“枠”に収まらない?鶴来に工房を開いた額装師に会いに行ってきた。

工芸が盛んな石川県には、アーティストを支える人・モノ・コトが溢れていますが、作品を実質的に“支えている”額縁ほど、作品に寄り添った縁の下の力持ちはいないかもしれません。

昨年、白山市鶴来に一風変わった額縁工房が誕生したという情報が。なにやら額装師という額縁をつくる専門家が開いた工房のようです。

そしてどうやら、一般客も気軽に訪問して注文できるというウワサ。そういえばこの間Keijibanで注文したエディションをかっこいい額に入れて飾りたいんだよな~!ということで、せっかくなのでその額装師に会いに鶴来まで車を走らせてきました。

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石川アート界のハブになりたい

そもそも絵画や写真、陶板などを飾る際に使用される額縁は、飾りたいものに合うサイズの既成品を購入する場合と、作品に合わせて既存のデザインを選びサイズを合わせて注文するセミオーダー式、素材や仕上げ方なども全て作品に合うように特注する完全オーダーメイド式があります。

一般的に額縁を扱う画材屋さんの多くは、セミオーダーまでが基本。特注するとしても、実際に額縁を制作する人に直接相談できることはごくまれだそうです。しかし、展示会などを行うアーティストにとって、自身の作品を支える額縁は、作品の見え方も大きく左右することもあり、細かなオーダーを求める声も少なくありません。

そこで登場するのが額装師という存在。作品にフィットする額縁を提案し、打ち合わせから制作までを一貫しておこなう人のことをそのように呼びます。額装師の仕事は、額縁をつくるだけにとどまらず、アートへの深い造詣やトレンド感覚、センスが大きく重要視されます。また、アーティストからの信頼を得ることが大事なので下積みも長く、全国的にみても個人で活動している額装師はかなり少ないのだとか。

こちらが今回訪問した額縁工房「額三」を主宰する三嶋公宏さん。17年ほど額縁職人としてメーカーに勤め、昨年の工房開設とともに個人で額装師として活動しています。

以前から数多くの特注オーダーを手掛け、県内の新進気鋭アーティストから伝統工芸の大御所作家まで幅広い芸術家に信頼されている額装師です。

ーーこんにちは。鶴来のメイン通りに面していて、すごく分かりやすい場所にあるんですね。
三嶋さん:そうなんです。もともと建具屋さんの工場だった場所が長く空き家になっていて、人通りの良い立地も気に入ってこの物件にしました。

ーー工房や工場って、少し入り組んだ場所や工場地帯にあって、人が訪れることはあまり重視していないイメージがありますが。
三嶋さん:そのイメージが自分の性に合わないというか、そもそもここは中で何をしているかが分かる、気軽に入ってこられる場所にしたかったんですよね。

ーーと言いますと?
三嶋さん:工場ってどこも、入り口が分からない閉鎖的な場所が多いじゃないですか。そういう場所だとわざわざ中に入っていって「ここって何屋さんですか」とか「こういうこともしてくれるんですか」とか気軽な質問ができないですよね。僕は人と話すことが好きで、コミュニケーションの中からいろんなものが生まれると思っているので、とにかく道行く人から中が見えて、額縁を作っている場所なんだって分かる場所にしたくて。

ーーなるほど。
三嶋さん:だから、工房は必ず入口側に作業する工場、打ち合わせスペースは奥、という配置にしたかったんです。さらにそれが全て入口から見えるような店づくりを心掛けました。

ーー打ち合わせのスペースはギャラリーとして使用もできるとか。
三嶋さん:ギャラリー貸しはしていないのですが、定期的に作品展示をおこなったり、単発の展示イベントをしたりしています。また、自分の業務だけじゃなく作家さん同士の打ち合わせの場所として使ってもらってもいいですし、そこで新しい出会いが生まれることもあるんじゃないかと思っています。

ーー「額三」がつなぎ役になるということですね。
三嶋さん:結構そういう使い勝手のいい場所を求めている作家さんは多いんじゃないかと思うんです。アートをつくる人、アートを飾る人、アートのことを知りたい人…額縁屋だからこそ、そういう人たちのハブになれるのかなとも思いますしね。

値段のつけられない美術品から家族写真まで

ーー三嶋さんは大御所作家さんの作品や、美術品の額装なども手掛けていらっしゃるんですよね。
三嶋さん:ありがたいことにそういった依頼を受けることもあります。

ーーち、ちなみに今までで一番高額な作品って…
三嶋さん:美術館に所蔵される作品だったりすると値段がつけられないようなものもあるんじゃないかな~。でも、作品の値段はあんまり気にしてないですね。作家さんや飾る人にとって、どれも額装するほど大切なものに変わりありませんから。

ーー私たち一般の人が自宅に飾る用の額縁も作れますか?
三嶋さん:もちろん!うちだと4、5000円程から買える既成額もありますし、セミオーダーでも材料によってですが、シンプルな木材の一般的な大きさで7000円くらいとか。買いやすい価格のものもありますよ。

ーーあ、意外とリーズナブル。額縁ってつくると結構高いものだと思っていました。
三嶋さん:そう思われがちなんですが、一万円出せばなかなか良い額が作れると思いますよ。まずは予算感やイメージを打ち合わせで固めるのですが、どんなものが合うか分からないという相談も大歓迎!うちでは基本的には「飾りたい作品」と「飾る場所の写真」を見せてもらうようにしているんです。そこからどのような額が合うかを提案して打ち合わせを進めていきます。

ーー作品との相性だけではなくてどんな空間に飾るかも重要なんですね。
三嶋さん:そうですね。額縁もインテリアの一つとして考えてもらえたらいいと思います。ただ、家具と違って額縁は空間と作品の2方向への相性があるので、自分のような専門の人間がいると心強いのかなと。気軽になんでも聞いてほしいです。

ーー額縁をつくる上で、作り手の技術が問われる作業はどんな部分ですか?
三嶋さん:打ち合わせをした後は、材料を成形して加工を施していくのですが、塗装やエイジングといった加工の部分は差が出やすいと思いますよ。ただ色を塗るだけでなく、例えば木を焼き付けてから塗装をするなどあらゆる加工の技術があります。そこで微妙な色の違いや風合いの出し方が変わるので、腕の見せ所ですね。

ーーそういった細やかな対応ができる技術やセンスがお客様への信頼につながるんですね。
三嶋さん:他にも、額装した作品の設置や図録に使うような写真の撮影なども請け負っているので、一貫してできるのは作家さんに喜ばれていますね。高いところや飾りづらい場所への設置のために一般のお客様のご自宅へ伺って作業することもできますよ。

ーー作って終わりではなく、どう使われるかという部分まで深く関わっていくお仕事なんですね。
三嶋さん:そうありたいと思っています。一度、額装を終えた作家さんに「ここまでくると合作やね」と言われたことがあって。そういう言葉は、額装師冥利に尽きますよね。

三嶋さんと話していると、質の良い額縁やセンスのある提案はもちろんですが、明るくてフラットな三嶋さんの人柄も多くの人を惹きつける要因のひとつなのだろうなと思いました。

撮りっぱなしの家族写真や、買ったはいいけど棚の奥で眠っている紙ものをお持ちのみなさん。鶴来の開かれた額縁工房に持って行って、一度相談してみてはいかがでしょうか。

額三
石川県白山市鶴来本町4-チ102
TEL. 076-295-9023
営業時間/10:00〜17:00
※外出の場合もあるため、来店時は電話かインスタグラムのDMへ連絡が確実
定休日/不定休
駐車場/あり
公式HP:額三

※こちらの情報は取材時点のものです。

(取材・文/西川李央、撮影/林 賢一郎)

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