「部活の熱中症対策」続報 子の安全確保なおざり 保護者負担 増える一方

 中学校部活動の熱中症対策について、長崎市内の保護者が感じる不安を8月27日付の本紙で紹介したところ、他にも県内の保護者や教諭から体験談や意見が相次いで寄せられた。教諭の負担軽減などを目的とした「部活動の地域移行」が進む中で、子どもたちの安全確保策がなおざりにされたり、保護者の負担が増えたりしている現状が浮かび上がった。

 ■指導の徹底を
 「計測器さえない状態だった」。県内の中学校に勤める男性教諭Aさんは、熱中症の危険度を調べる「計測器」が複数の練習場所で用意されていなかったと明かす。湿度や気温などを基に算出する「暑さ指数」を測る機器で、県教委のガイドラインは場所ごとに測定するよう求めている。
 Aさんは校長らに「事故が起こってからでは遅い」と訴え、計測器を追加購入してもらった。以前勤めた学校では、暑さ指数が危険水準を超えたことを知らせるアラームを止め、練習を続ける教諭もいたという。
 Aさんは「個人に対策が放り投げられている」状況が背景にあるとみて、管理職が統一した方針を示して指導を徹底する必要があると指摘。保護者にも部活動の中止・実施の判断基準を丁寧に説明し、学校と保護者が共通理解を持つことも大切と考えている。

 ■無理して走る
 長崎市内の中学2年女子の母親Bさんは、熱中症対策をおろそかにする指導者や学校に不信感を抱く。娘の部活は屋内球技だが、外部コーチの方針で屋外のランニングが課される。Bさんも体力づくりの必要性は理解するものの、猛暑を受けて他の部活がランニングを中止する一方で、娘の部活では続いていることに不安を覚え、他の保護者と共にやめるよう求めた。
 だが学校側は「コーチから走らせるよう言われている」の一点張り。あらためて中止を訴えると「部員個人の判断に任せる」との回答だった。Bさんは「責任逃れ。大人から各自の判断と言われたら真面目な子どもほど無理をして走ってしまう」と危惧する。
 ランニング時は暑さ指数を計測しておらず、顧問教諭やコーチが不在で見守りが保護者1人の時もある。「まだ暑い日が続く。保護者の意見に耳を傾け、安全面に配慮する人に指導者を務めてほしい」とBさんは切実な思いを語った。

 ■仕事を休んで
 部活の地域移行が進む過渡期にあって、保護者の負担が増えている実態もあるようだ。県央の中学1年男子の母親Cさんは「部活動スタートから終了まで保護者の見守りがないと活動できない」と学校から伝えられた。顧問教諭が部活に来ることはほぼなく、夏休みや平日放課後も保護者の見守りが必要。当番でたびたび仕事を休まざるを得ない保護者もいる。
 負担軽減のため、同じグラウンドで練習する他の部活の保護者と協力し、保護者1人で二つの部活を見守るようにしたが、夏休みにはヒヤリとしたケースも。具合が悪くなった部員を保護者が自宅へ連れて行く間に、残された他の部員も体調を崩した。この日は、たまたま他の部活のコーチが対応し大事には至らなかった。Cさんは「今年の夏休みは何とか乗り切ったが来年も不安。保護者1人でどう対応すればいいのか」と吐露した。


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◎夏休み明けの今、要注意 長崎大大学院 峰松教授

 学校における熱中症の注意点や対策について、学校行事や部活動での熱中症事故などに詳しい長崎大大学院の峰松和夫教授(学校保健学)に聞いた。9月に入っても暑い日が続く中、峰松氏は「長期休暇明けは熱中症の危険が高まるので要注意」と警鐘を鳴らす。
 夏休み中は空調の効いた自宅などで過ごす時間が増え、登下校もないため、特に運動部の練習などがない子の場合は「汗腺が開きにくい(汗をかきにくい)体質になっている」と指摘。休み明けに体育の授業などで急に激しい運動をすると、体の熱を放出できず熱中症リスクが高まるという。峰松氏によると体を暑さに慣らす「暑熱順化」には1~2週間必要で、徐々に運動を始めるよう求める。
 暑さに一定慣れた運動部員も注意が必要だ。峰松氏が過去に発生した熱中症事故を種目別に調べたところ野球やラグビー、柔剣道、卓球など「屋内外を問わず発生している」と指摘。さらにランニングやダッシュ時の事故は多く、学校の種別が変わり運動強度が急に増す中学1年や高校1年の事故も特に目立つという。
 対策の一例として▽休憩時も首や足の付け根、脇下を冷やす▽靴下を脱いではだしになり熱を放散させる-などを紹介。顧問教諭や外部指導者が運動前に部員の健康観察を行うことも大切で、部員と一緒に対策を考えることや、部員が正直に体調不良などを申告できる関係づくりも求める。「部活動の地域移行」が今後進む中で「これまで教諭が担った指導や安全対策が、主に外部の指導者らに移っていく。指導者の事前研修を徹底すべき」と強調した。


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