【会計コラム】「非財務情報が実は財務情報だった」というお話

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ビズサプリの久保です。今回は、これまで非財務情報と考えられてきた情報が、実は財務情報であったというお話をしたいと思います。半年前のことですが、大企業の非財務情報について2023年度から可視化を義務付けると岸田首相が表明しました。この非財務情報がテーマとなります。

1.これまでの財務情報

我が国では、財務情報について法令による定めはありませんが、会社の財政状態、経営成績、キャッシュフローに関わる情報が一般に財務情報とされています。

新聞紙上では、「財務諸表にない非財務情報の開示には投資家の関心が高まっている」といった記事がよく見られます。

コーポレートガバナンス・コード(基本原則3)では、会社の財政状態・経営成績等を財務情報としています。一方、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等を非財務情報としています。

金融庁は、「記述情報の開示に関する原則」(2019年3月)を公表し、有価証券報告書における「財務情報以外の開示情報」を「記述情報」と定義しています。

この「記述情報」は、有価証券報告書の記載内容のうち、公認会計士等の監査対象となる財務諸表以外の情報を指す、としています。ここでも、財務諸表の情報を財務情報としています。

公認会計士等による監査報告書や、財務諸表以外の箇所に記載されている財務諸表の数値を転記、再計算(増減比率等)した情報は、財務諸表以外の財務情報ということができます。

したがって、財務情報の方が、財務諸表より範囲が広いと考えられますが、いずれにしても財務諸表の数値を基にした情報が財務情報とこれまで考えられてきました。

2.有価証券報告書における記述情報の充実化

話は変わりますが、近年、有価証券報告書における記述情報の充実化が図られています。これまでは、経営方針、MD&A、リスク情報、コーポレートガバナンスに関する情報などがその対象になっていました。サステナビリティ情報についても開示している会社も少なからずありましたが、今後は独立した項目として記載しなければならないことになります。

今後記載することになるサステナビリティ情報は、気候変動関連情報と人的資本に関わる情報です。これは欧米諸国の法定開示制度に歩調を合わせるものとなっています。冒頭の岸田首相による非財務情報の可視化についての発言はこのことを指しています。

3.サステナビリティ情報は財務情報

サステナビリティ情報開示に向けて、国際会計基準の設定機関であるIASBを傘下もつIFRS財団が、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)を新たに設置しました(2021年11月)。これにより、国際サステナビリティ情報開示基準が今後順次公表されることになります。

国際サステナビリティ情報開示基準第1号の公開草案が公表されています。

この基準案ではその対象を「サステナビリティ関連財務情報」とし、「一般目的財務報告には、企業の一般目的財務諸表及びサステナビリティ関連財務開示が含まれるが、これらに限定されるものではない」としています。

この公開草案は、来年年明けには確定するものと予想されます。

これに対して金融庁は、この一般目的財務報告は「日本においては、有価証券報告書による報告が該当すると考えられる」(金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告令和4年6月13日 脚注9)としています。

財務諸表及びサステナビリティ関連財務開示が含まれる財務報告は、我が国では有価証券報告書としていることから、有価証券報告書は財務報告、すなわち財務情報を提供する報告書であるということになります。

欧米諸国では、投資家・金融機関等による投資・融資等の判断に資する情報は財務情報と考えられています。財務情報には狭義の財務情報(財務諸表)と広義の財務情報(有価証券報告書等の年次報告書)があり、国際基準では広義の財務情報が採用されているという見方もできます。

その結果、国際基準との整合性が取るためには、我が国では、有価証券報告書が財務情報ということになり、これまで非財務情報としていた情報を財務情報としなければならないことになります。

4.非財務情報は財務情報だった

我が国においては、会計基準の設定機関である財務会計基準機構(FASF)がサステナビリティ基準委員会(SSBJ)を設置し、国際基準を受けて、今後、日本におけるサステナビリティ開示基準を開発し公表することになります。

国際的に財務情報とされているサステナビリティ関連情報を我が国だけが非財務情報とすることはできないと思われます。

混乱を避けるため、非財務情報という用語を使わず、記述情報で統一するという裏技も考えられますが、この方法は正攻法ではないと思います。

有価証券報告書が財務情報であれば、有価証券報告書への記載が求められない情報は、非財務情報という定義になるのかもしれません。

このため、法令に基づかない任意開示のサステナビリティ報告書や統合報告書には、サステナビリティに関する財務情報と非財務情報が記載されることになります。

第三者による保証業務が将来制度化されるとしたら、まずはサステナビリティ財務情報がその対象になると考えられます。これは言葉の定義の問題であり、あまり拘っても実質上の意味がないかもしれませんが、今後、金融庁が財務情報をどのように定義するか注目されます。

文:久保 惠一(公認会計士)
ビズサプリ通信 メールマガジン(vol.165 2022.12.21)より転載

久保

学歴:1976年 大阪大学経済学部卒業

職歴:大学在学中に公認会計士試験に合格し、監査法人トーマツに入社。カナダバンクーバーの提携先会計事務所で実務経験。大手メーカーや銀行などの会計監査と株式上場支援を経験。監査法人内でリスクコンサルティング事業を立ち上げ、15名から450名の組織に拡大した。 監査法人トーマツのボードメンバー、デロイトトーマツリスクサービス株式会社代表取締役社長、トーマツ企業リスク研究所所長、情報テクノロジー本部長を歴任。石油公団資産評価・整理検討小委員会、東京電力点検記録等不正の調査過程に関する評価委員会、総合資源エネルギー調査会石油部会、原子力施設安全情報申告調査委員会などの政府委員会に参加。大手信販会社総会屋利益供与事件、信用情報機関の個人情報漏洩事件、東京2020オリンピック・パラリンピック招致に関わる海外支払の調査に関与。 元中央大学大学院客員教授

資格:•公認会計士•カナダ(ブリティッシュコロンビア州)勅許会計士

主な著書:•『東芝事件総決算』(単著、日本経済新聞社)•『水リスク−大不足時代を勝ち抜く企業戦略』(編著、日本経済新聞出版社)•『リスクインテリジェンス・カンパニー』(編著、日本経済新聞社)•『内部統制報告実務詳解』(編著、商事法務)

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