缶詰記念館に見る清水「缶詰産業」の源流|産業遺産のM&A

フェルケール博物館の裏手にひっそりと建つ「缶詰記念館」

日本を代表する漁港であり、港湾法上の国際拠点港湾、中核国際港湾、さらに港内における船舶交通の安全と港内の整頓を図ることを目的とする港則法上の特定港にも指定され、神戸港や長崎港とともに「日本三大美港」に数えられる清水港。その港を臨み、大きな博物館が建っている。フェルケール博物館だ。

港湾都市・清水を象徴する博物館

フェルケール博物館は正式な名称を清水港湾博物館という。世界の主要港を定期航路で結ぶ国際貿易港「清水港」をテーマに、港湾の成り立ちをはじめ、地域の歴史との関わり、将来の港湾の姿などを展示紹介。また、「清水の港に、にぎわいを!」と各種の企画展や美術展、ミュージアムコンサートなどを催してきた「港の博物館」である。

フェルケール博物館として開館したのは1991年5月。それまでは清水港湾資料館と称し、清水港の歴史資料を収集・紹介していた。創立者(初代理事長)は第7代の鈴木與平。大手物流会社、鈴与グループ創業家の7代目である。

フェルケールとはドイツ語で交通や交際・交流などのこと。国際貿易港、工業港、漁港、さらに観光港として、すなわち海上交通・交流の要衝として栄えた清水港の歴史を今に紡いでいる。

裏手にある、もう1つの博物館

このフェルケール博物館の裏手に、フェルケール博物館と比べるとまさに“大邸宅に隠れる納屋”のようにひっそりと建つ小さな木造建築物がある。それが缶詰記念館。缶詰のパッケージや缶詰の中身を加工する際に使った調理道具など、小規模ながら缶詰の歴史を展示紹介している。

缶詰記念館の建物は、今から90年以上前の1929年に日本で初めてまぐろ油漬缶詰を製造し、アメリカに輸出した清水食品の創業当時の本社社屋だった。創業当初、清水食品本社はフェルケール博物館のある清水区港町に隣接する築地町にあったが、しばらくして本社屋を移設し、今日を迎えた。この缶詰記念館は、いわば清水の缶詰産業がスタートを切ったことを示す歴史的建造物である。

清水の缶詰はこの缶詰記念館で産声を上げ、港湾都市清水を支える産業の1つにまで成長した。清水港から輸出される主要な製品というだけでなく、日本の輸出貿易を支える役割を果たしてきたということもできる。

6代目・與平、失業対策として清水食品を設立

清水食品はその社名より、「缶詰のSSK」といったほうが馴染みがある人も多いだろう。清水食品もまた鈴与グループの創業家、鈴木與平の興した会社である。

江戸期の1801年、初代鈴木與平が播磨屋という回漕業を始めた。江戸幕府から営業上の特許を付与されてきた特許問屋の1つである。それから100余年、播磨屋の当主は代が移るごとに鈴木與平を名乗った。そのため、播磨屋與平とも呼ばれていた。

初代、2代と続き、播磨屋は3代鈴木與平の時期、他の特許問屋と同様に、天保の改革に伴い一時的にではあるものの問屋特許を停止されてしまう。その苦難を乗り越えたのが3代鈴木與平。事業を拡大したのが4代鈴木與平であった。4代鈴木與平の時期に、播磨屋は鈴木與平商店と改称する。

1900年代に入り、清水は開港場、外国貿易港となり、5代鈴木與平の時期に貿易額は1000 万円を突破、さらに事業を多角化していった。6代鈴木與平は清水港を近代的港湾に整備した。一方で国際貿易港である清水には、1927年の金融恐慌から1929年の世界恐慌に向かう大恐慌による失業者が溢れていた。その救済の目的もあり、6代鈴木與平は新たな会社を設立した。それが清水食品だった。


1970年代から浸透したSSKブランドのツナ缶

清水食品は鈴木與平商店において、文字どおり食品事業に特化した新事業であった。日本で初めてまぐろ油漬缶詰を本格的に製造・輸出し、翌1930年にはミカン缶詰を製造・輸出するようになる。

1969年には、まぐろ油漬缶詰を「ホワイトツナ」の名称にして国内販売も始めた。やがて、まぐろ油漬缶詰は原料となる魚種も多種になり、ツナ缶という呼び方をするようになった。

ちなみに「シーチキン」という名称も馴染みがあるが、それは、はごろもフーズが商標登録しているツナ缶のことである。

清水食品がその社名よりSSKというブランドで広く知られるようになったのは、1975年に東北SSK食品という会社を設立して以降のことだろう。1978年に清水食品はエスエスケイフーズを設立している。

1980年以降、清水食品ではマヨネーズ製造事業を1984年にエスエスケイフーズに譲渡したり、1999年に設立した焼津エスエスケイ食品と清水食品の飲料事業を2004年にエスエスケイフーズに譲渡したり、一方で2005年に東北SSK食品を清水食品が吸収合併したりと、活発なM&Aを繰り返してきた。

2011年には、SSKセールスとSSKプロダクツという会社を設立し、 清水食品の販売事業をSSKセールスに、製造事業をSSKプロダクツに譲渡。これら一連のM&Aは清水食品の独自の判断というより、鈴与グループの一員として行われたものだ。

最近では、2016年にSSKセールスがSSKプロダクツを吸収合併して製販一体化し、2020年には清水食品がSSKセールスを吸収合併している。

鈴与も清水食品も非上場であるだけに、M&Aの話もあまりオモテに出ることはない。しかし、鈴与は今日、グループ全体で年商約4500億円、鈴与単体で年商約1500億円という大企業に成長した。

清水食品は年間売上高を公表していないが、資本金1億円、従業員300人を超える。だが、清水食品の旧本社屋である缶詰記念館の“大邸宅の裏庭にひっそりと建つ納屋”のような姿は、鈴与における清水食品の存在を象徴しているかのようだ。

清水港の歴史を振り返り、港湾の将来を展望するフェルケール博物館

文:菱田秀則(ライター)

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