【ジャズピアニスト、海野雅威の特別寄稿】ビル・エヴァンスが有望な若者に未来を託したメッセージ

2016年の発売スタート以来、シリーズ累計出荷が75万枚を超えるユニバーサル・ジャズの定番シリーズ「ジャズ百貨店」。10月19日に発売された新シリーズ「Encore編」から、数多くのジャズ・レジェンドから愛されてきたニューヨーク在住の実力派ピアニスト、海野雅威がお気に入りの作品3タイトルをピックアップして特別解説します。

第2回目はジャズ・ピアノの詩人ビル・エヴァンスが逝去の1年前に制作した最後のスタジオ録音盤『ウィ・ウィル・ミート・アゲイン』(1979年8月録音)。

<YouTube:Bill Evans - Peri's Scope (Official Audio)

ただ、私も正直に言えば冒頭に触れたフレッド・ハーシュの指摘と同感の部分もあり、例えば「Comrade Conrad」では全キーに転調し、コーラス毎に4拍子と3拍子を交互に演奏するが冗長に感じられ、なんだか延々と続く練習用のマイナスワンのトラックにも聞こえてきてしまう。

<YouTube:Comrade Conrad

「Bill’s Hit Tune」のお茶目なタイトル曲(ビルは時折投げやりで自虐的なタイトル好んでつける)のシンプルなモチーフの執拗な繰り返しも好き嫌いが分かれるところ。兄ハリーの自殺を悼み、実はその追悼メッセージのみならず、ビル本人も死を覚悟していたとも解釈できるアルバム・タイトル曲「We Will Meet Again」はピアノ・ソロで切ないが、よくありがちなコード進行とメロディのために、どことなく「Blue Bossa」が聞こえてきそうではある。もっと個性的で素晴らしい曲をたくさん書いてきたビルの中では、正直名曲とまでは言えない。おそらくレパートリーとしてもよく取り上げていた、ミシェル・ルグランのような出だしの数小節が鍵となるキャッチーなメロディを作りたかったのだろう。

<YouTube:Bill Evans - We Will Meet Again (Official Audio)

このアルバムの魅力は、ビルが有望な若者に経験や大切な美を伝え、未来を託したメッセージにある、と私は受け止めている。でも、ピアノ・ソロで演奏される「For All We Know」がやっぱりアルバム中の白眉で、持っていってしまうところが、なんともビルらしい。そして、「For All We Know (We May Never Meet Again)」と、タイトル・トラック「We Will Meet Again」がセットに収録されているのも、決して絶対的な答えを一つに提示しないビルの奥ゆかしさを感じてしまう。

<YouTube:Bill Evans - For All We Know (We May Meet Again) (Official Audio)

ところで余談だが、このアルバムのジャケットを眺めていた妻がある時「これ見たことある! あっ、わかった!」と言うのだ。2013年に初めてスイスへ演奏に行った時に、ジュネーブ湖に浮かぶように立つシヨン城(ビル・エヴァンスのあのモントルーのジャケ)にも行き、薄暗い城の中から写真をたくさん撮った。そしてその中に、なんとほぼ全く同じといっていい構図のこのジャケのような写真を妻は発見したのだ。私は自分でその写真を撮った事すら’忘れていたのだったが(苦笑)、、、100%の確信はないが、確かにかなり類似する。果たして真相はどうだろうか。

【リリース情報】

ジャズ百貨店 Encore編
『ウィ・ウィル・ミート・アゲイン』
2022.10.19 ON SALE
UCCO-5617 SHM-CD: \1,650(tax in)
https://www.universal-music.co.jp/bill-evans/products/ucco-5617/

◆ジャズ百貨店シリーズ特設サイト
https://www.universal-music.co.jp/jazz/jazz-hyakkaten/

【海野雅威 INFORMATION】

●『Get My Mojo Back』がアナログ盤で発売!

2022年12月7日(水)発売
12 inch LP:UCJJ-9033 \4,730(tax in)
https://store.universal-music.co.jp/product/ucjj9033/

海野雅威 公式サイト: https://www.tadatakaunno.co

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