ガンズ・アンド・ローゼズ 来日公演中!前代未聞の長編2部作は動と静のコントラスト  ガンズ来日公演は11月4日&5日! スペシャルエディションリリースも待ち遠しい

デビュー作から大ブレイク! ガンズ・アンド・ローゼズに課せられた期待と重圧

大ヒットしたアルバムの次なる展開。どんなアーティストにとっても、キャリアにおいて乗り越えなければならない重要なキーポイントだ。ましてやデビュー作から大ブレイクしたガンズ・アンド・ローゼズのようなバンドにとっては、困難の度合いは格段に大きくなる。

勿論ガンズの場合、当時の勢いから壁にぶち当たるとは到底思えなかったけど、次なるフルアルバムに対するファン、メディア、関係者の期待は桁違いに大きかった。バンド側に課せられるプレッシャーは、計り知れないものだったに違いない。

普通のバンドならば、デビュー作と違わぬ “二匹目のドジョウ” を狙う、無難な選択をするのが常套手段だ。ガンズにしても、まずは『アペタイト・フォー・ディストラクション』に倣い、マイク・クリンクをプロデューサーに起用する体制で制作を進めていった。

ところが、好事魔多し。90年代に突入して間もなく、ガンズらしさを生み出してきたビートの要であるドラマーのスティーヴン・アドラーが、ドラッグ問題で解雇されてしまう。バンドの2枚看板のアクセル・ローズ、スラッシュ、ソングライティングの要であるイジー・ストラドリン(彼もその後脱退してしまうが)らは不動にせよ、同じラインナップが揃わない状況は、前作と全く同じ流れを汲む続編を生み出すのに、暗雲が立ち込め始めたことを意味していた。

結局、新ドラマーとしてザ・カルトのマット・ソーラムが加入。さらにキーボード奏者のディジー・リードを迎えて作業は続行されたが、そこにきて意外なニュースが届く。ニューアルバムがなんと2部作としてリリースされるというのだ。インターネットのない時代、限られたメディアを通じたわずかな情報が伝わっては、様々な憶測が飛び交った。それはガンズの新作への注目度が、それだけ高い証でもあった。

動の “Ⅰ” と静の “Ⅱ”。コントラストを描く力作「ユーズ・ユア・イリュージョン」

奇しくもガンズを輩出した80sメタルバブルにとどめを刺した、ニルヴァーナの『ネヴァーマインド』と同タイミングの1991年9月、新しいフルアルバム『ユーズ・ユア・イリュージョン』が遂にリリースされた。『GN'Rライズ』を挟みつつも、デビュー作から約4年もの歳月が経過していた。

実際に手にしたCDは2枚組ではなく、別個の2部作として『ユーズ・ユア・イリュージョンⅠ』『ユーズ・ユア・イリュージョンⅡ』とタイトルされていた。ジャケットのアートワークは全く同じで、それぞれ赤オレンジとブルーの色味だけが違いを主張していた。

どちらから聴こうか、敢えて『Ⅱ』から? なんて一瞬迷ったけど、まずは気をてらわず『Ⅰ』をCDプレイヤーにセットした。1曲目の「ライト・ネクスト・ドア・トゥ・ヘル」が流れ始め、ギターの生々しいトレブリーな歪みが耳をつんざく。アクセルのヴォーカルは勿論、パンキッシュな勢いを感じさせるナンバーで、初っ端からエンジン全開だ。守りに入らずガンズはもっと攻めてる! そんな好印象を受けた。

それぞれのアルバム全体を通した楽曲の方向性から、『Ⅰ』は激しめな方、『Ⅱ』は静かめな方と、“動と静” の対比で評された。それぞれ1曲目の印象の違いによるところも大きかっただろう。作風の違いはあれど、2枚ともガンズにしか成し得ないロックンロールの刻印をしっかりと感じ取れた。

同時期に『ブラックアルバム』を発表したメタリカは、スラッシュメタルからヘヴィネスへと軸足を移し、巧みに時代の流れを反映させて、綿密に構成された作品を生み出した。一方で、ガンズのスタンスは全く真逆だ。「ユークッド・ビー・マイン」「ノーヴェンバー・レイン」をはじめとしたキラーチューンを随所に散りばめながらも、ハードなロックンロールから大仰なバラード、カヴァー、そして長尺曲に至るまで、持てる音楽性のすべてを思いつくままにぶち込んでいった。幅広い指向を放つ楽曲が意表をついて次々に飛び出す、まるでおもちゃ箱をひっくり返したような作品を呈示したのだ。

CDフォーマットをギリギリまで使い倒した2部作・トータル30曲!

なんといっても驚いたのは、収録曲数と収録時間だ。『Ⅰ』が16曲、『Ⅱ』が14曲、どちらも測ったかのように、CDフォーマットで許されるギリギリの約76分付近まで収められていた。

通常アルバムを作る場合、多めに楽曲を用意して、その中から絞っていき、曲順を決めて構成していくのが一般的だ。ところが、『ユーズ・ユア・イリュージョン』で実践した方法論は、あり余る創作意欲の末に生み出された大量の楽曲を、削ぎ落とすどころか1枚に収めることすら放棄し、いわゆる捨て曲的な類に至るまで、余す所なく盛り込み収録したのだ。その結果として完成した作品は、一般的なロックアルバムのフォーマットを逸脱した、前代未聞のものになった。

自分たちの赴くままに、やりたいようにやる。それは『アペタイト・フォー・ディストラクション』の再現を願う周囲の要求すらも、まるであざ笑うかのようだった。スラッシュが後年、“ユーズ『Ⅰ』と『Ⅱ』のどちらにどの曲が入ってるか、自分達も把握していない”―― という主旨の発言をしたのは、あまりに面白すぎる。

できたものは熱いうちに全て聴かせる、次作に向け楽曲をストックしようという発想すらない大胆さ、その潔さが何ともロックしているではないか。

サブスク時代到来を、30年前に予見?

発売から30年後の今年、『ユーズ・ユア・イリュージョン』の新装盤に加え、限定でスーパーデラックスエディションが用意された。CDの方もお腹一杯の内容だが、輸入限定のLP盤はなんと12枚! に渡り、音源部分だけでも笑ってしまうほどの特盛感が満載だ。

これだけ多くの楽曲を含んだ『ユーズ・ユア・イリュージョン』だけに、サブスクを活用して、ファンそれぞれが2枚の楽曲からチョイスし並び替えて、新たなトラックリストを作ってみる―― そんな楽しみ方も容易にできるだろう。

アルバムという概念がすっかり薄れてしまったサブスク全盛の今、ある意味、そんな時代の到来を予見したかのように、『ユーズ・ユア・イリュージョン』がサブスクと親和性が高い作品にも思えるのは、何とも興味深い。もちろん当時のガンズにそんな意図はなかったわけだが、恐らく世界中のガンズファンの多くが、自分だけの『ユーズ・ユア・イリュージョン』を、サブスクを通じて新たな思いで楽しんでいるに違いない。

カタリベ: 中塚一晶

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