天王星の自転軸は巨大な衛星の影響で横倒しになった可能性が判明

【▲ 図1: その見かけとは裏腹に、天王星は自転軸がほぼ横倒しという他の惑星に無い特徴を持っています。 (Credit: NASA/JPL-Caltech) 】

太陽系の惑星の中でも「天王星」は自転軸の傾きが特徴的です。天王星の自転軸は公転軌道から98度と、ほぼ横倒しになるほど傾いています。他の太陽系の惑星では自転軸の傾きが30度以内に収まっていることを考えると、これは特異な値です。

天王星の自転軸が横倒しになった理由については、長い間「巨大衝突説」が原因として提唱されてきました。他の惑星でも証拠が見つかっていることから、巨大衝突は珍しくない現象であると考えられるようになったことに加えて、惑星の自転軸をこれほどまでに傾けられる要因が他に見つからなかったからです。また、1つの大きな天体が衝突したのではなく、それよりも小ぶりな天体が複数衝突したという説も提唱されました。

しかしながら巨大衝突説の場合、衝突を裏付ける証拠が存在せず、検証不可能である点が悩みの種となっていました。また、自転軸が約28度しか傾いていない海王星では、巨大衝突が起きなかったと考えられます。このことは、天王星と海王星の内部構造や大気気象現象が極めて類似している点と矛盾します。巨大衝突の有無は、それぞれが異なる特徴を持つ地球型惑星のような多様性を生み出す原因になり得るからです。

さらに近年、現在はそれほど傾いていない木星や土星の自転軸も、10億年のタイムスケールで頻繁に傾きが変化していたのではないかとする説が提唱されてきました。その原因として考えられているのは、木星や土星に存在する巨大な衛星による潮汐力です。天王星でもこの説を検証してみる価値は十分にありそうです。

パリ・シアンス&レットゥル大学のMelaine Saillenfest氏などの研究チームは、衛星による自転軸の傾きについてシミュレーションを用いた検証を行いました。研究チームは様々な質量と距離に存在する衛星の存在を仮定し、40億年以上に渡る天王星と衛星の相互作用について検証を行ったのです。

その結果、天王星の0.044% (地球の0.64%、地球の月の52%) の質量を持つ衛星があれば、数百万年という短い時間スケールで、天王星の自転軸が容易に80度以上も傾くことが示されました。ただし、その質量は現在の天王星を公転している衛星と比べて4倍もあるため、このような衛星は現存しないことになります。

また、自転軸の傾きがこの程度に達すると、衛星の軌道と天王星の自転軸の傾きの変化が不安定化することも示されました。この無秩序な状態は、最終的に巨大な衛星が天王星に衝突することで終了することがわかりました。相互作用していた巨大衛星が失われることで、天王星の自転軸の傾きは横倒しの状態で半永久的に固定されることになりますし、この衛星が現存していないことも説明できます。巨大衛星がこの質量を持ち、なおかつ軌道の半径が天王星半径の10倍以上の範囲で変化する場合、このシナリオは80%以上の確率で発生します。

この説では、最終的に衛星が天王星に衝突して失われてしまうため、巨大衝突説と同様に検証不可能ではないかと思えるかもしれません。しかしながら、今も存在する衛星がその手がかりになるかもしれません。今回提唱されたシナリオでは、巨大衛星以外の衛星も影響を受けることがシミュレーションを通じて示されました。影響を受けた全ての衛星が軌道を外れて天王星系から排除されることはなく、いくつかの衛星では軌道の同期が発生します。このため、現存する衛星の軌道の同期から古代の衛星の影響範囲を絞り込むことで、このシナリオを洗練できる可能性があります。

関連:土星の自転軸の傾きと環の形成は、失われた衛星で説明できる?

Source

  • Melaine Saillenfest, et.al. “Tilting Uranus via the migration of an ancient satellite”. (arXiv)
  • Bob Yirka. “A possible explanation for Uranus's odd tilt angle and opposite spin”. (Phys.org)
  • NASA/JPL-Caltech. “PIA18182: Uranus as seen by NASA's Voyager 2” (Jet Propulsion Laboratory)

文/彩恵りり

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