夜光雲の発生頻度がロケットの打ち上げ数と相関。夜光雲観測衛星AIMの成果

【▲2011年7月2日、カナダ・アルバータ州エドモントン市の上空に出現した夜光雲(Credit: NASA/Dave Hughes)】

地球の北極と南極に近い地域では、夏の夕暮れから明け方にかけて、うっすらと虹色に輝く雲が空高くたなびいていることがあります。これは「夜光雲」と呼ばれる雲で、大気圏で燃え尽きた流星の微粒子である「流星煙粒子」に氷の結晶が付着して形成されます。

2007年にアメリカ航空宇宙局(NASA)が打ち上げた夜光雲観測衛星「AIM」(Aeronomy of Ice in the Mesosphere:中間圏における氷の超高層大気物理学)の観測データを用いた新しい研究によると、極域よりも低い緯度での夜光雲の出現は、朝のロケット打ち上げと相関することが明らかになりました。

1800年代後半に初めて記録された夜光雲は、地球の大気圏の最も高いところで発生する雲として知られています。一般的に雲は対流圏(高度0kmから約11km)の中で発生し、雷雲として知られる積乱雲でも雲頂が16kmを超えることはありません。ところが、夜光雲は高度80kmほどの中間圏と呼ばれる大気の層に浮かんでいます。地上から見て太陽が沈んだ後でも太陽の光が届くほど高いところにあるため、夜光雲は夜でも輝くのです。

夜光雲は、極中間圏雲とも呼ばれるように高緯度の極付近で発生することが多いのですが、極点から遠く離れた緯度60度以下の場所でも発生することがあります。北半球では北緯56〜60度(アラスカ南部、カナダ中部、ヨーロッパ北部、スカンジナビア南部、ロシア中南部の上空など)でも発生します。

実は、夜光雲の発生頻度は年によって大きく異なり、多い年は少ない年の10倍も発生することがあります。過去の研究では、NASAが運用していた「スペースシャトル」の打ち上げ時に大気中に放出された水蒸気が、極域付近の夜光雲を増加させることが示されていました。

【▲2014年7月2日の早朝、カリフォルニア州バンデンバーグ空軍基地から打ち上げられたデルタIIロケットはNASAの人工衛星「Orbiting Carbon Observatory-2(OCO-2)」の軌道投入に成功。朝のロケット打ち上げ数と中緯度夜光雲の発生頻度を比較した最近の研究に含まれる打ち上げの一つ(Credit:NASA/Bill Ingalls)】

今回、米国海軍研究所のマイケル・スティーブンス(Michael Stevens)氏を筆頭とする研究チームは、AIM衛星に搭載された観測装置「CIPS(Cloud Imaging and Particle Size:雲のイメージングと粒子サイズ)」による観測結果と、北緯60度以南でのロケット打ち上げのタイミングを比較。その結果、現地時間23時から翌日10時の間に行われたロケットの打ち上げ回数と、北緯56度から60度の間で観測された7月の中緯度夜光雲の出現頻度に強い相関があることが判明しました。つまり、午前中の打ち上げ回数が多いほど、中緯度夜光雲も多く出現していたのです。

スティーブンス氏は、「中緯度における夜光雲の発生は謎に包まれており、その根本的な原因には異論があります」と語っています。最後のスペースシャトルは2011年に打ち上げられましたが、それ以降も他のロケットが人工衛星や人間を宇宙に運び、大気中に水蒸気を増やしています。「本研究は、スペースシャトルの打ち上げが中止された後も、宇宙への行き来が中緯度夜光雲の発生の年変動に影響を与えていることを示しています」と、スティーブンス氏は結論づけています。

【▲2007年から2021年にかけて、AIM衛星のCIPC装置によって毎年7月に北緯56度から60度の間で観測された夜光雲の頻度(オレンジ色の点)と、毎年(基本的には6月21日~7月21日の期間)のロケットの打ち上げ数(緑の点)とを比較したグラフ(2017年はCIPSの運用上の問題でデータが未収集)。上のグラフは、1日を通して世界中のロケットの打ち上げが含まれており、夜光雲の発生頻度との相関はほとんど見られませんが、下のグラフは、北緯60度以南の朝の打ち上げ(現地時間午後11時から午前10時の間)のみを考慮した場合、より強い相関があることがわかります(Credit:NASA/Michael Stevens (Naval Research Laboratory) et al.)】

また、夜光雲のすぐ上空の風を分析したところ、朝の打ち上げ時に北上する風が最も強いことがわかりました。このことは、フロリダや南カリフォルニアなど低緯度の地域で朝に打ち上げられたロケットの排気が、極域に向かって風で運ばれやすいことを示唆しています。そこで、ロケットの排気が氷の結晶となり、下降して雲を形成するのです。

さらに、中緯度夜光雲の発生頻度には、調査期間中、一般的な上昇傾向や下降傾向は見られず、11年の太陽周期との相関も見られなかったことから、太陽放射の変化が雲の発生を年によって変化させているわけではないことがわかりました。「中緯度における夜光雲の発生数の変化は、朝のロケット打ち上げ数と相関しており、大気潮汐(周期的な大気の運動)による排気の輸送と一致します」とスティーブンス氏は結論づけています。

今回の研究成果は、夜光雲の発生頻度の変化がどの程度自然に引き起こされ、どの程度人間活動の影響を受けているのかを理解する上で、重要な発見と言えるでしょう。

研究成果は2022年5月2日付けの「Earth and Space Science」誌に掲載されました。

Source

  • Image Credit: NASA/Dave Hughes, NASA/Bill Ingalls, NASA/Michael Stevens (Naval Research Laboratory) et al.
  • NASA \- Rocket Launches Can Create Night-Shining Clouds Away from the Poles, NASA’s AIM Mission Reveals
  • Earth and Space Science \- Northern Mid-Latitude Mesospheric Cloud Frequencies Observed by AIM/CIPS: Interannual Variability Driven by Space Traffic

文/吉田哲郎

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