目を引く巨人岡本、DeNA梶谷、中日大野雄…セイバーで見る9月のセ月間MVPは?

巨人・岡本和真【写真:荒川祐史】

他球団を引き離す巨人、安定感を誇る中日と阪神の救援陣

シーズンも終盤戦へと突入している2020年のプロ野球。セ・リーグでは巨人が首位を独走しており、他5球団が包囲網をかけて追随すべきはずが、返り討ちにあい、巨人には9月15日に優勝へのマジックナンバー38が点灯した。現在はそれは17まで減り、2位阪神との差は13.5ゲーム差まで広がっている。

そのセ・リーグの9月の月間成績は以下の通りとなった。

巨人 19勝6敗
打率.259 OPS.748 本塁打26 援護率5.26
先発防御率3.09 QS率53.8% 救援防御率2.66

中日 13勝11敗
打率.265 OPS.715 本塁打18 援護率3.91
先発防御率4.09 QS率32.0% 救援防御率3.21

阪神 13勝12敗
打率.253 OPS.726 本塁打31 援護率4.29
先発防御率4.34 QS率50.0% 救援防御率2.36

DeNA 11勝14敗
打率.259 OPS.731 本塁打28 援護率4.73
先発防御率4.84 QS率44.4% 救援防御率2.67

広島 9勝15敗
打率.257 OPS.705 本塁打22 援護率3.87
先発防御率5.63 QS率26.9% 救援防御率4.52

ヤクルト 9勝16敗
打率.254 OPS.713 本塁打30 援護率4.41
先発防御率4.58 QS率26.9% 救援防御率3.70

巨人はV9最終年である1973年8月以来となる月間20勝にこそ届きませんでしたが、貯金13で他の5球団との差を広げました。巨人のほか、9月に勝ち越したのは中日と阪神。どちらも投手力、特に救援投手陣に定評のあるチームで、着実にカード勝ち越しを積み重ねました。

中日は6回までリードしていた試合が月間で13試合ありましたが、その全てで勝利。シーズン全体で見ても、6回までにリードしていた場合は33勝2敗(勝率.943)、7月28日から25連勝となっています。

中日救援投手陣の9月成績は

R.マルティネス 登板10 防御率1.80 WHIP1.20 奪三振率16.2

祖父江大輔 登板11 防御率0.00 WHIP0.40 奪三振率4.5

福敬登 登板10 防御率3.86 WHIP1.50 奪三振率4.8

谷元圭介 登板10 防御率1.08 WHIP1.20 奪三振率2.2

と、チームの月間勝ち越しに大きく貢献しています。

阪神の救援投手陣も月間防御率2.36とリーグ1位の貢献を見せており、阪神も6回までリードすれば9月は8戦全勝。シーズン全体でも中日と同じく33勝2敗で、7月12日以来29連勝としています。

阪神は攻撃陣も月間本塁打31本と長打力が際立ちました。特に大山悠輔が9本、近本光司が5本と2人でチームの半数近くの本塁打を稼ぎました。ちなみに阪神の月間本塁打が30本以上となったのは、2010年8月に月間41本となって以来の出来事です。2010年8月は新井貴浩、城島健司、ブラゼルが6本、鳥谷敬、金本知憲、マートンが5本という内訳でした。

DeNA・梶谷隆幸【写真:荒川祐史】

梶谷は球団記録を更新する月間42安打を放つ

そんなセ・リーグの月間MVPは10月7日に発表される予定ですが、ここでは、セイバーメトリクスの指標による9月の月間MVP選出を試みます。

打者の評価として、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりもどれだけその選手が得点を増やしたかを示すwRAAを用います。

各チームのwRAA上位3名は以下の通り。

巨人 岡本和真10.89 坂本勇人9.92 丸佳浩6.89
DeNA 梶谷隆幸13.81 佐野恵太10.19 宮崎敏郎5.11
阪神 大山悠輔6.18 近本光司4.41 糸井嘉男4.10
広島 松山竜平3.76 菊池涼介3.16 大盛穂2.09
中日 アルモンテ6.18 平田良介3.00 大島洋平2.08
ヤクルト 村上宗隆12.04 青木宣親6.16 山田哲人3.53

シーズンを通じて巨人の4番を担ってきた岡本は8月は打率.212、OPS.721と不調に陥っていました。しかし、9月に入ると、打率.323、OPS1.013と復調し、打撃面ではチーム1位の貢献を示しました。本塁打王争いでも大山悠輔と競いリードしています。

DeNAの佐野とヤクルトの村上は開幕からチームの4番打者として全試合出場を果たしていますが、この2人は首位打者を争っています。双方とも月間のwRAAが10以上とチームに大きく貢献していることがわかります。

そんな中、今月最も打撃でチームに貢献したことを示した打者はDeNAの梶谷隆幸です。梶谷は今季、主に「1番・センター」として打率3割以上、OPS.900以上という安定した成績を残してきました。特に9月は月間安打数42本と、これまで佐伯貴弘、パチョレックが持っていた月間41本という球団記録を塗り替えました。また月間盗塁数7は近本の5を超えてリーグトップです。

1番打者ですから、打点ランクでは上位にはいませんし、本塁打5本も突出しているわけではなく、公式の月間MVPに選ばれるかどうかは分かりませんが、あらゆる打撃指標でリーグ随一となった梶谷が9月のセイバーメトリクス指標による打者部門のMVPと言えるでしょう。

梶谷隆幸(DeNA)wRAA13.81
打率.378 盗塁7 二塁打10(すべてリーグ1位)
OPS1.031(リーグ3位)本塁打5(リーグ3位)
出塁率.427(リーグ3位)長打率.604(リーグ4位)

中日・大野雄大【写真:福谷佑介】

大野雄は3勝全てが完封勝利、RSAAも群を抜く指標を叩き出す

投手評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す指標RSAA(FIPベース)を用います。各チームのRSAA上位3名は以下の通り。

巨人 菅野智之5.43 メルセデス2.27 中川皓太1.87
DeNA 石田健大5.91 三嶋一輝2.18 エスコバー2.21
阪神 高橋遥人4.73 西勇輝3.61 岩貞祐太2.67
広島 フランスア3.64 ケムナ誠2.79 森下暢仁0.68
中日 大野雄大10.65 福谷浩司6.71 R.マルティネス2.24
ヤクルト 石山泰稚3.66 マクガフ2.61 スアレス1.94

公式の月間MVPは2か月連続で菅野でしたが、8月に限れば、3試合全てで完投勝利だった中日・大野雄も有力な候補だったのではないでしょうか。大野雄は7月31日から9月1日まで5試合連続で完投勝利という球団記録を更新する活躍を見せました。その最初の試合か最後の試合が8月中であれば情勢は変わったように思われます。

6試合連続完投勝利をかけた9月8日の試合は巨人戦。しかも相手は菅野でした。大野雄は9回2失点とハイクオリティスタートを記録して6試合連続完投は達成しましたが、味方打線が菅野の前に沈黙して援護はなし。敗戦投手となっていまいました。

9月15日の登板では4回71球4失点と今季最短降板となってしまいましたが、9月1日、9月22日、9月30日にあげた勝利が全て完封勝利というかなりインパクトが強い記録を残してきました。結果的には3勝2敗という成績ではありますが、セイバーメトリクスの観点からも大きくチームの勝利に貢献しています。

よって9月のセイバーメトリクス指標による投手部門のMVPは大野雄大と言えるのではないでしょうか。

大野雄大(中日)RSAA10.65
防御率1.35 奪三振42 WHIP0.53 被打率.130 K/BB 10.5(リーグ1位)
奪三振率9.45(リーグ2位)
被本塁打1 QS率80% HQS率80%
※3勝全てが完封勝利鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

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