【宝ホールディングス】海外企業の買収で世界に日本酒や日本食を拡大

宝焼酎ピュアパック

焼酎や日本酒、みりんなどを生産する宝ホールディングス<2531>が海外M&Aを加速させている。同社はこの1年ほどの間に米国、カナダ、スペインで、日本食材卸や日本酒メーカーなど4社を傘下に収めた。

2024年3月期から2026年3月期までの3カ年の中期経営計画に、日本食文化を世界中に広めるのを目的に「和酒・日本食拡大」をビジネスモデルとして掲げており、この目標達成に向けた取り組みの一つとして海外企業の買収を積極化しているのだ。

中期経営計画によると2026年12月期までの3年間にM&Aをはじめ倉庫機能の拡張や製造能力の増強などに169億円を投じる。これまでの4件の株式取得額は非公表のため残りの投資可能額がどの程度なのかは不明だが、中期経営計画がスタートして、まだ半年ほどのため、しばらくは海外M&Aが続く可能性は高そうだ。

日本食材卸網の拡充に注力

宝ホールディングスは、酒類の製造と国内外販売を手がける「宝酒造・宝酒造インターナショナルグループ」とライフサイエンス事業を手がける「タカラバイオグループ」の二つのビジネスを展開している。

海外企業の買収に動いているのは、宝酒造・宝酒造インターナショナルグループで、チャネルの多角化や、新規エリアの開拓、差異化商品の開発などに取り組み、市場の成長を大きく上回る飛躍的成長を目指す計画だ。

この1カ月ほどの間に公表したM&Aを見てみると。直近は2023年9月の米国の日本食材卸のミナモトホールセール(テキサス州)の子会社化がある。テキサス州南部での営業強化と物流効率化が主な目的で、これによって、米国での日本食材卸の拠点数はこれまでの11州12拠点から11州13拠点になった。

米国での日本食材卸の拠点数については、2022年12月のYamasho(イリノイ州)、Karolina(フロリダ州)の子会社化によって、それまでの8州9拠点から11州12拠点に拡充していた。

このほかカナダでは、日本食市場向けに日本酒や、これをベースとするカクテル類を生産している2241559 Ontario(オンタリオ州)を2023年5月に子会社化し、同国の日本酒や日本食市場で事業基盤を強化した。スペインでも2022年9月に、日本食材卸網の拡充や日本酒などの販売強化を狙いに、日本食材卸のアマラン(アンダルシア州)の子会社化を決めた。

中期経営計画では宝酒造インターナショナルグループの事業戦略に、海外日本食材卸事業の拡充を目標に掲げ「M&Aなどによって新規拠点を展開する」としており、中期経営計画の残りの期間も積極的なM&Aが予想される。


新型コロナの検査試薬で大ブレに

宝ホールディングスは1842年に京都の伏見で日本酒の生産を始めたのが始まり。その後、焼酎やみりんを製造し事業の基盤を作ったあと、数多くのM&Aで業容を拡大していった。

同社の沿革によると、1926年に帝国酒造の合併を皮切りに、3年後の1929年には東京と広島の酒造会社を合併、さらに5年後の1934年にはワインメーカーなども買収した。

しばらく間が空いて2013年に英国の日本食材卸会社を子会社化した後は、再びM&Aを活発化。2014年にスペインの日本食材卸会社を、2016年にポルトガルの日本食材卸会社を、2017年にオーストラリアの日本食材卸会社を、2020年に日本の食料品卸会社を相次いで子会社化。このあと、この1年ほどで4件のM&Aへとつながっていく。

こうした取り組みもあり、売り上げは順調に推移している。コロナ禍の影響で飲食店向けの酒類販売が落ち込んだ2021年3月期に減収になったものの、2024年3月期は3期連続の増収を見込む。

2024年3月期第1四半期に、ソフトアルコール飲料や、本みりん、原料用アルコールなどが増収となったほか、海外酒類事業、海外日本食材卸事業も好調に推移していることから、2024年3月期の全社売上高は前年度比1.2%増の3550億円を予想する。

一方、利益の方は厳しい状況にある。2023年3月期に営業減益となったのに続き2024年3月期も2期連続の営業減益が避けられない状況だ。

2022年3月期に、タカラバイオグループで開発した新型コロナウイルスのPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査関連試薬が大幅に伸び、タカラバイオによる営業利益は289億200万円に達した。同期の全社の営業利益は433億5400万円(前年度比2倍)だったため、タカラバイオが全体の3分の2を稼ぎ出した計算になる。

ところが、新型コロナウイルス感染症の法令上の位置づけが2類から5類に変更になったことなどから、検査関連試薬の販売が減少。2024年3月期第1四半期の営業利益は4億2300万円と前年同期に比べ90.7%減少した。こうしたことから2024年3月期の全社の営業利益は30.7%減の264億円に留まる見通しだ。

ただ、新型コロナという特殊な要因を除けば、2021年3月期の215億9500万円から2024年3月の264億円へと、緩やかな増益のグラフを描くことができる。


海外売上比率が60%以上に

中期経営計画では、2026年3月期に売上高4200億円以上、営業利益380億円以上を、数値目標として掲げる。2023年3月期と比べると19.7%の増収ながら営業利益は横ばいに留まる。ただ新型コロナウイスによる特需がなくなる2024年3月期と比較すると、43.9%の営業増益となる。

また同期の宝酒造・宝酒造インターナショナルグループの海外売上高比率は60%以上で、2023年3月期の48.3%から11.7ポイント上昇する。この数字からは、海外企業のM&Aが今後も進んでいくことが予想される。

22.2%の売上高構成比(2023年3月期)と、営業利益の54.1%(同)を占める、もう一つの経営の柱であるタカラバイオグループでは、試薬、機器事業の拡大に取り組むとともに、CDMO(Contract Development and Manufacturing Organization=医薬品開発製造受託機関)事業の大幅な拡充なども進め、臨床や創薬分野に事業領域を拡げていく計画だ。

2021年3月期から2023年3月期までの前中期経営計画では「足元を固める3年間」としていたのを、2026年3月期を最終年とする現中期経営計画では「成長・強化領域への投資を加速させ、企業価値を高める3年間」としている。

今後3年間は、宝酒造・宝酒造インターナショナルグループ、タカラバイオグループともに投資がキーワードになりそうだ。

文:M&A Online

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