楽天球団の元社長がファンドで町おこし「PROSPER」の立花陽三社長に聞いた

立花陽三PROSPER社長

地域の活性化に貢献することを目標にしたファンド「PROSPER 日本企業成長支援ファンド」が2023年5月に立ち上がった。同ファンドを運営するのはプロ野球球団・東北楽天ゴールデンイーグルスの元社長で、ファンド運営会社PROSPER(東京都千代田区)の立花陽三社長。どのような手法で地域活性化とファンドを結び付けるのか。立花社長にお聞きした。

塩釜港=マグロとなれば勝ち

-地域の活性化を目的にファンドを組成されました。きっかけは何だったのでしょうか。

外資に勤めていた時に震災(東日本大震災)があり、資金面で支援をさせていただこうと被災地を回った経験がある。個人の方に寄付をしようと考えていたが、何もできなかった。

そんな時、東北楽天ゴールデンイーグルスからお話があり、これは縁だなと感じ、スポーツを通じて被災地のために何かやりたいと思った。球団社長に就任して被災地を回わる中で、復興の様子を見ていていろんなことを感じた。

例えば被災地に観光に来ていただくことが一番の地域支援になるのだが、こういうことは報道されることはなく、だんだんと3.11の日だけの報道になっていった。

こうした経験を踏まえ、地域の支援になるのは何かを考え、ファンドをやってみようという結論に達した。

-どのような形で地域を支援されるのですか。

消費者向けのビジネスであれば何でもやろうと思っているが、特に観光や飲食、スポーツなどの分野で、企業に出資し経営権を取得したうえで、対象企業の価値を高めていく計画だ。同時に対象企業の価値を高めるだけでなく、地域全体の活性化につながるような方向にもっていきたい。

実はファンドを始める前に個人で「廻鮮寿司 塩釜港」(宮城県塩釜市)の事業を引き継ぎ、現在同社の会長兼社長に就任している。塩釜港はマグロの水揚量が日本一なのに、このことはあまり知られていない。

この事実をうまくアピールし「廻鮮寿司 塩釜港」の事業を拡大することを考えており、近く東京に出店し、その後海外にも展開したいと考えている。そして塩釜港=マグロと言われるようにしたい。そうなれば勝ちで、「廻鮮寿司 塩釜港」1社の価値が高まるだけでなく、地域の活性化にもつながるだろう。こうした取り組みをファンドでもやっていくつもりだ。

-具体的な支援は誰がどのように行うのですか。

ファンドの運営を行う無限責任組合員となる企業にはPROSPERとPlan・Do・See(東京都千代田区)の2社が出資している。Plan・Do・Seeはブライダル、ホテル、レストランなどを運営している企業で1000人ほどの社員がいる。

Plan・Do・Seeの社員は宿泊や飲食などについて深い知見があり、こうした人達に経営権を取得した企業に入ってもらい、価値を高めてもらおうと考えている。ファンドなのでいずれ傘下に収めた企業を売却することなるが、対象企業の支援に携わったPlan・Do・Seeの社員による MBO(経営陣による買収)などもあり得るだろう。

ファンドにはすでに福岡銀行、三井住友信託銀行、ゆうちょ銀行などに出資していただいており、最終的には200億円の規模にする。200億円で何ができるのかと言われると、大したことはできないかも知れないが、地域の活性化を模索していきたい。


スポーツ企業2、3社に出資も

-支援ということを考えると、経営に行き詰った企業が投資先になるのでしょうか。

そうした再生型の投資もあるかもしれないが、事業承継が多くなるのではないだろうか。先日も相談を受けたのだが、年齢を考えるとこの先、売り上げを2倍、3倍に増やすことは難しく、従業員を守るためには外部の方にお願いした方がいいという考えのオーナーの方は少なくない。

ファンドというと100のものを50だとか20で買って、100に戻して売るというのが、よくあるが、我々は100のものを70、80で買って200にすることが仕事だと考えている。これをやらないと地方創生にならない。20で買って50で売ってもファンドとしては成り立つが、地方にはあまりメリットがなく、これでは我々がやる意味がない。

「あの会社のおかげで最近この辺は元気になったね」と言われるようなコミュニティーを作りたい。こうした姿にするためには人と資金が必要で、この両方をできるのがファンドであり、ファンドを作りたかったのではく、ファンドしか地方創生ができないのではないかと考えた。

-第1号の投資先はどこの企業になりそうですか。

いくつか話をいただいており、九州の案件が多い。個人的には東北に関心がある。東北はインバウンド(訪日外国人旅行客)の戻りが遅いので、そこには何とかかかわりたいと考えている。スポーツでも数社に出資したい。スポーツは地域にいい貢献ができるだろう。

立花陽三PROSPER社長

【立花陽三(たちばな・ようぞう)氏】
1994年、慶応義塾大学卒業後、ソロモンブラザーズ証券に入社
1999年、ゴールドマン・サックス証券に入社
2010年、メリルリンチ日本証券に入社
2011年、メリルリンチ日本証券執行役員に就任
2012年、東北楽天ゴールデンイーグルス球団社長に就任
2017年、楽天ヴィッセル神戸(ヴィッセル神戸)の代表取締役社長に就任
2022年、PROSPERを設立、代表取締役に主任
2022年、廻鮮寿司 塩釜港の会長兼社長に就任
1971年1月生まれ、東京都出身

文:M&A Online

M&A Online

M&Aをもっと身近に。

これが、M&A(企業の合併・買収)とM&Aにまつわる身近な情報をM&Aの専門家だけでなく、広く一般の方々にも提供するメディア、M&A Onlineのメッセージです。私たちに大切なことは、M&Aに対する正しい知識と判断基準を持つことだと考えています。M&A Onlineは、広くM&Aの情報を収集・発信しながら、日本の産業がM&Aによって力強さを増していく姿を、読者の皆様と一緒にしっかりと見届けていきたいと考えています。

© 株式会社ストライク