【サンデー美術館】 No.306 「垣間見る男」

▲《源氏物語絵巻》第五帖 若紫(部分)毛利博物館蔵

 この男、光源氏。作品解説によると〈垣間見〉しているらしい

 「んっ、垣間見?」―通常の用法とはちょっと違うような・・・

 現在はきっとこんな感じ―「妻の言葉の端々から私に対する尋常ならざる怒りが垣間見える。私はいったい何をしでかしてしまったのか。はー、どうしよう」

 一方、その昔の〈垣間見〉とは、「ものの隙間からひそかに覗き見る」こと。高貴な女性がそう簡単に人前に姿を現さない時代にあっては必須のアイテムである。これなしには色恋が始まらない。だから(?)、県庁マンの端くれである私は妻を垣間見たことはない

 それはともかく、平安の若手高級官僚にして、将来を約束された才気溢れるこの色男。垣根越しにとある山荘をのぞき見し、後に最愛の女性となる一人の少女を見初めるのである。源氏物語序盤のハイライト

 しかしね、見初めた理由が「ああ愛しい藤壺さまにそっくり」って、どうなのよ!

 ※特別展「源氏物語絵巻」(12月3日まで)展示作品より

山口県立美術館副館長 河野 通孝

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