学生の自主性・主体性が育まれる 龍谷大学先端理工学部の「R-Gap」という仕組み

2020年に理工学部から改組した先端理工学部では、デジタルで全てがつながる社会「Society 5.0」を念頭に、現在の「専門性」という縦軸に対して「他の技術や分野を俯瞰して統合する」という横軸の展開が必要だという議論から、国内の理工系学部初となる「課程制」を導入した。これによって、他課程のプログラムも取り入れた分野横断型の学びが可能となり、専門性を磨きながら広い視野をもって社会的課題の解決に挑戦する理工系人材を育成する土台が整えられた。
また、1年間を4学期に分けて学ぶクォーター制を取り入れ、3年次の第2クォーターと夏休みを合わせた約3か月間、必修科目を設定せず学生が主体的に学べる「R-Gap(Ryukoku Gap quarter)」という期間を設け、調査・研究活動やインターンシップ、海外での活動など、幅広いプログラムを通して、学びに対する自主性・積極性を育む。

必修科目を設定せず学生が主体的に学ぶR-Gap期間

R-Gap期間には『プロジェクトリサーチ』『理工インターンシップ』『グローバル人材育成プログラム』の3つのプログラムを含め活動内容を自由に設計することができる。ボランティア活動をしたり、もちろん従来通り授業を受けることも可能だ。

学生の自発的な発想で調査・研究活動を行うプログラム『プロジェクトリサーチ』では、個人もしくは少人数のグループで課題を設定し、調査・研究活動、成果発表までを行う。

また、先端理工学部での学びを活かし公的機関や企業などへ出向いて短期間の実務を経験し将来のキャリアに役立てる『理工インターンシップ』、約2週間の海外研修を軸として、グローバルな視点で現地企業での就業体験や、産業を支える技術力について理解し、プログラムを通じて英会話の練習や報告書作成、学修成果のプレゼンテーションなども経験する『グローバル人材育成プログラム』の3つがある。

いずれも学生の主体性を喚起し、将来につながる学びの一環として取り組みを進める点に特徴がある。所定の手続きに沿って活動の目的や成果を報告すれば、通常の科目と同様に単位が認められる仕組みとなっている。

ロボカップへの出場という具体的な目的を持つことで理解が深まった

R-Gap 期間中に『プロジェクトリサーチ』として「強化学習の実践(ロボカップへの出場)」に取り組んだ電子情報通信課程4年生の安田尚平さん。もともとロボットが好きだったというが、動画サイトをきっかけに強化学習に興味を持つようになった。「はじめはぎこちない動きをしていたロボットが、強化学習によって本当に生きているみたいに自然に動くようになっていくのが面白いと思いました」と話す安田さん。強化学習とは、コンピュータが動的環境の中で試行錯誤を繰り返すことでタスクの実行を可能にする手法のことだ。

「R-Gap の事前相談会で、強化学習を研究している先生が先端理工学部にいることを知って、友人たちと先生に話を聞きに行きました。そこで先生から、皆で強化学習を勉強し、その成果を試すために『Robo Cup世界大会』を目指すチームが集まる『ロボカップ ジャパン オープン2022』に出場してはどうかという提案を受けて挑戦することにしました」。

まずはロボットを制御するROS(Robot Operating System)と強化学習についての勉強をはじめ、ロボカップの課題をシミュレータ上でクリアし、強化学習プログラムを実装、最終調整を経て大会へ出場するという計画を立案した。

「出場までには、予期せぬトラブルが発生したり、メンバー間での役割分担が上手くいかなかったりと大変なこともありましたが、ロボカップに出るという目的を持って強化学習やROSに取り組めたからこそ、より深い理解が得られたと思います」と語る安田さん。現在も、R-Gapの『プロジェクトリサーチ』でのこの取り組みを機に指導を受けるようになった植村渉准教授の研究室で学びを継続し、将来は大学院でロボット研究に取り組む予定だと言う。

自分の興味・関心を後押してくれたR-Gap

『理工インターンシップ』を選択した知能情報メディア課程4年生の土井春奈さん。「1、2年次の座学で基礎的な理論は学んでいましたが、ネットワークは目には見えない技術。だからこそ、以前からネットワーク構築やデータの流れ、セキュリティ対策の仕組みなど、実際にどう動いているのかを知りたいと思っていました」と、ネットワークセキュリティソリューションサービスを展開する企業で、2週間のインターンシップを経験した。

インターンシップの技術実習の最終課題では、「実習前半で学んだネットワークを構築するために必要な基本コマンドを活用し『アクセスポイントを使ってWi-Fiに接続、インターネットを閲覧する』というゴールだけが設定され、プロセスは個々に任されました。正解を教えてもらうのではなく、自分で必要なコマンドを調べ、トライ&エラーを繰り返しながら正解を探っていく経験は、今後もさまざまな場面で役立つと感じています」と、その体験を振り返る。その他にも、社員同士が教え合い技術を高め合う雰囲気の重要性、エンジニアにもコミュニケーション能力が必要であることをインターンシップを通じて実感したという。

「1、2年次からインターンシップに興味はあったのですが、なかなか行動に移すことができずにいました。R-Gap期間中の単位として認められることが後押しとなりました。自分がやってみたいこと、知りたいと思ったことに対して、大学が動きやすい機会をつくってくれているのは、ありがたいことだと思います」と、R-Gapのインターンシップでの経験の成果について話してくれた。

R-Gapの主幹を務める環境生態工学課程の奥田哲士教授は「大学とは、もともと主体性、自立性をもって学ぶ場です。R-Gapは、その姿勢をより実践しやすい仕組みだと考えています」と語る。

「R-Gap 期間の活動は学生によって異なりますが、自分の学びに対して、実際に社会に通用するかしないか、掘り下げたり修正したりする『試行錯誤』の繰り返しが『自信』や、その後の学業や社会に出てからの『チャレンジ精神』につながると感じています」と、R-Gap の意義を強調した。

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