難病の妻のかつての輝き 自宅アトリエで岩永睦作品展 17日から時津

「妻が元気だった頃の作品を見てほしい」と語る岩永さん=時津町元村郷

 難病の妻のかつての輝きを見てほしい-。元中学校長で美術作家の岩永嘉人さん(67)が17日~11月13日、西日本美術展などで入選歴を持つ妻の睦(むつみ)さん(68)の作品展を、長崎県西彼時津町元村郷の自宅アトリエで開く。睦さんは2019年に国指定難病の前頭側頭葉変性症(意味性認知症)と診断され、現在は要介護5。元気だった頃に描いた30点余りの作品を展示する。

 美術教師だった嘉人さんにとって、睦さんは絵の描き方を手ほどきした最初の社会人。1986年に結婚した後も、創作の心構えを教え続けた。睦さんは92年に長崎市のコクラヤギャラリーで初個展。やがて作家として独り立ちし、90年代には県展、長崎新美術展、西日本美術展などで入選を重ねた。
 96年には夫婦のアトリエを建て、睦さんはそこで創作に熱中した。嘉人さんは仕事で多忙だったが、「仕事を辞めたらゆっくり美術館を巡る旅行をしようと、2人でよく語り合っていた」と振り返る。
 嘉人さんが妻の異変に気づいたのは2018年12月。かかとを骨折した睦さんに病床で風景画でも描くようスケッチブックを渡したところ、「下手な絵が出来上がってがくぜんとした」。やがて会話がかみ合わなくなり、睦さんは19年6月、意味性認知症と診断された。嘉人さんが社会教育団体を退職する9カ月前。症例の極めて少ない病気だった。
 病状はみるみる進行。妻からは言葉が消え、表情が消え、身の回りのことは何もできなくなった。今は嘉人さんが福祉サービス事業者を利用しながら1人で介護している。「夫婦で旅行する夢は手遅れ。今の彼女には私が誰かも分かっていないだろう。でも、最後までみとる覚悟でいる」
 だからこそ作品展の開催を急いだ。夫婦の創作の原点であるアトリエで、睦さんの画業の軌跡をたどる内容。「初期の具象作品から最近の小品まで、意識がはっきりしていた頃に彼女が描いた絵を、多くの人に見て何かを感じてもらい、思い出を共有したい」と嘉人さんは話している。
 土曜休み。来訪の際は嘉人さんに事前連絡が必要(電090.5947.9345)。

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