90年代ブリットポップ!オアシスを発見した男の「クリエイション・ストーリーズ」  伝説のマネージャー、アラン・マッギーの半生を描く音楽映画

音楽の魔法を実現させた“伝説のマネージャー”

“伝説” と冠されるミュージシャンは数多存在するが、作品をリスナーに届けるべく駆けずり回った功労者やムーブメントの立役者を修飾するために使う機会は、ごく限られているのではないだろうか。

そのチャンスをものにしたアラン・マッギーは、マルコム・マクラーレンと並ぶ “伝説のマネージャー” の1人。1983年から約17年にわたってクリエイション・レコーズを主宰し、ジーザス&メリー・チェイン、プライマル・スクリーム、マイ・ブラッディ・バレンタイン、ティーンエイジ・ファンクラブら錚々たる面々の作品を世に放ち、オアシスを発見したブリットポップの最重要人物だ。

“ほとんど実話” という『クリエイション・ストーリーズ~世界の音楽シーンを塗り替えた男~』はアランの半生に迫る音楽映画。『トレインスポッティング』のチームが集結し、アラン役をユエン・ブレムナーが演じ、製作総指揮をダニー・ボイルが務め、脚本を原作者のアーヴィン・ウェルシュが手掛けた。

実話を誇張しないジェットコースターさながらの110分間

本編はアランが記者のインタビューを受けるレーベル閉鎖後、“グラスゴー出身の赤毛の小男”が“ Mr.ブリットポップ”にのし上がる1970年代から90年代の回想、当時のライブやテレビ番組の映像、仕事か麻薬の二択の生活を送っていたアランの幻覚ともメタファーともつかない表現で構成される。

…… とだけ説明すると、胸焼けしそうにドラマティックな2時間半の超大作を想像されそうだが、実際は約1時間50分しかないのである。ゆったりとスクリーンを眺める行為が許されるのはアランが欲望のプールに溺れる場面(ニルヴァーナ『ネヴァーマインド』のパロディーのように)のみで、それ以外は目まぐるしく物語が展開する。

デヴィッド・ボウイに感化され、セックス・ピストルズにパンクの洗礼を受けた少年時代は突風のごとく過ぎ去り、TVパーソナリティーズのメンバーと共に川の流れのようにレーベルを立ち上げ、いつの間にか親友になっていたボビー・ギレスピーに紹介されたジザメリで成功するも、2年半もの制作期間を要した『ラヴレス』に全財産を費やし…… 兎にも角にも忙しない。それだけで1本の映画が作れてしまいそうな1つ1つのエピソードが過度に煽られることなく、5分かそこらの映像にぎゅっと集約されているのである。

ブリットポップファンなら「これ知ってる」「あの逸話出てこないんだ」と固唾を飲んで一喜一憂する楽しさを味わえるだろう。

錬金術の秘密は出会いのシンクロニシティー

2003年に刊行されたインタビュー本『クリエイション・レコーズ物語』の原題の一文「This Ecstasy Romance Cannot Last」を体現するかのような速度の本作だが、この時間の演出にこそアランの錬金術の秘密が詰まっているようにも感じられる。同書の「はじめに」に記述されている

「ぼくは、オアシスというグループを『見つけた』だけなんだけど……」

―― という文言の通り、アランの最大の才能は、“出会いを逃さず、レコード発売に導くこと” だ。

一度演奏を観たジザメリに声をかけ、「ただのゴミ同然だった」マイブラの天才を見抜き、ボビー率いるプライマルズを抱え、クリエイション所属のバンド目当てのライブでオアシスを発見する。

運が良いだけと言ってしまえばそれまでかもしれないが、いくつもの “嗅覚の鋭いマネージャーと才能あるミュージシャンの邂逅” をそれだけに留まらせず、作品を世界中のリスナーに届けるために時間も体も頭も金も差し出せるのは、並大抵の覚悟ではできない。

この映画の本質は、アランがそれぞれのバンドの存在を世に出すと決めるスピードと実行力の強さを疑似体験し、逆境を跳ね除けて這い上がるパンクネスを知ることにこそある。

カタリベ: 町田ノイズ

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