西城秀樹の初主演映画「愛と誠」は 人気アイドル × 人気コミックの先駆けだった!  西城秀樹主演!人気劇画「愛と誠」の映画化から40年

原作は梶原一騎、描いた壮絶過ぎる純愛巨編「愛と誠」

人気アイドルが人気コミックを原作とした映画に主演することは珍しくない。2020年代の感覚では当たり前のマッチングかもしれない。

では、その元祖はなにか? 江利チエミが主演した『サザエさん』(監督:青柳信雄 / 1956年12月公開)の存在はあるものの、文脈的に今の「人気アイドル×人気コミック」映画の源流といえるのは、1974年7月に松竹系で公開された西城秀樹主演作『愛と誠』だろう。

そもそも、いわゆるアイドル映画と、コミックを原作とした実写映画の制作本数が激増したのは1970年代に入ってからである。その背景には、日本におけるエンタメ系コンテンツのパワーバランスの変化がある。

70年代に往時の求心力を失った大手映画会社は自前の専属スターを育てづらく、またオリジナルのヒット企画を生み出しづらくなっていった。一方で、72〜73年頃よりテレビをホームグラウンドとする “アイドル” という存在が一般化し、特に若年層の心を掴んでいく。また、コミックのジャンルは多様に発展を遂げ、若者の必修科目となった。そこで映画業界はアイドルとコミックに頼るようになったのだ。

松竹は『同棲時代』(上村一夫)を原作とした『同棲時代 -今日子と次郎-』(監督:山根成之 / 1973年4月公開)がヒットしたことから、それに続く作品として、『週刊少年マガジン』(講談社)に連載中だった『愛と誠』(原作:梶原一騎、作画:ながやす巧)に着目した。

2023年でコミック連載開始50周年を数える『愛と誠』は、『巨人の星』『柔道一直線』『あしたのジョー』『タイガーマスク』『空手バカ一代』などで知られる劇画界の巨星・梶原一騎が初めて挑んだ “純愛” をテーマとした作品だ。財閥の家に生まれた成績優秀&スポーツ万能な “清純天使” 早乙女愛と、貧しく恵まれない生い立ちを背負った不良少年・太賀誠が、愛と真実のために命がけの戦いを展開する。

愛への一途な思いを貫く秀才・岩清水弘、“影の大番長” ことスケバンの高原由紀(*)、“影の校長” と呼ばれる巨漢・座王権太(*)らサブキャラクターの生き様も壮絶である(*映画『愛と誠』には未登場)。岩清水浩の「早乙女愛よ、岩清水弘は君のためなら死ねる」というメッセージはあまりに有名だろう。

梶原作品だけにスイートなラブコメ的要素はゼロ。全編がバイオレンスの連続で、人は泣き、叫び、震え、流血する。それを作画担当のながやす巧が緻密かつ繊細に描写している。

ヒデキの相手役にはオーディションで選んだ新人を抜擢

1973年3・4合併号から連載がスタートした『愛と誠』は短期間で高い人気を獲得し、1974年4月からは ニッポン放送で『青春ラジオ劇画・愛と誠』のタイトルでラジオドラマ化され、関連レコードも発売されている。実写化の企画が浮上するのは当然だった。

監督は『同棲時代 今日子と次郎』で実績のある山根成之が務めることになり、太賀誠役の演者が先に決まった。1973年9月にリリースされた『ちぎれた愛』がオリコン週間チャート4週連続1位を獲得するなど、文句なしのトップアイドルとなった西城秀樹である。

松竹で同年3月公開の浅田美代子(同事務所に所属)の主演映画『しあわせの一番星』(監督:山根成之)など助演歴はあったが、映画の主演はこれが初めてだった。

ただし、このキャスティングには原作の愛読者からの反発の声が多く挙がったとされる。コミックのファンが作品の実写化に際して配役に異議を唱えるのは半世紀前からあった現象なのだ。

次に関係者を悩ませたのが、原作ファンとヒデキファンの両方を激しく刺激することになりそうな早乙女愛のキャスティングだ。結果的にオーディションを開催し、まっさらな新人を起用することになった。ここで選ばれた当時15歳の女性は、“早乙女愛” という役名をそのまま芸名とした。

梶原一騎による虚構を極めた原作と山根成之監督のリアリティ追求を避けた劇画タッチの演出に、西城秀樹というスターの非日常的な存在感は見事にハマった。着崩した学生服姿で教室に佇むヒデキ、ボクシングやラグビーに興じるヒデキ、ラーメンを食べるヒデキ…… すべてに現実味がない。だからこそよかった。くわえて、新人・早乙女愛の拙い演技は、演じるキャラクターの無垢さを際立てる効果があった。

なお、制作時はまだ『愛と誠』が完結する以前だったが、映画では原作の第一部が描かれ、独自の解釈でストーリーに一応のピリオドが打たれている。

映画はシリーズ化、早乙女愛はユーミンの作詞・作曲による「魔法の鏡」デビュー

結局のところ、原作ファンもヒデキファンも劇場に足を運んだようで映画『愛と誠』は松竹を喜ばせるヒット作となった。

この西城秀樹初主演映画は映画史に残る名作ではないかもしれない。しかし、のちにアイドル映画やコミック原作映画が量産されるトリガーの一つであることは確かであり、その点では歴史に名を残している。

また、映画のヒットで『愛と誠』ブームはますます加熱し、1974年10月より東京12チャンネル(現:テレビ東京)で『純愛山河 愛と誠』のタイトルでテレビドラマ化。ここでは愛をオーディションで選ばれた新人の池上季実子が、誠をグループサウンズ、オックスの元メンバー夏夕介が演じた。

さらに、愛役はそのままに、誠役を南条弘二、加納竜と変遷させつつ『続・愛と誠』(監督:山根成之 / 1975年3月公開)、『愛と誠・完結篇』(監督:南部英夫 / 1976年9月公開)という2本の続編映画が制作されている。人気者となった早乙女愛がこれと前後して、荒井由実の作詞・作曲による「魔法の鏡」という曲でアイドルとして歌手デビューを果たす現象もあった。

カタリベ: ミゾロギ・ダイスケ

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