大学発ベンチャーの「起源」(67) ElevationSpace

(同社発表資料より)

ElevationSpace(仙台市)は、、東北大学発の宇宙開発ベンチャー。共同創業者で取締役CTO(最高技術責任者)を兼務する東北大大学院工学研究科航空宇宙工学専攻の桒原聡文准教授らの研究成果を実用化するため、2021年2月に立ち上げた。「誰もが宇宙で生活できる世界を創り、人の未来を豊かにする」のが同社のミッション(使命)だ。

15機以上の人工衛星を開発した東北大の技術を生かす

同社を生み出したのは同大のスタートアップ支援の成果だ。2015年に同大の100%出資子会社として東北大学ベンチャーパートナーズを設立。2020年の「スタートアップ・ユニバーシティ宣言」で、独自のベンチャー創出支援パッケージを打ち出した。

その一環として学内アクセラファンドを創設し、ビジネスプランコンテストの優秀者などに対して事業化支援資金を拠出している。同社創業者で東北大院修士課程在籍中だった小林稜平代表取締役CEO(最高経営責任者)も、この支援を受けて同社を立ち上げた。

東北大には15機以上の人工衛星を開発してきた実績がある。元々は建築学を学んでいた小林CEOだが、月面基地や衛星軌道を周回する宇宙ホテルといった宇宙建築に興味を持つ。それを実現するためのワンステップとして、国際宇宙ステーションに代わる超小型の無人宇宙プラットフォーム開発に乗り出した。


小型軽量で低コストの「無人宇宙ステーション」を実現へ

現在、無重力環境下での実験や研究の場としては、国際宇宙ステーション(ISS)というプラットフォームがある。しかし、ISSは老朽化が進み、2030年頃には運用を修了する予定だ。代替のステーションには莫大な投資が必要で、当然ながらそこで実施する研究開発には多額のコストがかかる。

そこで同社では無人の小型人工衛星を、有人の宇宙ステーションに代わる研究開発プラットフォームにすることを目指す。リモート技術の進歩や電子機器やセンサーなどの小型軽量化により、無人でもさまざまな実験ができるようになった。小型人工衛星を利用することで、コスト削減も期待できる。

2023年末までに実験装置を積んだ小型宇宙利用・回収プラットフォーム(ELS-R)の実証機を打ち上げる予定だ。この実証機では、ユーグレナ<2931>がミドリムシの宇宙空間での培養実験を実施するという。人工衛星の打ち上げや軌道投入はもちろんのこと、実験終了後には人工衛星を安全に回収する大気圏再突入技術も実証する。

最先端の宇宙ビジネスをターゲットとする同社に対する期待は大きい。2022年9月に「大学発ベンチャー表彰2022」で、「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)理事長賞」を受賞した。同3月にはジェネシア・ベンチャーズのGenesia Venture Fund 3号投資事業有限責任組合をはじめとした6社を引き受け先とするシードラウンドの第三者割当増資により、約3億1000万円の資金調達に成功している。広大な宇宙にかける同社の夢は、ますます広がりそうだ。

文:M&A Online編集部

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