【特集】「さ」いたま市の謎

市民融和の象徴、地味に異彩放つ

画像 2画?3画?小学生を悩ませるさいたま市の「さ」画像 「さいたま市」の「さ」だけ字形が違う小学校用地図帳画像 さいたま市役所=4月

 小学校で使っている地図帳を見ていた6年生の息子が、不思議そうな顔をしている。巻末にある索引の「さ」の欄が、友だちと話題になったらしい。地図帳をはじめ小学校の教科書で、さいたま市の「さ」だけが2画につながった「さ」だ。ほかは埼玉県の「さ」も含め全部3画。誤植か?と思ったが、そうではなかった。2画の「さ」になったのには、深い深い理由があるのだ。

 ▽柔らかい2画

 さいたま市は2001年、浦和、大宮、与野の旧3市が合併して誕生した。合併が実現するまでには、新たな市名や市役所の場所などを巡り、旧市間で激しい主導権争いが繰り広げられた。

 合併に当たり、市が発信する文書に書く市名を、2画の「さ」に統一したのだという。関係者は「字形が混在していると、市がバラバラとの印象を与えかねない。統一して融合、融和を強調したかったのだろう」と当時を振り返る。

 さいたま市都市経営戦略部によると、「さ」の統一を検討する際、2画と3画のどちらが正しいのか、国立国語研究所(東京)に照会したという。回答は「ひらがなにおける標準とすべき定められた書体はない」。つまりどちらでも構わないとのことで、結局は2画が「柔らかい印象」との理由で決まったそうだ。

 当時は市民らから問い合わせなど反響もあったが、新聞や書籍、パソコンなど一般的な印刷や印字で使われるのは2画が多かったこともあり、あまり違和感は持たれなかったらしい。

 ▽教科書体

 一方、小学校用教科書の多くが3画の「さ」、4画の「き」を使っている。「さ」は2画目をはねて線を切り、3画目を右下に向けて引く。

 教科書大手の東京書籍(東京)によると、3画を使うのは、手書き文字の指導に配慮した書体「教科書体」を標準としているためという。2画で書く場合、2画目を右下から左上に上げて丸めるところが、特に右利きには書きにくいため、3画が慣例化したのではないかとみる。

 小学校用地図帳を手がける帝国書院(東京)は05年発行の版から、手書きと異なる字形で子どもが混乱しないようにと地図帳にも3画の教科書体を採用した。

 その結果、さぬき市(香川県)、さくら市(栃木県)、南さつま市(鹿児島県)も、漢字のふりがなも、「さ」は3画になったが、さいたま市だけは市の合併時の「さ」統一を反映し、2画を使った。このため、1冊に2種類の「さ」が登場し、混在が現在も続いているのだそうだ。

 東京書籍の地図帳も14年発行の版から、同様の対応をしている。

 ▽間違いじゃない

 では、答案に3画の「さ」でさいたま市と書くと「×」になるのかな?―息子たちは悩んだそうだ。

 さいたま市民はどうしているのか尋ねてみると、浦和区の高3女子(17)は「市名の『さ』が決まっていることは小学校でも教わらなかった」という。

 同市都市経営戦略部は「市役所から発信するときの使用を統一したものなので、一般の方がどちらの『さ』を書いても間違いではありません」。この見解は市のホームページにも載せてある。

 しかし市職員は手書きでも2画の「さ」を書くそうだ。「市役所内の決まりですから」と同部。たかが地名と言うなかれ、「さ」れど地名。市民の融和を目的とした「さ」が現在も、地図帳の中で地味に異彩を放っている。(共同通信=小森裕子)

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