極小の高温生成鉱物から読み解くリュウグウの起源 イヴナ隕石やヴィルト第2彗星との類似性も

JAXA(宇宙航空研究開発機構)の小惑星探査機「はやぶさ2」が地球へと持ち帰った小惑星「リュウグウ」の試料。その初期分析の結果、リュウグウの全体的な組成はCIコンドライト (※1) と類似していることや、リュウグウは過去に約40℃程度の低温にさらされたことがあり、氷が解けることによって生じた液体の水の作用で変質した鉱物が存在することがこれまでに確認されています。液体の水による変質は太陽系誕生から約500万年後の出来事であったと推定されています。つまり、変質作用を受けたリュウグウの試料の大部分からは、それ以前の時代の情報が失われていることになります。

※1…炭素に富む岩石主体の隕石である炭素質コンドライトの分類の1つ。変成作用をほとんど受けておらず、太陽系初期の情報がそのまま保存されていると推定されています。代表的な隕石は「イヴナ(Ivna)隕石」です(CIコンドライトの「I」はイヴナ隕石に由来します)。

【▲ 図1: リュウグウのサンプルの電子顕微鏡写真。いくつかある黄色い斑点が高温生成鉱物であり、その大きさは極めて小さいことがわかる。 (Image Credit: Kawasaki, et.al.) 】

その一方で、リュウグウやCIコンドライトからは、橄欖(かんらん)石・輝石・スピネルといった、1000℃以上でないと生成しない高温生成鉱物が見つかっています。これらの鉱物は低温の水ではほとんど変質しないため、太陽系誕生時の情報……特にリュウグウで言えば、水による変質が起こった500万年前よりも前の情報をほぼそのまま保持していると考えられています。しかし、その量は極めてわずかである上に、結晶の大きさは20µm (0.02mm) 以下と極めて小さいため、詳細な分析が困難でした。

北海道大学の川崎教行氏を筆頭著者とする研究チームは、リュウグウの試料および比較対象となるイヴナ隕石について、困難な高温生成鉱物の分析に挑みました。具体的には、北海道大学にある同位体顕微鏡を使用して、高温生成鉱物に含まれている酸素同位体 (※2) の比率が決定されました。基本的に同位体の比率は鉱物が生成された環境を反映するため、リュウグウの高温生成鉱物がどこで生じたのかを推定することができます。

※2…元素の種類は原子核に含まれる陽子の数で決まりますが、陽子の数は同じでも中性子の数は異なる原子核が存在する場合があります。このような関係にある原子核を同位体と呼びます。

【▲ 図2: リュウグウとイヴナ隕石の酸素同位体比率の分析結果のプロット図。右上に位置する惑星型と左下に位置する太陽型に分割されることがわかる。 (Image Credit: Kawasaki, et.al.) 】

分析の結果、リュウグウの高温生成鉱物の酸素同位体は、はっきりと2つのグループに分かれることが判明しました。この結果は、リュウグウの試料を分析した別の研究チームの結果とも一致します。電子顕微鏡で観察した鉱物の結晶面ははっきりしているものが多く、表面の一部が変質していても内部までは変質が及んでいないことが示されました。

2つのグループに分かれている高温生成鉱物は、片方は「惑星型」に属し、もう片方は「太陽型」に属していました。惑星型というのは太陽系の内側で生じたコンドリュールが起源とみられるグループで、高温で融けた物質が固まってできた、いわばマグマが固化したような物質です。一方の太陽型は、太陽系の誕生時に高温のガスから分離し凝集した難揮発性包有物(CAI)を起源にしていると推定されています。

また、リュウグウの試料の酸素同位体比はイヴナ隕石の分析結果とも非常に似通っていただけでなく、興味深いことに、アメリカ航空宇宙局(NASA)の探査機「スターダスト」が2004年に採取したヴィルト第2彗星の試料の分析結果とも類似していました。一方で、CIコンドライトに属さない隕石である炭素質コンドライト(たとえばタギシュ・レイク隕石)は、これらとは似ていないことも判明しました。

今回の分析の結果は、太陽型が約3割と高い割合で含まれていることにより、試料の分析の結果が2つのグループにはっきりと分かれたとも言えます。CIコンドライト以外の炭素質コンドライトでは、太陽型は2%未満しか含まれていないため、これほどはっきりとした分離を観測することはできません。

さて、太陽型にしても惑星型にしても、高温生成鉱物は1000℃以上の高温を経験しています。しかしその一方で、リュウグウの試料の大部分からはそのような高温を受けた証拠が見つかっていません。このことは、高温生成鉱物を含んだ物質が太陽系外縁部へと移動した後にリュウグウが形成されたことを意味しています。

このこととあわせて、酸素同位体比率が類似しているリュウグウ、CIコンドライト、ヴィルト第2彗星は、どれも似たような環境で生成されたことがわかります。ところが、リュウグウは地球と似たような軌道を公転しているのに対して、ヴィルト第2彗星は楕円軌道を公転しています(※3)。起源が同じなのに現在の軌道が明らかに違うというこの事実は、太陽系で起きた天体移動に関連するダイナミクスがあったことを示す証拠です。

※3…ヴィルト第2彗星はかつて木星の公転軌道付近から天王星の公転軌道よりも遠くまで移動する楕円軌道を約43年周期で公転していたものの、1974年に木星へ接近したことで軌道が変化し、火星の公転軌道よりも内側まで入り込む約6年周期の軌道を公転するようになったと考えられています。

今回の分析結果は、リュウグウとCIコンドライトの類似性を証明するとともに、ヴィルト第2彗星との類似性も明らかにしました。2023年にはNASAの小惑星探査機「オサイリス・レックス」が小惑星ベンヌからの試料が到着する予定ですが、ベンヌもリュウグウと同じタイプの小惑星であると推定されていることから、ベンヌとリュウグウ双方の試料の分析結果を比較することで、太陽系の初期の環境に関する理解がさらに深まることが期待されます。

Source

  • Noriyuki Kawasaki, et.al. “Oxygen isotopes of anhydrous primary minerals show kinship between asteroid Ryugu and comet 81P/Wild2”. (Science Advances)
  • 横山哲也. “小惑星リュウグウは彗星の近くで誕生”. (東京工業大学)

文/彩恵りり

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