自衛官の給料明細を公開! これっぽっちの給料で日本を守れるのか?|小笠原理恵 10月4日午前、北朝鮮が弾道ミサイル1発を発射。日本上空を通過し、太平洋上に着弾した。日本がやるべきことはたくさんある。そのうちのひとつを国防ジャーナリストの小笠原理恵さんが緊急提言!自衛隊員の待遇改善なしにこの国の未来は守れない!

ロシア軍の予備役部分動員の波紋

ロシアのプーチン大統領は9月21日、ウクライナへの軍事侵攻に必要な「部分的な動員令」の発動を宣言した。ロシアには2,500万人の予備役軍人がいるが、そのうちの軍務経験のある予備役30万人を招集する計画だ。

これまでウクライナへ投入された兵士たちは純粋な職業軍人たちばかりではない。ロシア軍では徴集兵を戦場に送り込まないはずであったが、兵員不足から署名の強要が行われている。従来のルールでは、契約書にサインして始めて職業軍人となり、戦地へと送り込まれる。

ロシアの貧しい地方では仕事が少なく、食べるために仕方なく徴集に従っている。彼らには職業軍人となる志もなく、十分な訓練も受けてない。志願兵は戦場に送られる。徴集兵たちの意思に反して、ロシア軍は精神的な圧力だけでなく暴力に訴えて志願契約書にサインさせたという。彼らは何も知らされず、ウクライナの前線に投入された。

戦地につくとすぐに武器を捨て投降するロシア兵士もいる。ウクライナで死亡したロシア兵士の多くはこのような訓練期間の短い兵士だった。

プーチン大統領は予備役から招集される「部分的な動員令」の対象者は特別技能を持つ職業軍人だと強調したが、実態は違う。招集対象ではない大学生や軍務経験のない人や、60歳以上の定年退職者も呼び出された。

「部分的な動員令」が発表された後、その週にロシアを出国する航空便はほぼ完売となった。中には5倍の価格をつけた航空チケットもあるという。徴兵逃れに自分で腕を折る方法がロシアのインターネット検索で上位に入る有様だ。

圧倒的な武力差のあるロシア軍に対して、ウクライナ軍は善戦し再び大幅な後退をさせている。その理由のひとつが、ロシア軍の士気の低さだ。

ロシア人捕虜のインタビューで、彼らは「ナチス」と戦うためにこの地に連れてこられたという。他では「演習だといわれて連れてこられたらウクライナだった」という話が一番多く聞く。戦闘能力もなければ、組織への帰属意識もなく、戦う相手が誰なのかも知らされてない。戦闘するよりも自ら捕虜になろうと動く者も少なくない。

急場しのぎともいえる徴兵や付け焼刃の募集兵では苛烈な戦場で戦えないと、日本人はロシアから学んでほしい。

若い自衛隊員が圧倒的に足らない!

防衛白書によると、令和4年度の自衛隊員の定数は247,154人でそれに対しての現員は230,754人(3月31日時点で16,400人不足している)。

しかも、幹部自衛隊員や准尉、曹といった中堅から高級幹部は90%以上の充足率なのだが、士クラスの若い自衛隊員の充足率は79.8%。現場で実際に戦う若い自衛隊員が圧倒的に足らない。この自衛隊員不足は平成24年度から10年間ずっと続いている。

抜本的な改善策も打ち出さずにいた自衛隊は最前線で戦う戦闘員の現員数が致命的に足らないのだ。現員数を充足するために定年を伸ばし、高齢の自衛隊員を増やすことでカムフラージュしているが、実際に動ける若い戦闘員数は少ない。

少子高齢化の国だから、若い自衛隊員が不足する要因はある。だが、有事に隊員不足を敵が配慮するはずがない。デスクワークを主とした公務員組織なら高齢化の影響は少ないが、軍事組織である自衛隊は違う。日々の訓練による卓越した戦闘能力で困難な作戦を遂行できる体力と気力のある若い自衛隊員が必要だ。

ロシアの強制的な徴兵制は国内に混乱を招いた。徴兵によって集められた兵は戦闘能力も無く統率も取れていないため悲惨な結果となる。ロシアのような強制的な徴兵制は日本では許されない。日本は志願制に則り、多くの若い人が自衛隊に憧れ、誇り持って働ける魅力的な職場にすることを目指さねばならない。

自衛官の給与は魅力的とは言えない

自衛隊の任務は、台風、地震等で被災した地域への災害派遣、領土、領海、領空を守るための警戒活動と戦闘訓練と多岐にわたる。誰でも自衛隊員になれるわけではない。日々の訓練や集団生活、重い職責に耐えうる優秀な人材を選ぶため、身体検査を含めた入隊試験がある。

10年以上、自衛隊は必要な人材を確保できなかった。優秀な人材ほど自衛隊を含む公務員試験を嫌い、条件のいい外資系企業等に流出してしまう。

その原因のひとつが給料だ。平成30年に入隊した任期制自衛隊員(自衛官候補生)の入隊直後3か月の給料明細を見ていただきたい。初任給は総支給額150,725円 、次月133,500円、3か月目が120,150円と続く。

自衛隊員の給与はこの後、令和2年に月額8,600円引き上げられ、自衛官候補生では142,100円になり、一般曹候補生では9,300円引き上げられ、179,200円となった。

一般曹候補生の自衛隊員士長は自衛官候補生から3段階上の階級であり、少し給与水準は高い。その給料明細がこちらだ。

自衛官候補生よりは給料は上がっているが、集団生活を強いられ、災害地域や危険な防衛の最前線に向かう職業の報酬としては魅力的とは言えない。

米軍の給与はどのような水準なのか

ここで米軍の給与と比較してみる。

志願制の米軍の最も給与の低いランクの現役勤務経験が4か月に満たないE-1クラスメンバーで月々約1833ドル(265,161円。※9月28日のレートで計算。以下の計算はすべて同上)が基本給で、その上に住宅基本手当と生活のための基本手当(BAS)や陸軍ではドリルペイという訓練手当が上乗せされる。

その次の給与グレードE-2クラスが見習いや1士にあたるものだが、この基本給で約2054ドル(297,170円)となる。

また米軍では陸軍ROTC奨学金等の奨学金や大学に入学する諸費用の支援がある。軍人としての業績や成績が認められれば、授業料と諸費用などが毎月もらえるプログラムを申請できる。奨学金には住宅費用や生活費や年間の書籍代も加算される。

その場合、大学卒業後に士官として一定期間は軍に勤務する義務があるが、このような人材が軍だけでなく米国社会の大きな力となる。インターネットが軍事研究から生まれたことは有名な話だが、軍事産業からのスタートアップは経済を活性化させている。

日本もこのような自衛隊出身の高度人材を育成するシステムを構築できれば国力にプラスの影響をもたらすはずだ。

米空母に勤務する若い米兵たちは複数の大学の博士号をとり、長期休暇ごとに大学で新たな学位や博士号をとるために勉強していると誇らしげに語っていた。命の危険もある軍務に就く米兵たちにはその職責に見合う待遇と権利が約束されている。

日本の自衛隊と米軍の待遇の差は軍人に対しての敬意がそのまま報酬額の違いとなっているのではないかと感じる。もし、この米軍の待遇を自衛隊が目指せば、隊員募集に苦悩することは減り、自衛隊への入隊希望者が増えるはずだ。

人材が不足し続ける自衛隊は、国民から多くを求められるが、働いても報われることが少ない職業と言わざるを得ない。「名誉」だけでは人は集まらない。待遇改善は国防を担う自衛隊員へ敬意を示し、その職責を正しく評価することだと私は思う。

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小笠原理恵

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