再び「ツル舞う里」に 山口県周南市八代、昨季倍増で手応え

ナベヅルの隠れ場にもなるというわらのうを、力を合わせて作る児童と住民

 本州唯一のナベヅル越冬地、山口県周南市の八代盆地の住民たちが、間もなくとみられる今季の飛来を迎える態勢を整えた。激減した飛来数を回復する活動に地域ぐるみで励む中、昨季は28羽と前季から倍増し、この四半世紀で最も多かった。越冬地として八代を覚え、再び舞い降りてもらえるか―。地元は「ツル舞う里」再生への期待を一段と膨らませている。

 ■ねぐらや餌場整備 地域一丸

 八代小の全校児童15人や住民グループは今月中旬、ナベヅルを呼び寄せる模型デコイやわらのうを田んぼに設置した。6年平田啓さん(12)は「八代を選んで来てくれるのがうれしい。一羽でも多く来てほしい」とひたむきに作業した。

 今季は月末にかけて飛来するとの見方が濃厚だ。昨年は10月23日に第1陣の2羽が到着した。市教委は20日、観察の拠点となる野鶴監視所を開いた。

 昨季は28羽。20羽超えは2000年度(21羽)以来だった。ねぐらの整備や餌場の管理をしてきた八代のツルを愛する会の瀬田郁郎会長(63)は「報われた思いがした。今年は増える期待が持てる」と語る。過去の越冬ヅルの中には、縄張りやねぐらの使い方から、八代を訪れた経験があると思われる個体もいる。家族をつくって戻ってくれば、それだけ回復に弾みがつく。

 戦前は350羽を超えていた八代だが、近年はほぼ1桁が続いた。戦後の経済発展に伴う農地の整備や減反政策で、田んぼが荒廃したことなどが減った要因と考えられている。対照的に国内最大の越冬地、鹿児島県出水市は毎年1万羽を超え、20年度は観測史上最多を更新した。

 ツルはシベリア方面から渡ってくる。山階鳥類研究所(千葉県我孫子市)の尾崎清明副所長は、八代の保全活動を評価した上で「全体の数が増え、八代の上空を通る個体も増えている可能性がある」と語る。加えて「リスクは残るが、さらに多くの数が八代に来る可能性は高まっている」と説く。

 一方、ツルの移送事業は道半ばだ。05年度以降、計28羽を出水市から受け入れ、20羽を放鳥した。うち9羽は同市で再確認できたが、八代は1例もない。今季は昨季に出水市から受け入れて八代で夏を越した4羽と新たな移送ヅルを合わせ過去最多の10羽程度を放す構想を描く。

 周南市教委ツル担当の増山雄士さん(43)は「まとめて放せば集団化し、危険を避けやすい。群れをなして戻ってほしい」と願う。

 八代では9月11日、ツルのための環境保全や移送事業に力を注いだNPO法人ナベヅル環境保護協会の初代会長、西岡武美さんが90歳で死去した。家族によると、上向いてきた飛来数を喜んでいたという。里の再生は、多くの住民がつなぐ悲願でもある。

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