元J1川崎のFW鄭大世が現役引退 北朝鮮代表でW杯出場 「最高に痛快なサッカー人生」 J2町田が発表

鄭大世=2009年3月、等々力

 J2町田は28日、元北朝鮮代表FWの鄭大世(38)が今季限りで現役を引退すると発表した。J1川崎やドイツのボーフム、韓国の水原などで活躍し、2010年のワールドカップ(W杯)南アフリカ大会にも出場した。

 在日コリアン3世の鄭大世は朝鮮大学校から06年に川崎入り。屈強なフィジカルを生かしたキープ力と広いシュートレンジを武器に頭角を現し、07年から3季連続でリーグ戦2桁得点をマークした。J1通算181試合出場65得点。北朝鮮代表のエースとして、同国を44年ぶりのW杯出場にも導いた。

 町田を通じて発表したコメントは次の通り。

 「裏山のウグイスの鳴き声で目を覚ます。そんなすがすがしい朝を迎えてた町田での2年間、最後の最後まで。本当に最後の試合まで苦しかった。これを遅くに書き上げた後に夢で、外されてるのに怒鳴られる夢でうなされ、朝思わず加筆した。

 現実もそんな日常だった。全て伏線だと言い聞かせ、この”痛みや苦しみ”は自分だけの花を咲かせるためだと愚痴りながらも、食らいついた自分と、周りが思う今の質の差にもうすうす気がついてたが、年がいもなく、まだできるとギラついてたけど、変わることはなかった。

 苦しさは変わらずで、こんな歳でも、悔しくて何度も泣いた。でも喜びは、喉が裂けるほど咆哮(ほうこう)したあの頃とは、もう違う。同世代に勇気づけられ、ひと回り下に慰められた。歳の半分以下の選手たちとしのぎを削った幼き頃、買ってもらったユニの袖のJリーグのエンブレム。太くなった腕の袖のそれを見るたびに、胸が熱くなった。

 何年も前から、今日が最後かもと毎試合トイレにこもり嗚咽(おえつ)を漏らして泣いてた。酸いも甘いも味わい、きれい事だと思ってたあの言葉も、今なら素直な気持ちで言える。

 『みんなのおかげ』

 こんな性格じゃなかったらもっといい景色が見えたかも?

 こんなエゴイストだからここまでこれた?

 違う。みんなの支えで今がある。後悔や、人としての失敗は数え切れないけどはっきりと言える。これが『ベスト』。

 砂埃舞う大学都リーグ3部からのし上がった、最高に痛快なサッカー人生。多くをサッカーからもらい、今は心が満たされてる。

 あの頃想像もできなかった舞台で夢中で走った17年間に終了の笛を吹き、終止符を打つ。悠然と胸を張ってスパイクを脱ぎます。エゴイストなくせに、ばかみたいに繊細で感情的な、こんな僕に関心を持ってくれてありがとうございました」

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