「一歩でも、半歩でも」還暦過ぎた母トライ ラグビー神奈川県代表唯一の女性選手

ねんりんピックに向け、練習に余念がないラグビーフットボール神奈川県代表の石黒陽子さん=海老名市内の練習場

 還暦を過ぎてラグビーを志した女性がいる。神奈川県大和市在住の石黒陽子さん(64)。進境著しい日本代表の活躍に触発されて、2年前にシニアチームの門をたたいた。12日に神奈川で開幕する60歳以上が中心のスポーツ・文化の祭典「ねんりんピック」で、ラグビーフットボールの県代表に女性で唯一、名を連ねる。点取り屋のポジションであるウイングを任され「ボールを受けたら一歩でも半歩でも前進してトライを決めたい」と意気軒高だ。

 休日の昼下がり、河川敷のグラウンドで多くの男性に混じって楕円(だえん)球を追う石黒さんの姿があった。

 「陽子さん、もっと声出して」「ボールを受けた瞬間に加速して一気に突き抜けよう」「一直線だけじゃなく、斜めの動きも意識して」

 周囲から迫力ある声でアドバイスが飛ぶ。

 「熱血指導で容赦なし。でも親身で何だか温かい」。約2時間の練習を終えた石黒さんに充実感が漂う。

 「スポーツは何でも好き」で、テニスやマラソンを愛好していた石黒さんがラグビーと出合ったのは2019年に日本で開催されたワールドカップ。初の決勝トーナメント進出を果たした桜のジャージーの躍動を目の当たりにして「体格も持ち味も違う15人がそれぞれの役割を果たしながらトライを目指す。チームプレーとさまざまな展開に魅力を感じた」と話す。

 プレーしたいと思い立ったら、行動に移さずにはいられない性分。20年夏、県内を拠点に活動するシニアチーム「神奈川不惑クラブ」に入部した。「今まで自力でトライを決めたのは2回。みんなから『この味を覚えたらやめられない』と言われたが、その通り。ラグビーにのめり込んだ」

 不惑クラブの会長で、県代表の選手兼監督でもある市橋健次さん(67)は「精力的に練習に励んでチームに溶け込む石黒さんの存在はみんなの刺激になっている。女性プレーヤーのすそ野も広げてほしい」と期待する。

 海外で暮らす長女の朝香さん(35)が1歳の孫イリヤちゃんらと帰国しており、石黒さんは「ねんりんピックは通過点だが、勇姿を見せたい」と地元大会での活躍を誓う。朝香さんは「アクティブな母だが、還暦を過ぎてラグビーとは」とほほ笑み、「すごく楽しいようなので無理なく続けてほしい」とエールを送る。

 ◇

 県代表チームがねんりんピックのラグビーフットボールに出場するのは今大会が初。横浜市、川崎市代表チームを含め26チームが参加し、13、14日に厚木市荻野運動公園競技場と海老名運動公園陸上競技場で熱戦が展開される。

© 株式会社神奈川新聞社