【1/13公開映画】「世界は僕らに気づかない」主演・堀家一希さん×監督・飯塚花笑さんインタビュー。真っ直ぐに想うほど衝突する、母と息子の愛を描く。

左から堀家一希さん、飯塚花笑さん

ドイツや韓国、フィリピン、アメリカなど各国の映画祭で高い評価を受けている映画『世界は僕らに気づかない』が2023年1月13日(金)より、日本公開となる。

監督はシスジェンダー女性とトランスジェンダー男性の恋愛を描いた映画『フタリノセカイ』の飯塚花笑さん、本作の主人公、高校生・純悟を演じたのは映画『東京リベンジャーズ』での好演が記憶に新しい堀家一希さんだ。

群馬県太田市を舞台にセクシュアリティや家庭環境、フィリピン人と日本人のダブルであること…様々なバッググラウンドを持つ純悟と母親レイナの親子愛を描いた本作への想いを伺った。

ーー「主人公がゲイ。それを軸とした映画を公開する意味を見出せなかった」。コロナ禍を経て生まれ変わった本作で描くのは、親子の“愛の問題”

ーー『世界は僕らに気づかない』の脚本を読んだ時のお気持ちを聞かせてください。

堀家さん:決定稿を読みながら泣きそうになりました。本作は2019年に企画された「感動シネマアワード」という映画コンペティションへ飯塚監督が応募されたところから生まれたのですが、初めて読んだ脚本とは変更点がいくつもあって。

監督はコロナの流行でクランクインが後ろ倒しになった間、僕自身が思春期に両親へ向けた気持ちを作品に落とし込んでくれていたんです。
それは例えば、両親が共働きだったことから学校から早く帰宅しても家にいなかった寂しさだったり、意見がぶつかりお互いを理解できなかったもどかしさだったり…。

それまでのものよりも純悟と感情が重なるシーンやセリフが多く、心に響くものがありました。

ーー堀家さん演じる純悟はゲイ、母子家庭、ダブルなどマイノリティとして様々なバッググラウンドを背負う人物ですが、一つのテーマにフォーカスを絞らなかったのは特別な想いがあったのでしょうか?

飯塚さん:応募した当初の脚本では、ゲイの高校生という設定だけで純悟を描いていたんです。ただ、時代の流れと共にセクシュアルマイノリティに焦点を当てた作品って増えてきましたよね。
LGBTQ+の認知・理解が進む中で、僕がこの作品を発表する意義って何だろうと考えたとき、いまいちピンと来なくなってしまって。

そこで以前から関心の高かった人種問題・人種差別をテーマとして取り入れることで、意義がある作品に生まれ変わると思い、フィリピン人と日本人のダブル、そしてフィリピン人の母親に育てられる母子家庭という人物設定を加えました。
人種から派生する諸問題に関心が高いのは、生まれ育った群馬県前橋市が工業地域だったこともあって、フィリピン人と日本人のダブルやブラジル人の友人に囲まれて過ごした過去が影響しています。

個人の見解ではありますが、日本では世界各国にルーツを持つ人がたくさん暮らしているのにも関わらず、自国を単一民族だと思い込んでいる人も少なくないと思うんです。純悟という存在から価値観のアップデートに繋がると信じたいです。

ーーかなり複雑な役柄を演じた堀家さんですが、演じる上で心に留めておいたことはありましたか?

堀家さん:全てのシーンにおいて純悟の本心を保ち続けること、これだけは絶対決めていました。純悟は母親レイナの再婚やフィリピンパブ嬢という職業、そして消息が分からない血縁の父親などあらゆる問題を巡って強く衝突してしまいますが、それは母親への愛、そして彼女からの愛に飢えているがゆえの反抗なんですよ。
内に秘めている愛があってこそのぶつかり合いを見せたかったので、ただの反抗心といった空虚なものにならないよう意識しました。

とにかく集中力を途切らせたくなかったので、撮影期間のおよそ1ヶ月は撮影で使用した純悟の家に寝泊まりして。あとはレイナ役のガウさんとは、意識的に距離を置いてましたね。
クランクアップの時「嫌われているのかと思った!」と冗談交じりに言われてしまい、今となっては申し訳ない気持ちがあるんですけど、ガウさんも察して適切な距離を保ってくれたからこそ「純悟だったらどう思うだろう」「純悟だったらこうするだろう」と役作りに没頭できたので、感謝しています。

ガウさんのパワフルな演技と声量のおかげで僕も思い切りぶつかっていけました。レイナ役を演じていただけて本当によかったと思ってます。

ーー今後『世界は僕らに気づかない』が、作品としてどのように育っていって欲しいですか?

飯塚さん:作品を作り終えると毎回、我が子が一人で歩けるかどうか見守る気持ちになるんですけど、今年一年かけて世界各国の映画祭で様々な方の目に触れ感想をいただく中で、僕がサポートをしなくても、すでに歩き出してくれている安心感があるんです。

特に色々な国のルーツを持つ人が暮らすフィリピン、セクシュアルマイノリティの人たちが当たり前の存在として受け入れられているドイツでは、スムーズに受け入れてもらえた印象があります。一方、これから上映を控えている日本では自分の暮らしとは一線画されたマイノリティの物語として捉われてしまう可能性があるのでは…と、ちょっとした不安があります。
遠い世界を客観視する感覚ではなく、純悟のような子どもや彼を取り巻く問題が身近にあることを知ってもらえたら嬉しいです。

堀家さん:以前、京都で行われた「関西クィア映画祭」で、監督と観客の皆さんがトークセッション形式で話す機会があったんです。その際に「純悟がゲイであることにフューチャーしていないのはなぜですか?」という質問があり、監督は「その点についてはある意味、僕自身の願望を込めた表現でもあります。ゲイであることを過度にフューチャーされない世界観で物語を作りあげたかったんです」と話されていたんですね。それがとても印象的で、感動して。

同時に、この感覚を皆で共有することで願望として描かれた本作の世界観が現実になるかもしれないとも思ったんです。監督から身近な話として捉えて欲しいという話がありましたが、僕もそれに近い気持ち。出身地である岡山県にも、作品が届けば嬉しいです。

■世界は僕らに気づかない/Angry Son
2023年1月13日(金)より新宿シネマカリテ、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー
https://sekaboku.lespros.co.jp/

ストーリー/群馬県太田市に住む高校生の純悟(堀家一希)は、フィリピンパブに勤めるフィリピン人の母親レイナ(ガウ)と一緒に暮らしている。父親のことは母親から何も聞かされておらず、ただ毎月振り込まれる養育費だけが父親との繋がりとなっていた。純悟には恋人の優助(篠原雅史)がいるが、優助からパートナーシップを結ぶことを望まれても、自分の生い立ちが引け目となり、なかなか決断に踏み込めず、一人苛立ちを抱えていた。そんなある日、レイナが再婚したいと、恋人を家に連れて来る。見知らぬ男と一緒に暮らすことを嫌がった純悟は、実の父親を探すことにするのだが…。

出演:堀家一希、ガウ、篠原雅史、村山朋果、森下信浩、宮前隆行、田村菜穂、藤田あまね、鈴木咲莉、加藤亮佑、高野恭子、橘芳美、佐田佑慈、奈良貴仁、富井大揺、小田原倫仁、木村鈴香、天満夕歌、松永拓野、新大悟、花垣秀美、テレシータ シュクハラ、ジュリアン フクシマ、ジュリエット シダ、セシル カワムラ、マリカ フクシマ、沼尻紗和、田村悠翔、本多光嬉、坂川使音、渡邉勇翔、柏倉みそら、中村ひろみ、品田英子、山田真理子、中田喜之、田村会、嶺豪一、佐藤美津江、雅子、三坂知絵子、栗田綾菜、金子軍曹、増田具佑、亀井多加史、山藤堅志、飯塚国博、鎌田あかり、上林司、上林円、上田海晴、井上龍司、竹下かおり、小野孝弘、関幸治、長尾卓磨、岩谷健司

脚本・監督:飯塚花笑/エグゼクティブプロデューサー:本間憲、和田有啓/プロデューサー:菊地陽介、山田真史、飯塚花笑/協力プロデューサー:志尾睦子、佐久間由香里/撮影:角洋介/サウンドデザイン:紫藤佑弥/音楽:佐藤那美/編集:阿部誠/ヘアメイク:浅井美智恵/衣裳:村上久美子/助監督:緒方一智/制作担当:久保智彦/脚本監修:中島弘象/スチール:水津惣一郎/宣伝美術:unnoticed/宣伝:高木真寿美 亀山登美 矢部紗耶香/製作:レプロエンタテインメント/配給:Atemo/制作プロダクション:スタジオ6.11/2022年/日本/カラー/シネマスコープ/5.1ch/112分/©「世界は僕らに気づかない」製作委員会

取材・文/芳賀たかし
写真/新井雄大
ヘアメイク/速水昭仁
スタイリスト/添田和宏
衣装/ヴァリジスタ グローバル スタジオ、ハビィー、ブースティック サプライ
記事制作/newTOKYO

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