赤色矮星のフレアにさらされる惑星ではオゾン層の形成が促されているかもしれない

【▲ 高緯度で強力なフレアが生じている赤色矮星(左)と系外惑星(右)を描いた想像図(Credit: AIP/ J. Fohlmeister)】

エクセター大学のRobert Ridgwayさんを筆頭とする研究チームは、赤色矮星(M型星)を公転する太陽系外惑星の生命居住可能性に関する新たな研究成果を発表しました。赤色矮星のフレアにさらされる地球型惑星では、表面を紫外線から保護する“シールド”の形成が促される可能性があるようです。

小さな低温の恒星である赤色矮星は、天の川銀河ではありふれたタイプの星です。その周囲では「TRAPPIST-1(トラピスト1)」のように岩石質と推定される系外惑星がこれまでに幾つも見つかっていて、ハビタブルゾーンを公転しているなどの条件次第では惑星上に生命が誕生している可能性もあるとして注目されています。

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しかし、赤色矮星は表面で強力な爆発現象「フレア」が発生しやすい、非常に活発な恒星でもあります。フレアは惑星上の生命を脅かすだけでなく、長期的には惑星の大気を剥ぎ取ってしまうことも考えられることから、赤色矮星を公転する系外惑星の環境は生命にとって厳しいものである可能性が指摘されてきました。そのいっぽうで、強力なフレアは赤色矮星の高緯度で発生する傾向があり、惑星への影響は限定的かもしれないとする研究成果も発表されています。

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そこで、恒星の活動が惑星の大気組成や居住可能性に及ぼす影響を調べるために、研究チームは赤色矮星を公転する地球型惑星(※)の3次元シミュレーションを行いました。すると、活発な星のフレアによる光化学反応は惑星の大気中に含まれるオゾン(O)の量を増加させ(静穏な星を公転している場合と比べて20倍)、結果的に惑星の表面へ到達する紫外線の量がオゾン層によって減少する可能性が示されたといいます。

※…地球から約4.24光年先で見つかった系外惑星「プロキシマ・ケンタウリb」をもとに、主星の潮汐作用によって自転と公転の周期が同期した潮汐固定(潮汐ロック)の状態にある惑星を想定。

また、シミュレーションでは亜酸化窒素(NO)もフレアによって生成され、濃度が高まる可能性が示されました。オゾンや亜酸化窒素はバイオシグネチャー(生命存在の兆候とみなされる物質)の一種とされていますが、生命活動だけでなくフレアによる非生物的なプロセスでも生成される可能性があるとすれば、今回の成果は系外惑星の大気組成を分析する上で考慮すべき情報を提供することになります。

ただし、今回のシミュレーションでは、現在の地球のように酸素が豊富な大気を持つ惑星を前提としていました。地球の大気に含まれる酸素は、今から20億~25億年前に生命活動によって急増するまで(大酸化イベント)、ほとんど存在しなかったと考えられています。Ridgwayさんはアメリカ天文学会(AAS)の天文誌Sky & Telescopeに対して、今後の研究ではより現実的な、無酸素に近い環境で何が起こるのかを調べたいとコメントしています。

Source

  • Image Credit: AIP/ J. Fohlmeister
  • Sky & Telescope \- Shields Up: Red Dwarf Worlds Might Adapt to Hostile Systems
  • Ridgway et al. \- 3D modelling of the impact of stellar activity on tidally locked terrestrial exoplanets: atmospheric composition and habitability (MNRAS)

文/松村武宏

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