いま再びホイットニー・ヒューストンがエモい!没後10年(2022年)伝記映画公開  没後10年×「ボディガード」 30周年×「ホイットニーⅡ~」 35周年!

3つの視点で描かれたホイットニー・ヒューストンの生涯

素晴らしい映画を観た後というのは、記憶に残る数々の場面を反芻する。あの台詞の真意は何だったのか、世相の切り取り方が何を象徴していたのか、監督が一番伝えたかったことは何なのか…。1本の映画に思いを馳せながら、記憶は心と頭の中で熟成され、自分の人生の中のかけがえのないものとなる。この度劇場公開される『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』もそんな1本だ。

映画『スターウォーズ スカイウォーカーの夜明け』(2019年)でジャナ役に抜擢されたナオミ・アッキーを主役に据え、この映画は3つの視点で描かれている。

人種、世代、文化を超えて全世界を魅了

ひとつは、エンタテインメント界で、ホイットニーがスターダムにのし上がり、全世界を魅了し続けたディーバに君臨する過程だ。エルヴィス・プレスリーやアレサ・フランクリンのバッキング・コーラスでも活躍したガールズボーカルグループ、スウィート・インスピレーションズの一員であったシシー・ヒューストンを母に持ち、従姉妹にはディオンヌ・ワーウィック。そんなサラブレッドとも言える音楽一家で育ち、地元ニュージャージーの聖歌隊のクワイヤとして11歳からゴスペルを歌っていたホイットニーが、米アリスタレコードの敏腕プロデューサー、クライヴ・デイヴィスの目に留まり物語は加速する。

ホイットニーのマネジメントを担った実父との金銭的トラブルも含め、アフリカ系アメリカ人シンガーとしての立ち位置など、強大なミュージックビジネスの渦の中で確固たる地位を築くまでのリアリティ溢れる描写に50年代からのアメリカのエンタテインメントの系譜を垣間見ることができる。特にホイットニーの音楽性の比較対象がエルヴィスやビートルズであったことが興味深い。劇中彼女を称賛する「人種、世代、文化を超えた」という言葉の重みが全編から伝わってくる。

ふたつ目は、アメリカという国家の現状を示唆しているということ。ホイットニー自身のセクシャリティの問題や人種問題がストーリーを紡ぐ上で事欠くことのできないピースとなっている。つまりこういった部分でホイットニーの身の回りの諸問題がアメリカの現状であるということを強く打ち出していた。そして、この現状が今も特別なことではなく、全世界の共通認識として自分も向き合わなくてはならない問題であるということだ。ネルソン・マンデラ釈放のニュースを象徴的に描いていたのもこの映画のメッセージであったと僕は捉えている。

「歌いたい曲を、自分らしく歌う」ホイットニーの生涯

そして最後は、“THE VOICE” と称される圧倒的な歌声で史上最高のシンガーとして世界に認められたホイットニーの歌との向き合い方だ。つまり彼女のパーソナリティを通じて生み出された数々の奇跡をドラマティックに描き上げる。それは、物語の冒頭で母シシーが言う「歌は物語だ」というひと言に全てが集約されていた。

歌に物語を紡ぐのは、生き方に他ならない。アリスタとワールドワイドな契約を結ぶ場面も気取りなく畏まらない。また、1991年湾岸戦争の最中に行われたスーパーボウルのエキシヴィジョンで国家を斉唱する場面では白いトラックスーツで舞台に登場する。スタイリストが用意したスパンコール煌めく数多のドレスを着ることを拒み、ありのままの自分の姿で堂々と国家と向き合う歴史的な場面での自信に満ち溢れたナオミ・アッキーの演技も最高だ。ここに自分は自分らしくというホイットニーの信念が体現されていた。「歌いたい曲を、自分らしく歌う」という生涯を具現化しているワンシーンだった。

「歌いたい曲を、自分らしく歌う」

―― このブレることのないスピリッツで、生涯歌い続けた。それは出自を背負い、感情のすべてを曲に託し、ジャンルも人種も超えた多くの人の心に響かせるということ。巷では相変わらず “エモい” という表現が連発されているが、この映画を観たらエモーショナルという言葉は、ホイットニーに捧げられていると思わずにいられないだろう。

劇中登場するホイットニーのナンバーは、もはや誰もが知るスタンダードだ。この映画の公開と彼女主演映画『ボディガード』公開の30周年を記念して、12月21日にリリースされた彼女のベストアルバム『ジャパニーズ・シングル・コレクション -グレイテスト・ヒッツ』にも収録されている「オールウェイズ・ラヴ・ユー」や「グレイテスト・ラヴ・オブ・オール」で心震わせ、「すてきなSomebody」や、「やさしくエモーション」、「アイム・エブリ・ウーマン」では試写室の椅子で体を揺らし、踊りたくなる気持ちをグッとこらえたことを最後に記しておく。

カタリベ: 本田隆

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