廃棄される紙パッケージとコーヒーの残りかすを掛け合わせたら何になる? ネスレ日本と日清紡グループが新たな共創へ

「ネスカフェ エコ&システムパック」とコーヒーの残りかす

廃棄される紙パッケージと、コーヒーの残りかすを掛け合わせて生まれるものは?――。プラスチック削減に向けて紙包装化を進めるネスレ日本と、繊維産業における廃棄物の有効活用に取り組む日清紡グループの共創が、生活者にとって身近な素材を通して形になり、さまざまな試みがなされている。古紙を繊維に変え、衣服を製造する技術を可能にしたもので、現在、首都圏で回収した紙パックからつくった紙糸をコーヒー色に染め、「子ども服」へとアップサイクルして神戸市内の児童養護施設に届けるプロジェクトを展開中だ。(廣末智子)

業界初、紙パッケージから〝紙糸〟をつくり、繊維製品へ

ネスレ日本と日清紡グループのニッシントーア・岩尾は、それぞれの強みと知見を生かし、共同で紙のパッケージやコーヒーの残りかすを活用し、身近なものへと生まれ変わらせる研究を2021年に開始。約1年の試行錯誤を経て、紙パッケージから〝紙糸〟をつくり出し、生地素材に仕上げることで衣服をはじめとするさまざまな繊維製品にアップサイクルすることに成功した。

紙パッケージからできた〝紙糸〟(左)と、コーヒー色に染められた生地

できあがった生地は、これまでは廃棄されていたレギュラーコーヒーの残りかすで染色。〝のこり染め〟と呼ばれる、食品や食物を加工した後に出る残りかすや枝葉を原料にした染色方法で、染料抽出後のコーヒーは、発酵・熟成させることによって微生物の力を引き出し、植物性堆肥として活用する。

ネスレ日本によると、紙糸とは和紙を原料に古来、日本でつくられていた繊維をいうが、和紙の代わりに再生紙を使用し、コーヒーを染料として染色したのは「業界初」という。

紙パッケージをアップサイクルしてできたTシャツとエプロン

この技術開発を受け、同社は今年2月、消費者に環境への意識を高めてもらおうと、紙製の詰め替え容器である「ネスカフェ エコ&システムパック」を全国10カ所で回収。集まったパッケージと、工場で製造時に規格外として廃棄対象となるパッケージからTシャツやエプロンをアップサイクルし、直営カフェのユニフォームとして採用したところ、スタッフや顧客から「紙でできているとは思えないほどしっかりしている」「コーヒー色が可愛い」といった声が多く上がった。

来月15日まで都内23カ所で紙パッケージなど回収中 アップサイクル子ども服を神戸の児童養護施設へ

子ども服プロジェクトはその第2弾で、本社が神戸市にあり、地域課題の解決に向けて、以前から多方面にわたって神戸市と連携する同社が、同市との新たな連携の取り組みとして実施。東京都内で回収した紙パッケージに、六甲山の手入れ時に発生した間伐材を混合してつくった紙糸から生地をつくり、染色を施したあと、子ども向けのTシャツを製造し、児童養護施設の子どもたちに着てもらうことを目的としている。

回収ボックスはこのほど、12月15日までの期間限定で、都内のコワーキングスペースなど計23カ所に設置。「ネスカフェ エコ&システムパック」と、「キットカット ミニ」など紙パッケージ製品の紙袋のほか、牛乳パックなどの紙パック(切り開き、軽く洗って乾かしたもの)を広く集める。できあがったTシャツは来年2月ごろに神戸市内13の児童養護施設に届ける予定だ。

子ども用のTシャツ1枚に必要な紙パッケージと六甲山の間伐材は合わせて約60グラムで、間伐材は六甲山の手入れから発生する間伐材の活用の仕組みづくりを進める「Kobeもりの木プロジェクト」から提供を受ける。

日常生活において発生する空きパッケージを捨てるのではなく、回収に協力すれば、衣服という目に見える形で生まれ変わり、それが子どもたちの支援にもつながるという循環の仕組み――。同社の広報担当者は「多くの人に気軽に参加してもらい、東京にいながら、神戸を想う気持ちを丁寧に紡いでいきたい」と話している。

アパレルメーカーへの紙糸の供給や製品化も

同社によると、紙糸の用途は極めて多彩であり、品質も確立されてきたため、今回の取り組みを機に日清紡グループを通じてアパレルメーカーへの供給や製品化を進める。既にコープさっぽろや西日本マックスバリューなど一部のスーパーマーケットに回収ボックスを設置しており、今後、全国の小売店に広げる計画という。

ネスレは、製品の包装材料を2025年までに100%リサイクル可能、あるいはリユース可能に、またバージンプラスチックの使用量を3分の1削減するというコミットメントを掲げ、日本でも、「キットカット」のほぼ全ての大袋タイプの外袋を紙製に変更。

一方の日清紡グループは、近年、アパレル業界で問題になっている化学繊維に含まれるマイクロプラスチックによる海洋汚染問題などを背景に、「環境・エネルギーカンパニー」として、環境負荷低減に力を入れている。

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