やはり赤色矮星の周囲は生命にとって過酷? 66光年先の太陽系外惑星を調べた研究成果

【▲ 恒星の放射によって大気が吹き飛ばされる系外惑星の想像図(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

カンザス大学のIan Crossfieldさんを筆頭とする研究チームは、南天の「ぼうえんきょう座」の方向約66光年先にある太陽系外惑星「GJ 1252b」に関する研究成果を発表しました。今回の成果は、地球外生命の探索にも影響を及ぼすかもしれません。

■GJ 1252bは表面温度が摂氏1200度以上、大気がほぼ存在しない可能性

GJ 1252bは地球と比べて直径が約1.18倍・質量が約1.32倍の、地球よりも一回り大きな系外惑星です。主星(親星)の「GJ 1252」からは約140万km(約0.009天文単位)しか離れておらず、GJ 1252bは約12時間半という短い周期でGJ 1252を公転しています。

地球から見たGJ 1252bが主星の裏側へと回り込む時(二次食)の観測データを研究チームが分析したところ、GJ 1252bの昼側の温度は摂氏約1220度に達している可能性が示されました。地球上では金、銀、銅といった金属さえも溶けてしまうほどの高温です。研究チームはアメリカ航空宇宙局(NASA)が運用していた赤外線宇宙望遠鏡「スピッツァー」によって取得されたデータ(波長4.5μm)を分析に用いました。

この温度と予想される大気圧をもとに、研究チームはGJ 1252bには大気が存在しない(あるとしても非常に希薄)と考えています。地球から太陽までの距離の1パーセント未満しか主星から離れていないのであれば表面温度がこれほど高くても不思議ではありませんが、今回の研究で注目されているのは主星のGJ 1252が赤色矮星である点です。

赤色矮星は天の川銀河ではありふれた小さな低温の恒星ですが、強力な爆発現象「フレア」が表面で発生しやすい、非常に活発なタイプの星として知られています。研究に参加したカリフォルニア大学リバーサイド校のMichelle Hillさんは「恒星の放射による圧力は計り知れず、惑星の大気を吹き飛ばすのに十分なほどです」と語っています。恒星の放射によって失われた大気は惑星内部から火山活動で放出されたガスなどによって補われる可能性があるものの、GJ 1252bの場合は失われた大気を補いきれなかったとみられています。

地球に似た岩石質と推定される系外惑星は、ハビタブルゾーンを公転しているなどの条件次第では生命が誕生している可能性もあるとして注目されています。しかし、赤色矮星の強力なフレアは惑星上の生命を脅かすだけでなく、長期的には惑星の大気を剥ぎ取ってしまうことも考えられることから、赤色矮星を公転する系外惑星の環境は生命にとって厳しいものである可能性が指摘されていました。そのいっぽうで、強力なフレアは赤色矮星の高緯度で発生する傾向があり、惑星への影響は限定的かもしれないとする研究成果も発表されています。

今回の成果についてHillさんは、赤色矮星から離れた軌道を公転している系外惑星に対しても“悪い兆し”の可能性があるとした上で、「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡による観測に期待を寄せています。前述のようにGJ 1252bは赤色矮星のかなり近くを公転していますが、フレアによって大気が失われるとすれば、もっと離れている惑星でも生命は誕生・存続できない可能性があるからです。赤色矮星はありふれた恒星であるだけに、この研究は系外惑星を対象とした地球外生命の探索にも影響を及ぼすかもしれません。

ただ、赤色矮星を公転するすべての岩石惑星がGJ 1252bと同じ運命をたどるとは限らず、十分離れていれば大気を保持できる可能性があることから、Hillさん自身は楽観視しているともコメントしています。

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文/松村武宏

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