過去1年のサステナブル商品の購入率、日本が最も低いのはなぜか? PwCの日中米英・消費者調査から分かったこと

左から入江氏、上田氏

PwC Japanグループは、日中米英の4カ国1万2000人を対象にしたサステナビリティに関する消費者調査の結果を発表した。過去1年間でサステナブルな商品を購入した割合は、日本が最も低く、他国とは20%以上の差があった。世界的にサステナブル市場は成長し、国際ルールも変化する中、日本企業は国内市場に合わせるだけでは国際競争力を失う懸念もある。今回の調査では、日本のサステナブル市場の現在地を浮き上がらせ、消費者を巻き込みながらサステナビリティ経営を推進するための具体的なヒントが明かされている。調査を担当したPwCコンサルティングの入江頼子氏とPwCサステナビリティの上田航大氏に、青木茂樹・サステナブル・ブランド国際会議プロデューサーが話を聞いた。

新たな価値を目指して サステナビリティに関する消費者調査 2022
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世界の動向から見る日本市場の特徴

――今回、日本と諸外国を比較し、「サステナブル市場の現在地と、未来に向けた兆し」について調査されました。諸外国と比べて日本はどのような結果でしたか。

上田航大氏(以下、敬称略):他国に比べ、日本ではサステナブル商品を購入している消費者が少ないのが現状です。「過去1年間でサステナブルな商品を購入したことがあるか」という問いに対して「購入したことがあって、今後も継続したい」と回答した割合は、中国(主に都市部居住者)は70%、イギリスは65%、アメリカは57%と、3カ国では高いサステナビリティ意識がうかがえる一方、日本は24%にとどまっています。

日本と他国の違いは、日本では「マイバッグやマイボトルの持参」「節電」といった身の回りのサステナブルな行動は実践されていますが、その意識が商品の購買行動に結びついていないのが特徴です。

しかし、日本の44%の消費者が商品購入時にサステナビリティを考慮しているという結果も出ており、悲観的に見る必要はないと考えています。

――「もったいない」という意識や省エネのための行動はとっているにもかかわらず、購買行動につながっていないのは、企業のマーケティング手法、顧客コミュニケーションの在り方を見直す時期に来ているということなのでしょうか。

上田:企業の訴求方法は重要な点の一つです。例えば、欧州では農畜産物の環境負荷が高いことが議論になり、消費者にも分かりやすい形で商品の環境負荷レベルを示すラベルをパッケージに付ける取り組みが進んでいます。しかし、日本では農畜産物の生産過程の上流でどれだけ環境への負荷が生まれているかについて知らない人が多いのではないかと思います。

企業がサステナブルな商品を作っても、消費者はそれによってどんな効果が生まれているかが分かりません。企業はまず、そういった情報を訴えかけなければいけませんし、消費者もそうした状況を理解する必要があります。

Z・ミレニアル世代はサステナブルな商品をどう認識するか

―― さまざまな調査でも指摘されていることですが、今回の調査でもZ世代やミレニアル世代はサステナビリティに対する意識が高いことが分かりました。未来の消費者が市場の中心プレーヤーになってきた時には、大きく市場が変化すると考えて良いのでしょうか。

入江頼子氏(以下、敬称略):まず世界全体で見ると若い世代でサステナビリティの認知が高まっています。今回の調査では各国の人口動態にあわせて世代別の回答者数を決めており、少子高齢化が顕著な日本の場合は、ベビーブーム世代の回答者のニーズがより反映されています。

しかしながら世代はどんどん入れ替わっていきます。企業は、10〜20年後を見据えた世代をターゲットに置かないと成り立たないのだと危機感を持って活動する必要があるでしょう。

また、日本に目を転じると、Z世代/ミレニアル世代は、サステナブルな消費者と無関心な消費者に二極化している傾向があります。そして、サステナブルな消費者の中でも、上の世代はサステナブルな製品であると認識するためにラベル、パッケージ、店頭のポップアップを見るなど、受動的に情報を受ける人が多いですが、若い世代は店員に確認したり、ブランドを自分で調べたり、能動的に情報収集をしているという結果が得られました。

青木:若い世代の情報収集能力・意欲がこれまでよりも高まっているとするならば、企業も今までの消費者像を想定したマーケティングやコミュニケーションではなく、積極的な情報収集をするターゲットにどのように立ち向かっていくかを考えることが重要ですね。

サステナブルな購買行動を阻むもの

――企業のサステナビリティ活動と消費者の購買行動を結びつけるにはどうすべきでしょうか。どのような壁があり、企業が取り組むべきことは何でしょうか。

入江:アクセシビリティ(手に入れやすさ)と価格が商品の購入を阻んでいるということが調査結果により明らかになりました。アクセシビリティの壁に関しては、何がサステナブルなのかという情報が得られないことが壁になり、購買につながっていないようです。また、消費者がプラスチック廃棄物を削減したいと思っていても、プラスチックの容器に入っている商品しか売っていないという状況もあるので、消費者が手に取れるところにサステナブルな商品を出していく必要があるでしょう。

その上で企業側が押さえるべきアクションは2つあります。

1つは価格を超える価値を提供すること。2つ目はサステナブル・イノベーションを起こし、同じ価格の中に収められるサステナブルな商品を開発することです。

ただ、商品の性質ごとにアプローチは変えていく必要があります。例えば、衣料品など比較的単価の高い商品に関しては、日用品ほど価格プレッシャーがなく、ブランド価値の中にサステナブルな要素も収まっていくので訴求しやすいです。一方で、食品や日用品はなるべく安い価格に抑えていく企業側の努力が必要でしょう。

――企業の開発担当者の中には、営業・マーケティング担当者からの「売り上げにつながるのか」というプレッシャーと会社のパーパス経営との板挟みになっている人もいるのではないでしょうか。消費者のサステナブルな意識が高まっているというデータは、開発担当者にとって大きな希望になりそうですね。

上田:「サステナビリティの認知が高まっているからこそ、作ったら売れるかもしれない」といった外部環境をいち早く先読みして、事業担当者にいかにインプットしていくかが肝になっていきます。

サステナビリティに関する国際的な動向をしっかりとウォッチしながら、事業に展開するためには3つのポイントがあります。

1つ目は、仕組みでうまくコントロールすること。例えば、ある企業では、研究開発の過程でサステナビリティを基準値として組み込み、天井を決めることで、システマチックに事業をドライブしていく方法です。

2つ目は、社外と連携していくこと。サステナビリティの取り組みは、企業一社で推進するには大きすぎます。業界横並びで一緒に動かしていくことが必要です。サステナビリティは差別化ではなく、インフラとして「みんなやらなきゃいけないこと」になりつつあります。ペットボトルの回収が普及したのも法制度ができ、やらなきゃいけないことになったからです。価格による見えない壁を崩していく動きにつながればいいと思います。

3つ目は、企業としてのビジョンを社員と共に定めていくこと。多くの企業のパーパスは、環境・社会への貢献、つまりサステナビリティに関連しています。社員と一緒にビジョンを作っていくプロセスも大事です。ビジョン策定に参加した社員が、各部署に戻ったときに周りの人にパーパスを伝えていくという、アンバサダーのような役割を担います。企業が中から変わっていくことも必要不可欠と言えるでしょう。

顧客至上主義のアップデートが求められている

―― 今回の調査の結論として、  未来の暮らしを先回りで良くする  新しい「顧客至上主義」へのアップデートが必要だとまとめられています。

上田:日本企業は何か決まったものに対して対応、適応する力はありますが、自分たちで作っていくことが苦手です。「お客様に応えることが企業の務めだ」というこれまでの顧客至上主義は日本の誇るべきことではありますが、顧客至上主義も一つのアップデートが必要です。

サステナビリティは中長期的な時間軸で考えることが必要です。経営の時間軸を長くするということです。環境や社会の変化により消費者の未来の暮らしも害される可能性がある中で、今企業が先回りして、変わっていかなければ、未来のお客様の暮らしが悪くなっていく。だからこそ顧客の価値観をアップデートしていくのが、新しい形の顧客至上主義です。

――私は在外研究の機会を得て、この春からデンマークで暮らしています。ここではスーパーで飲料を購入すると容器代のデポジット(預かり金)がとられるので、返さないと損という意識が根付いています。だから、わざわざお店に容器を持って行きます。また、首都コペンハーゲンには「コペンヒル」という廃棄物発電所があり、建物の屋根部分の傾斜はスキー場になっていて、山登りもできたりします。こんな風に「サステナビリティっていいよね」という方向にトレンドを変えていくことも重要ですよね。

上田:コペンヒルの設計の思想は快楽主義的サステナビリティです。単に環境に良いよね、というだけではなく、そこに対して楽しみを見出すという考えがあります。

ポイントが欲しい、お洒落だ、楽しいといった動機づけは重要な観点です。環境に良いことをしたいという動機だけでは広がらないでしょう。日本では、サステナビリティは真面目に捉えられがちで、我慢するといったネガティブな連想イメージも多いですが、そこをポジティブに変えていく必要があります。

サステナブル市場で狙うべきターゲット層

――今後、注目すべきターゲットの特徴やボリュームはどこでしょうか。また、そこに向けたマーケティングをどのように展開することが必要でしょうか。

入江:本調査において、日本のサステナブル消費者の定義分けをしたときに、2つのクラスターが見えてきました。一つは、若年世代を中心とする少数精鋭の「パイオニア層」。そして、コミットメントはあともう一歩だが層が厚い「ライトグリーン層」です。

ライトグリーン層は、日常のリサイクルや節約などをこつこつしている人たちで、エコロジーっていいよね、なんとなくサステナビリティに取り組んでいかないといけないよね、と薄く関心がある層です。 

企業側はこうしたライトグリーン層をターゲットにしたマーケティング、プロモーションを心がけていくと良いでしょう。

―― 関心の高い「パイオニア層」 だけでなく、さらに ライトグリーン層を狙っていくのはなぜでしょう。

入江:パイオニア層は市場をけん引していく層としては期待できますが、売上高を上げ、購買につなげていくという意味では、ライトグリーン層を増やしていくことに注力する必要があります。

―― 調査を受けて、 PwC としては今後どのようなことに力を入れていきたいと考えていますか。

入江:すべての企業がサステナビリティ活動に取り組み、事業の中心の重要な価値観として推進していくことを目指しています。そのために、「今、消費者もこうしたサステナブルな商品やサービスを求めている」ということを調査結果として企業側にお伝えしていきたいです。

上田:サステナビリティを経営の脇に置くのではなく、経営・事業の根幹に据えて、中長期的な企業の存続、成長をしていくためにも、まずはその意識づけから加担していきたいと考えています。

入江頼子
PwCコンサルティング合同会社にて、流通・消費財業界に対する中期経営計画立案、新市場分析・新規事業企画、業務改革などのコンサルティング業務に従事。PwCがグローバルで実施する「世界の消費者意識調査」も担当。

上田航大
PwCサステナビリティ合同会社にて、サステナビリティ経営に向けた全社ビジョン策定、戦略・方針策定などのサステナビリティ戦略/非財務資本経営戦略案件を中心に従事。

取材を終えて

PwC Japanグループが消費者市場の国際比較調査を始めたことは、3つの点で意義深いです。1つは、「サステナビリティは国際協調の枠組みの中で、利益も出ないのにやむを得なく取り組んでいる」という企業がまだ多くある中で、サステナビリティは各企業がターゲットとする消費者市場のニーズの変化そのものであるということを改めて顕在化させたことです。

2つ目は、国際比較調査では一般的に欧米が進んでいると思われていた消費者のサステナビリティの取り組みですが、欧米だけでなく、中国の都市部では日本より消費者の関心が高まっています。また世代調査ではミレニアルやZ世代ほどその傾向が高いことも分かりました。現在の日本の国内市場しか見ていない企業には「本当にそのままでいいのですか」と聞いてみたくなります。

3つ目は、マーケティングや営業部門のみならず、パーパスの再構築から始まり、事業スキーム全体をいかに再構築すべきか、海外の事例も踏まえて検討していく時代が来ているということです。こうした点では、グローバルネットワークと幅広い領域での専門性を持つPwC Japanグループの支援に期待できるでしょう。

⻘木茂樹
サステナブル・ブランド国際会議アカデミックプロデューサー。駒澤大学経営学部市場戦略学科教授。現在、デンマーク・オールボー大学大学院客員研究員として、北欧にてサステナビリティが進展する制度的要因を研究し、日本の特性にあった戦略を思索している。

写真・原啓之

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