<社説>防衛研究所提言 「持久戦」の再現許すな

 日本国憲法に基づく平和国家建設の理念は破綻の危機にひんしている。私たちはまさに「新たな戦前」ともいうべき事態に直面しているのではないか。この状況下で最も犠牲を強いられるのは沖縄であることを忘れてはならない。 防衛省のシンクタンク・防衛研究所(防衛研)が中国との戦闘を想定した研究をまとめた。ミサイル攻撃を受けることを前提に、残存兵力で中国を海上で阻止する戦略を報告書で提言している。報告書をまとめた防衛研防衛政策研究室の高橋杉雄室長は「攻撃を受ける地域の一つとして南西諸島が想定される」と本紙取材に明らかにした。

 防衛省のシンクタンクが日本周辺の安全保障環境をにらみながら提言するのは組織としての任務であろう。しかし、2021年の報告書が昨年12月に閣議決定された新たな安全保障関連3文書を先取りするような内容である点を見逃してはならない。日本の安全保障政策の大転換を誘導する役目を果たしたのであれば重大である。

 安保3文書によって日本は専守防衛の国是を逸脱し、戦争ができる国へと踏み出した。国のかたちが変わったのである。十分な議論がなされないまま閣議決定に踏み切った岸田政権の強硬姿勢を容認するわけにはいかない。

 報告書で示された「統合海洋縦深防衛戦略」は、一定程度の攻撃を受けることを前提にして長期戦に持ち込むという考え方だ。3文書に基づいて政府が県内で進めようとしている防衛力強化の方向性とも合致している。

 「ミサイル攻撃の能力を考えれば、短期決戦では中国が有利となる。しかし、半年~1年ほど時間を稼げば、他地域に配備されている米軍が駆け付けて日米が有利になる」(高橋室長)との考え方が構想の根本にある。

 驚くべき内容だ。海と陸との違いはあるが、これでは沖縄戦で第32軍司令部が遂行した「戦略持久戦」の再現ではないか。本土決戦の準備のための時間稼ぎによって一般住民に多大な犠牲を強いた作戦の過ちが繰り返されようとしている。「持久戦」の再現を断じて許してはならない。

 防衛研の構想は、長期戦でも戦闘を海上で食い止めることを主眼に置いており、民間人の被害は基本的に想定していない。しかし、海上阻止が破られれば地上戦になる可能性がある。地上に戦闘が及ばなくても物流が止まれば住民生活は苦境に陥る。このような事態を避けるためにも不断の外交努力が求められるのだ。

 県内にある自衛隊施設と米軍専用施設の面積合計は約192平方キロメートルで県土の8.4%を占める。これ以上の軍備増強は基地負担の軽減に逆行する。軍備増強によって県民が安心すると政府が考えているならば大間違いだ。

 沖縄戦の最大教訓は「軍隊は住民を守らない」であることを肝に銘じてもらいたい。

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