【ブラジル日本移民115周年記念特集】《記者コラム》環境と先住民族は政権の中心課題=切っても切れない緊密な関係

マリーナ環境相(左)とカポビアンコ環境副大臣(5月30日付フォーリャ紙の記事の一部)

 5月30日にサンパウロ市で開催された教育調査研究所(Insper)による経済回復に関するセミナーで、マリーナ・シルヴァ環境・気候変動相が「ルーラ大統領は環境省と先住民族省の帰属を守るため、最後の瞬間まで努力すると語った」とし、環境問題や先住民族問題は現政権の中心課題であることと、連邦政府の環境政策における他省庁との相乗効果を示そうと努めたと同日付フォーリャ紙が報じた。

特別委員会による組織再編の暫定令修正を受けて行われた会見で原案に戻すよう努力すると語る政府関係者達(©Fabio Rodrigues Pozzebom/Agencia Brasil)

 このセミナーは、連邦議会特別委員会が修正した組織再編の暫定令(MP)1154号を上下両院本会議で承認する直前開催で、冒頭の「環境省と先住民族省の帰属を守る」との言葉は、環境省傘下の3機関と先住民省傘下の先住民族保護区制定機関を他の省庁に移すという修正点を、原案の形に戻す努力を続けることを意味した。
 同MPは5月31日と6月1日に下院と上院で審議され、4機関を他の省庁に移すことを含めて承認された。ジョアン・パウロ・カポビアンコ環境副大臣は、連邦政府が整えた組織図の修正は企業経営者が企業の行方を決めるのを妨げるようなものと例えたが、「良くはないが、世界の終わりという訳でもない」と語った。ただし、国内外の環境団体や活動家はMP修正が現政権の環境政策に与え得る影響に注目している。

現政権の環境への取り組み

法定アマゾン(Valter Campanato/Agencia Brasil)

 現政権は発足前に、マリーナ氏やルーラ氏がエジプトでの国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)に出席。2025年のCOP30招致も含め、気候変動や環境問題、先住民の人権問題に積極的に取り組む姿勢を見せてきた。
 この姿勢は、「連邦政府には気候や生物経済、その他の課題に取り組んでいる省庁が19あり、互いに対話を交わしている」という環境相の言葉や、セミナー主催者からの提案に財務省などの主要官庁における気候変動の取り組みが含まれているからも明らかだ。
 農務、財務、農業開発の各省と協力して作成し、6月6日に公表したサフラ計画はその一例で、低炭素農業を実現するため、低炭素実践レベルに従って農業生産者への金利を下げることを予定しているという。
 現政権は、財務省をトップとする生物経済への取り組みも開始。生物経済は生物工学(遺伝学、分子生物学、生物化学などとそれらの応用技術)を活用した経済活動全般を指す。バイオ燃料やバイオプラスチック、発酵で生じるガスの利用、再生医学などは典型例だ。

先住民族保護区と環境との関わり

 そういう意味では、先住民保護区制定は現行憲法公布の時点で先住民達が当該地域に住み、文化、生産活動などを行っていたかを基準とすることなどを定めた法案(PL)490/07号も関心事だ。5月30日に下院が承認した。
 先住民保護区や先住民居住地では自然や生物相がよく保たれている。だが、金鉱夫の不法侵入や不法採掘、製材業者や牧場主による不法伐採や不法開発は持続性や住民の健康、安全面を無視し、生物相も破壊している上、気候変動にも悪影響を与えていることをPL490は考慮していない。既に制定された保護区解除まで認める同法案には何年も前から批判の声が出ており、2021年以降は抗議行動も頻繁に起きている。

カンヌ国際映画祭で入賞が決まって喜ぶ映画監督や出演者達(5月27日付アジェンシア・ブラジルの記事の一部)

 抗議行動は今も続いており、先住民族省は同法案の承認は先住民族大虐殺と批判。トカンチンス州北部に住むクラホ族が土地やより大きな自由、先祖伝来の儀式やコミュニティ本来の性質を守るために80年間続けて来た闘争の歴史を描いた長編映画の「ア・フロール・ド・ブリチ」に出てくる1940年の虐殺はその一例だ。同法案は直接・間接の大虐殺を起こし得る。同長編は国際的にも注目され、5月27日に開かれたカンヌ国際映画祭でアンサンブル賞(最優秀チーム賞)を受賞。
 ブラジルは1500年に発見されたといわれるが、先住民達にとり、1500年は侵略・侵入の年だ。しかも、近年は金の不法採掘や不法伐採などで環境や生態系の破壊が起き、先住民だけでなく、ポルトガルその他の国からの移住者達も様々な被害を被っている。資金不足などで監視機関が機能しなくなったこともあり、環境や生態系の破壊はより進んだ。
 気候変動も含めたグローバライゼーションの動きは地球が運命共同体であることを示している。情報化社会故に法定アマゾンの森林伐採や先住民の人権問題への注目度も高まるが、各地域をよく治めることは世界を救うことにも繋がる。(み)

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