気候変動目標とCEO報酬をどう連動させるか 米調査から明らかになった課題

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ESG投資を促進する米国の非営利団体As You Sowはこのほど、温室効果ガスの排出量が多い米企業47社のCEO報酬制度に排出量削減目標の達成度がどのように反映されているかを調べた新たな報告書を発表した。報告書は、調査の対象となった大多数の企業の現状について、報酬の算定基準となる指標が厳密でない上に、指標に連動する報酬の割合が小さく、パリ協定に整合するレベルで気候変動対策を促進するには不十分だと指摘する。

投資家が気候変動への取り組みを促すなか、ESG目標を役員報酬に連動させる企業は急増している。最近では、ダノンやナイキ、マイクロソフト、マーズ、ラルフ・ローレンなどのグローバルブランドが役員報酬と社会・環境のKPI(重要業績評価指標)を連動させる方針を公表した。

良い傾向だが、潮流にただ単に身を任せるような形での役員報酬への連動や厳密さを欠いた指標によって気候変動対策を大幅に進展させることは難しい。重要なのは、高い透明性を有し、実際にインパクトをもたらす方法でESG目標と役員報酬を連動させることだ。

新たな報告書「Pay for Climate Performance」では、エネルギー、自動車、食品などCO2排出量の多い米国企業47社を対象に、気候変動関連指標に連動するCEOのインセンティブ報酬制度とその中身・質を評価した。47社に含まれているのは、アメリカン航空やウォルマート、エクソンモービル、コカ・コーラ、シェブロン、ゼネラルモーターズ、ダウ、プロクター・アンド・ギャンブル、ペプシコ、ボーイングなどだ。

47 社は、総運用資産68兆ドル(約9900兆円※2022年10月)の投資家ニシアティブ「 クライメート・アクション100+ 」が脱炭素への移行で重要な役割を果たすと認定する、世界の企業排出量の8割を占める 166 社 から選ばれている

As You Sowは、47社を3つの指標に基づき評価した。

1. CEOの報酬体系(2021年)に気候変動関連指標を連動させ、さらにCO2の排出量削減・1.5度目標との整合性を実現するインセンティブ報酬制度になっているか。
2. 定量的な気候変動関連指標・報酬体系が存在するか。
3. 役員の長期インセンティブ報酬に気候変動関連指標が含まれているか。

47社のうち約9割にあたる42社が、定量的で測定可能な気候変動関連指標に基づくインセンティブ報酬がない、または気候変動関連のインセンティブ報酬自体がないとして、A・B・C・D・Fの米国基準の5段階評価でDまたはFという低い評価を受けた。気候変動関連指標に連動したインセンティブ報酬制度があると公表している企業であっても、多くは総報酬に占める連動報酬の割合がごくわずかで、定量性・具体性も欠けていた。

今回の調査で「A」評価を獲得した企業はいない。A評価を獲得するには、1.5度目標に整合した、スコープ1・2・3の削減目標と連動するCEOの長期インセンティブ報酬制度を有していることが条件となる。

47社のなかで最も高いB評価を獲得したのは電力や天然ガスを供給するエクセル・エナジーだ。B評価の条件はCEO報酬と定量的な温室効果ガスの排出量削減指標を連動させていること。同社は、47社で唯一の排出量削減指標を報酬に連動させている企業だ。

47社のうち25社は、気候変動に関する取り組みをCEO報酬に連動させていなかった。気候変動に関連する何らかのインセンティブをCEO報酬に組み込んでいた企業は15社。定量的な指標に基づく気候変動関連のインセンティブをCEO報酬に組み込んでいた企業は6社だった。

こうした実態について、As You Sowのメリッサ・ウォルトン氏は、「CEOの報酬に連動する気候変動関連指標というのは、排出量削減への行動をタイムリーに促すものであるか、グリーンウォッシュの一種であるかのどちらかと言えます。投資家は報告書に目を通せば、その違いを見極めることができるでしょう。今回の調査で、CEOの報酬を気候変動関連指標に連動させている企業であっても、多くの企業が排出量削減への取り組みが十分な動機付けになるように指標を策定していないことが判明しました」と語る。

排出量削減のための具体的なインセンティブ報酬があることは、企業にとって重要な一歩だ。しかし、指標の中身・質は企業によって異なる。投資家は、報酬体系と気候変動関連指標の厳密さがどう関連しているかに特に注意を払う必要があるだろう。

As You Sowのデビッド・シュガー氏は「科学的根拠に基づく排出量削減の取り組みを行い、2050年までにネットゼロを目指す目標を立てるだけでは不十分です。企業は、1.5度目標に整合した現実的な排出量削減につながる明確な指標を用いて、リーダーに目標達成のための適切なインセンティブを与えるべきです」と語る。

一般的に、気候変動関連の指標は長期的インセンティブ報酬制度よりも年次賞与に組み込まれるが、年次賞与が総報酬に占める割合は低く、強力な動機付けにはならない。47社についても、気候変動関連の何らかの指標を有する22社のうち、長期インセンティブ報酬制度に気候変動関連指標を組み込んでいる企業はわずか23%だった。

投資家は、気候変動関連指標に連動する報酬の割合と、その指標が長期インセンティブ報酬制度と連動しているかに注目する必要がある。排出量の削減を有意義な形で進めるには、十分な動機付けとなり、明確に定義された気候変動関連指標がCEO報酬に組み込まれることが重要だ。

As You Sowのロザンナ・ランディス・ウィーバー氏は、報告書の意義について「多くの役員報酬制度は複雑で分かりにくいものです。こうした報酬制度を評価するには、役員報酬と気候変動のどちらについても十分に理解することが求められます。今回の報告書は、投資家が気候変動・排出量削減目標に関連するインセンティブ報酬制度のベストプラクティスを理解する手助けになることを目指して作成しました」と語っている。
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この記事の原文は www.sustainablebrands.com に掲載されています。

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