中華そば 坂本 〜 伝統の笠岡ラーメンを守る、安くてうまい昭和レトロなラーメン店

全国各地にはいろいろなご当地ラーメンがありますよね。
実は、岡山県最西部にある笠岡市にもご当地ラーメンがあるのです。

それが「笠岡ラーメン」。

全国のラーメン好きのあいだで有名な、知る人ぞ知るご当地ラーメンです。

そのなかでも人気があるのが、笠岡市中心部にある「中華そば 坂本」。

なんと、笠岡市内で現存(2022年(令和4年)現在)する最古のラーメン店です。

提供するラーメンは、笠岡ラーメンの基本形ともいえるもの。

また、ノスタルジーを感じさせる建物外観や店内などの雰囲気、「勝手に精算機」という会計システムなど、ラーメン以外も個性的です。

長年にわたり笠岡の地域に愛されてきたラーメン店・中華そば 坂本について紹介します。

中華そば 坂本は笠岡ラーメンの名店で、笠岡市内で現存最古のラーメン店

中華そば 坂本(以下:坂本)は、笠岡ラーメンを代表する店のひとつです。
場所は笠岡市中心部、笠岡駅近く。

そして坂本は、笠岡市内に現存するラーメン店で、一番古い店です。

歴史ある笠岡ラーメンの名店として有名になり、市内や周辺からだけでなく、坂本の笠岡ラーメンを食べに全国からお客さんがやって来ます。

しかも2010年(平成22年)4月には、「新横浜ラーメン博物館」に期間限定出店をしました。

坂本のメニューは、とてもシンプルです。

なんと「中華そば」の並と大盛のみ

メニューの少ない店でも、ラーメン以外に白米かおにぎりくらいはあったりしますよね。
しかし、坂本では白米・おにぎりも含め、サイドメニューは一切なし。

文字どおり「ラーメン専門店」なのです。

この割り切り具合に、強いこだわりを感じます。

笠岡ラーメンは戦前からあるカシワづくしの笠岡のご当地ラーメン

笠岡ラーメンとはどんなものか、特徴について簡単に紹介します。

笠岡ラーメンの定義は以下の2つ。

  • スープのダシにカシワを使っている
  • 具としてカシワ肉の煮鶏が載っている

つまり、笠岡ラーメンの最大のポイントは「カシワ」なんです。

カシワとは、岡山県周辺の方言。
廃鶏(はいけい)や陳鶏(ひねどり)と呼ばれるもので、卵を産まなくなったニワトリのことです。

ほかにも笠岡ラーメンには、以下のような傾向があります。

  • スープの味は醤油味が多い
  • 煮鶏以外の具は、ネギやメンマくらいのシンプルな場合が多い
  • 店によっては、ネギを斜めに切っている

笠岡ラーメンの発祥は明確でありませんが、戦前にすでに存在していたといわれます。

もともと笠岡周辺は、古くから養鶏(ようけい)が盛んでした。

また製麺業者も多く、麺類になじみがあったことから、自然発生的に笠岡ラーメンの形態が誕生したといわれています。

笠岡ラーメンの王道を行く坂本の「中華そば」

笠岡ラーメンの代表店とされる坂本。

坂本の「中華そば」は、笠岡ラーメンの王道といえるスタンダードなスタイルです。

カシワダシの醤油スープカシワの煮鶏メンマ斜め切りのネギというシンプルな具材が載っています。

▼笠岡ラーメンの象徴でもあるカシワの煮鶏スライス。

カシワは歯ごたえのある固めの肉質ですが、スライスされているので食べやすいです。

カシワの煮鶏は、かむたびに煮鶏のうまみと甘辛い醤油の風味が染み出てきます。

食べたあと、また一口欲しくなるような、クセになる味わいです。

坂本の中華そばには、たくさんの煮鶏が載っているので、しっかりとカシワの味が楽しめます。

▼ラーメンの重要ポイントであるスープ。

なんと坂本のスープは、カシワ・醤油・水だけでつくられています。

一口飲むと、カシワのダシの風味とともに、甘辛い醤油の味わいが口の中に広がります。

▼麺は、笠岡市内の製麺業者・丸新(まるしん)製麺のもの。

坂本の中華そばの麺は細めのストレートで、低加水・低かんすい。

だから麺には、モチッとした弾力があります。

丸新麺業の麺はいい小麦を使っているので、おいしいのです。

▼青ネギがたくさん載っています。

▼青ネギは、長めの斜め切りです。

一般的なラーメン店は輪切りの刻みネギなので、長めの斜め切りはネギの存在感があると思いました。

▼メンマも忘れてはいけません。

坂本のメンマは、毎朝店で味付けをしています。

コリコリとした食感と、適度な味付け、ほんのりと効いた一味の風味がおいしい。

笠岡出身ではない私が初めて笠岡ラーメンを食べたとき、懐かしい味わいでありながら、斬新(ざんしん)なおいしさも感じたのを覚えています。

中華そば 坂本は店のノスタルジーあふれる雰囲気や会計方法も特徴

坂本は、店内外の雰囲気もノスタルジック。
昔のラーメン店のそのものの雰囲気が残っています。

大きな看板や派手な看板もなく、一見するとラーメン店かどうか、あるいは飲食店かどうかはわかりません。

店内の雰囲気も昭和時代を思わせる懐かしいたたずまいです。

年季の入ったパイプ椅子も雰囲気にマッチして、味があるのではないでしょうか。

歴史ある店内で、歴史のあるラーメンを食べるとおいしさもいっそう増してきそうです。

▼そして、もうひとつの坂本の特徴が「勝手に精算機」。

勝手に精算機とは、会計のセルフ方式のことです。

自分で食べた金額のお金をトレーに入れ、お釣りが必要なときは、自分でお釣りの金額のお金を取ります。

名前もシステムもとてもユニークです。

笠岡市内の現存する最古のラーメン店であり、笠岡ラーメンの名店として地元だけでなく全国からお客さんが来る坂本。

そんな坂本の店主・坂本 英喜(さかもと ひでき)さんにインタビューをしました。

中華そば 坂本の店主・坂本 英喜さんにインタビュー

笠岡市内の現存する最古のラーメン店であり、笠岡ラーメンの名店として地元だけでなく全国からお客さんが来る「中華そば 坂本」。

坂本の店主・坂本 英喜(さかもと ひでき)さんに、店の歴史や家業を継いだきっかけ、店のこだわり、今後の抱負などについて話を聞きました。

インタビューは2020年9月の初回取材時に行った内容を掲載しています。

坂本の起源はカシワ肉専門の小売店「カシワ屋」

──「中華そば 坂本」の開業の経緯は?

坂本 (敬称略)──

開業したのは先代である父です。創業年は昭和33年(1958年)でした。

もとはラーメン店でなく「カシワ屋」でした。
場所は、今より少し西のところです。

やがてカシワ屋の横で、カシワを使ったラーメン店もやるようになりました。
その後、カシワ屋をやめてラーメン専業になっています。

──「カシワ屋」とは

坂本──

若い世代にはわからないでしょうね (笑)

カシワ肉、つまり卵を産まなくなったニワトリ肉専門の小売店です。
笠岡周辺は養鶏が盛んだったので、カシワ屋が多かったんですよ。

先代がカシワ屋を始めた昭和30年代は、牛肉や豚肉はまだまだ高級な時代。

だから、庶民にとって肉といえばクジラ肉か鶏肉でした。
しかも鶏肉は、カシワだったんです。

カシワ屋は、今の精肉店とはちょっとイメージが違います。

店によってスタイルは違っていたかもしれませんが、うちの店では毎朝農家を回って、卵を産まなくなったニワトリを仕入れていました。

それを店でさばいて、部位ごとにお客さんへ販売していたんです。

家業を継いだのは、地域に愛されている店は残していかないといけないと感じたから

──今の場所に移ったのはいつごろ?

坂本──

う〜ん、ちょっとよく覚えていないんです。

昭和50年代だったと思うのですが…。

実は、私はもともとラーメン店に興味がありませんでした。
だから、当時のことは曖昧なんですよ (笑)

──では、店を継ぐつもりもなかった?

坂本──

そのとおりですね。

仕事もラーメン店どころか飲食店とは無縁の、事務職でした。

でもだんだんと先代が年をとっていくなかで、地域に愛されている坂本という店は、地域に必要な店なんだと思ってくるようになったんです。

長年市内の人に愛されて多くのお客さんが来て、笠岡ラーメンの名店として全国からお客さんが来ています。

また、当店に笠岡ラーメンのイロハを習いに来る人もいるんです。
県内外に当店で学んだかたがラーメン店を開いています。

だから坂本という店をこれからも残していくために、跡を継ぐことを決心。
仕事を退職しました。

「中華そば 坂本」で働くようになったのは、2009年(平成21年)4月からです。
父からノウハウを教えてもらいながら、修業をしました。

坂本のこだわりは中華そばの味と提供スピードと「朝ラー」

──こだわっていることは?

坂本──

もちろん、ラーメンの味や食材にはこだわっています。

ですが、それと同じようにこだわっているのが、ラーメンを提供するスピードですね。

当店は、ありがたいことに多くのお客さんが来てくれています。
だから注文後の提供は早くしてあげたいんですよ。

特に昼は、仕事中のかたが昼休憩に食べに来てくれています。

働いているかたは休憩時間が決まっているのですから、早くしてあげるべきでしょう。

当店は2人体制で、人員に余裕がありません。

そこで、ラーメンの提供に注力するための工夫のひとつが、メニューを増やさないこと。

中華そばの並と大盛のみにすることで、ラーメンづくりのみに集中し、提供を早くできます。

「勝手に精算機」を導入したのも同じ理由です。
お客さんに自分で会計をしてもらうことで、ラーメンづくりに集中しています。

あと、別のこだわりは朝早く店を開けてラーメンを提供していること。
いわゆる「朝ラー (朝にラーメンを食すこと)」ですね。

──朝ラーの需要はある?

坂本──

それが、けっこうあるんですよ。

朝ラー専門の常連さんも多いんです。
平日は働いているかた、土曜日はご家族の朝ラーが多いですね。

今は当店は午前9時30分から開店しています。
ずっと昔からやっているんですよ。

でも、先代の時代はもっと早い時間帯からやっていました。
午前7時か7時30分くらいだったかな。

というのも、昔は今よりも電車・バス通勤が多い時代です。

だから朝、うちでラーメンを食べて、そのまま電車やバスに乗って仕事に行く人もいたんですよ。

昔から「坂本の朝営業」は地域に定着しているので、時間帯は多少変わっても続けていかねばならぬと思っています。

これからも伝統ある坂本の店を繋いでいきたい

──今後の抱負や目標は?

坂本──

やっぱり目標は、安くておいしいラーメンをつくり続けることですね。

笠岡ラーメンの認知度が少しずつ高まり、全国各地からお客さんが来てくれるようになりました。

とても歓迎していますし、ありがたいことです。

いっぽう、地元の常連さんも多く来ていただいています。
なかには親子三代で常連になっていただいているかたも。

観光客が多くなれば、地元のお客が離れるなんて話もありますが、当店ではそんなことはありません。

観光で遠方から来られたかた、長年通っていただいている地元のかた、両方来ていただいているのはうれしいですね。

これからも観光のかた、地元のかた、どちらからも愛される店を続けて行ければいいなと思います。

だから、まずは5年。それからまた次の5年。体の続く限りがんばっていきたいです。

あとは伝統のある店を次世代に繋いでいきたいので、後継者も育てていきたいと考えています。

さいごに

笠岡ラーメンの代表店であり、笠岡市で現存最古のラーメン店である中華そば 坂本。

長年地域に愛され続け、いまや全国からもお客さんが来ます。

外観や店内の雰囲気だけでなく、ラーメンも昔ながらの味わいで、まさに歴史的価値のある店といえるかもしれません。

そんな伝統の店を守るために跡を継いだ二代目店主の坂本さん。

味の伝統を守るだけでなく提供スピードにもこだわり、提供を速くするための工夫をするなど、お客さんのための店という意識を強く感じました。

笠岡に来たら、笠岡伝統の味である中華そば坂本の笠岡ラーメンをぜひ食べてみてください。

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