほんのり塩味がチーズ好きにはクセになります。
食べている途中で はちみつをかけると味変になり2度美味しいです。
おすすめのジンジャーミルク
ジンジャーミルク(600円)は他の店にはない珍しいメニュー。
福山市本庄町中にある生姜専門店「ジンジャーダイヤモンド」の「ジンジャーシロップ琥珀(こはく)」とミルクの意外な組み合わせですが、飲みやすい味です。
途中で追いジンジャーをすると味が深まり、シロップを入れる瞬間は映えの写真が撮れるそう。
焼き菓子はテイクアウトも可能
また、店内での飲食だけでなく、焼き菓子についてはテイクアウトもできます。
フロランタン、ブールドネージュ、マドレーヌ、サブレなど種類はさまざま(各200円)。カフェですが店内で飲食をしなくても、焼き菓子のみの購入もOKとのことです。
取材時も焼き菓子を買いに来るお客さんがいましたよ。
続いて、お店を運営する原浩之(はら ひろゆき)さん、直子(なおこ)さん夫妻にお話しを聞きました。
原浩之(はら ひろゆき)さん、直子さん夫妻にインタビュー
終始ニコニコと、あたたかくお話ししていたのが印象的です。
──開業のきっかけは?
原浩之(敬称略)──
このカフェの建物は、倉敷天文台を守ってくださっていた、本田實先生のお住まいでした。
本田先生とその奥様が亡くなられ、10年ほど空き家になっており、なんとかしないといけないなと思いながらもしばらく月日が流れていました。
倉敷天文台は4年後の2026年に100周年を迎えます。
100周年に向けて何かいろいろ出来たらいいなと、そのアイデアの1つがカフェでした。
またここにあるたくさんの本は、ダンボールに詰められて全然日の目を見なかった本なんです。
この天文台に関わってきた人たちが集めた、さまざまな本を皆さんに見ていただきたいという思いもあります。
そしてこの倉敷天文台をたくさんの人に知ってもらいたいです。
また、県外から倉敷に拠点を移した家内が人と出会えるきっかけとなる場所、お菓子作りのスキルを披露できる場所になればとも考えています。
──オープンして約半年、心境の変化はありましたか?
原直子(敬称略)──
カフェの厨房でいざケーキ作りに取りかかると、道具がなかったり、オーブンのクセも違ったりと悪戦苦闘しました。
また、オープン当初はどんなケーキをどれくらい焼いたらいいのか、お客様が喜んでくださるものに仕上がるのかを考えて不安な毎日でした。
でも今は、主人の知り合いのパティシェのかた、地元で野菜や果物を作っておられるかたがたに相談に乗っていただけるようになり、アドバイスに助けられています。
実際お客様に召し上がっていただくと、”美味しかったです!”とお声をかけていただくことも多いのでとてもうれしいです。
あとは、岡山の地元で取れる食材の多さには感動しています。
岡山ならではの物を使って調理し、発信もしていきたいなと思っています。
この夏は、お客様から桃農家さんをご紹介していただいたのですが、東京に送ると到着までに桃が傷んでしまうので岡山でしか食べられないという希少価値のある桃があることも知りました。
岡山は作りたい意欲をかき立てられる土地だと実感してきています。
──他の店と違うところは?
原浩之──
ここでは音楽を流していないんです。
たとえば秋になると虫の音、そのほかには外の車の音やエアコンの音、それがBGMなんです。
音楽を流すとどうしてもおしゃべりの声が大きくなるのでね、本を読む人にも気遣ってもらいたいという気持ちもあります。
──お店の名前の由来は?
原浩之──
本田先生は詩を書くのが好きで、いろいろな詩を残しています。
その詩の一節から名前をつけました。
──今後どのようなお店にしていきたいですか?
原浩之──
何度もリピートしてもらえるようなカフェにしたいです。
1人の時間をゆっくり過ごしたり、お友達と来てもらったり。
また人と人が出会う場、天文台に出会う場になればいいですね。
今後は夜に星を観望するときにお茶やお酒を飲んでもらったりと、夜の部も考えています。
そこからお昼のランチにもつなげていきたいです。
おわりに
人との縁を大切にする仲の良いご夫婦で運営している天文台カフェは、他にはない魅力がたくさん詰まっています。
岡山の旬の食材を使った手作りのお菓子に心が満たされることでしょう。
たくさんの本とともに、星や月を感じながら過ごす特別な時間をぜひ味わってみてください。