生き物に対する熱量と技術が世界を変える――イノカがアクアリストを発掘し、環境課題に取り組む企業と事業化へ アワード開催

水槽内に海洋生態系を再現する「環境移送技術」を開発するイノカ(東京・港)が、国内でアクアリウムに取り組んでいる個人を「生体圏エンジニア(Biosphere Engineer)」と位置付け、彼らの技術や知識を環境問題に取り組む企業・研究者と組み合わせて事業化を目指す「INNOVATE AQUARIUM AWARD」を立ち上げた。同社の高倉葉太CEOと増田直記CAO(Chief Aquarium Officer)に狙いを聞いた。(横田伸治)

アワードは、趣味として水生生物の飼育などを行うアクアリストが持っている技術や知見を発掘することが目的。アクアリウム大手のGEXがプラチナパートナー、アオキシンテック・長谷虎紡績・リバネス・ロート製薬の各社がゴールドパートナーとなり、これらの企業とのマッチングを通して、環境問題解決につながる事業化を目指す。

最大の特徴は、環境への問題意識やビジネス的視点を問わず、「生き物に対する熱量」が審査基準となる無邪気さだ。

もともとイノカは、大学院でAI技術を学んだ高倉氏が、趣味として自宅の水槽でサンゴ礁を育てていた増田氏の技術と出会ったことで、IoT機器を活用した環境移送技術の開発につながり、サンゴ礁をはじめとした海洋環境の研究に生かされてきた経緯がある。

高倉氏によれば、新たな事業立ち上げの先に、海洋生物が持つ繊維や製薬への新たな活用の可能性と、生態系研究の推進による環境保全の両輪があるという。

イノカの高倉葉太CEO

だが、イノカのビジョンである「人と自然が共生する世界をつくる」を実現するためには、サンゴ礁だけでなく、より多様な生物への熱意を持ったアクアリストの価値を社会に還元する必要がある。

高倉氏は「アクアリスト自身は当たり前と思っている技術が、企業や研究者からすると世界を変える画期的なノウハウであることも多い。イノカは、両者をつなぐプラットフォームになりたい」、増田氏は自身の経験も踏まえ「自分も以前は自然や地球のことは考えず、『自分が好きだから』水槽を作っていた。そこにイノベーションの可能性があると分かると、『人のため』に変わってきた。自分が楽しいからやってきたものが社会の価値になることくらい、生き物好きにとって嬉しいことはない」と意義を語る。

増田直記CAO

イノカが実施してきたアクアリストへのヒアリングにより、「アクアリウム技術が仕事に結びつかない」という課題も見えている。高倉氏は「幼い時の気持ちを思い出して、生き物への愛をぶつけてほしい」、増田氏も「『この生き物はこんなにすごいんだ』ということを、僕たちに見せてほしい」と呼びかける。

すでに全国の中学生や高校生を含む多数から問い合わせがあるという。応募資格は、▽最終発表時点で国内在住であること▽「生き物が好き」であること▽生き物を水槽で飼育していること――。自身のアクアリウムの様子がわかる30秒程度の動画などを送ることで一次審査に応募でき、面談による二次審査を経て、プレゼンテーションによる最終発表会に進む。グランプリ1名には30万円、企業賞(5社)には各10万円の賞金も授与される。応募は2023年1月31日まで。

詳細はアワード公式HPへ。

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